16話 稽古
宿の裏手にある、そこそこの広さの庭。
そこで俺は、ユナとアズと対峙していた。
「「……」」
二人は、それぞれ構えを取り、真剣な表情でこちらを見る。
俺も意識を集中させて、ユナとアズの一挙一足に目を配っていた。
「……はぁっ!」
アズが地面を蹴る。
矢を撃つかのような加速で、一気に飛び込んできて蹴撃を放つ。
ただ、その動きは直線的でとてもわかりやすい。
「甘い」
「ひゃん!?」
足を払い、アズをコケさせた。
「お姉ちゃん!? くっ……ファイア!」
ユナが火球を放つ。
しっかりと魔力が込められていて、強い力を感じることができた。
でも、言ってしまえばそれだけで他に特徴がない。
「ユナも甘い」
「はぅん!?」
避けると同時に俺も魔法を放ち、地面を凍らせて、ユナもコケさせておいた。
「いたたた……お尻、打っちゃった……」
「あたしも……うー、完璧に負けた」
「おら、しっかりしろ」
二人に手を差し出した。
「ありがとうございます」
「もう、ちょっとは手加減しなさいよ!」
「稽古なのに手加減したら意味ねえだろ。全力でやって、限界を超える勢いで鍛錬してこそ、ちゃんと身につくんだよ」
「それはそうだけど……うー、十連敗とか、さすがに自信なくす……」
……それは、今朝のことだ。
領主の歓待が終わり、いつもの日常に戻り……
再び冒険者としての日々が始まると思っていたら、ユナとアズがやってきて、「稽古をつけてほしい」と言ってきた。
どうやら、ここ最近、自身の力を疑問に思っていたらしい。
そういうことならばと稽古をつけることにしたのだけど、二人は連敗。
自信をなくしている様子だ。
……少しやりすぎたか。
とあることを教えたいため、容赦なく、隙あれば攻撃していたが……もうちょっと手加減した方がよかったかもしれない。
予定では、あと数戦するつもりだったが、繰り上げた方がいいな。
「ユナとアズは、どうして負けたと思う?」
「……セイルさんは、魔法の詠唱速度が早すぎます。私の10倍くらい早いです……」
「……動きも速いわ。まったく動きが見えなかった……」
「そうだな。確かに俺は、二人よりも動きも魔法も慣れている。ただ、それが主な敗因じゃない。根本的な問題は、もっと別なところにある」
「「えっ!?」」
二人は驚いて、それから「うーん」と悩む。
敗因を考えているみたいだけど、なかなか思い浮かばない様子で、しばらくして目がぐるぐると回ってきた。
「はふぅん……わからないです……」
「ダメ、知恵熱が出てきそう……」
「考えろ。答えを与えられてばかりじゃ成長しねえぞ。考えることで頭は活性化していくんだ」
「うぅ、そうだけど……」
「難しいです……」
すがるような視線。
苦笑しつつ、俺は答えを教えることに。
「ったく、仕方ねえな……いいか? 単純な話だ。二人で戦っているのに、まったく連携を意識していないんだよ、お前ら」
「「あっ」」
しまった、という感じで二人は小さな声をあげた。
「一人で戦うよりも二人。そして、二人で戦うのなら戦術の幅が広がり、色々な連携を取ることが可能だ。それを活かさない手はない。ましてや、ユナとアズは仲の良い双子だ。普通の人よりも、より精密な連携が可能だろうな」
「そ、そうでした……私、連携することをまったく考えていなくて……」
「なんかもう、途中からはムキになって、周りが見えてなくて……」
「自覚できたようだな。それと……」
二人にとある魔法をかけた。
ユナとアズは、え? というような顔をして、その場で軽く体を動かす。
「な、なにこれ……体がすごく軽いわ。それに、思うように動くことができて……」
「私の魔力も、ものすごく底上げされています……複雑な詠唱もすんなりと頭に入ってきそうで……」
「前に、バフをかけられる、っていう話をしただろ? そのバフをかけてみた。一時的なものだけど、今よりも上の力を体感しておくことで、成長しやすくなるはずだ。あと、目標もわかりやすく立てることができる。ちょっと試してみろ」
「は、はい」
ユナは、恐る恐るという感じで、宙に手を向ける。
「ファイア」
ゴゥッ!
一瞬ではあるものの、豪炎が渦を巻いて、竜巻のように立ち上がる。
「えっと……えいっ」
アズは、そこらに落ちている石を拾い、握る。
バキィッ!
石は粉々に砕けた。
「「……」」
「どうだ? これで、力を得た時の想像がしやすくなっただろ。大きな力にあらかじめ触れておくことで、今の力もコントロールしやすくなる」
「「怖いから、これ!?」」
む?
「これ、元の百倍くらいパワーアップしていないかな……?」
「強くなりすぎて、逆に怖いわ……」
「いい経験になるだろ?」
「子供が剣を持ったような感じで、怖いわよ」
「いきなりパワーアップしすぎて、逆に実感が湧いてきません……」
「そうか……難しいな」
戦い方を教えるのは初めてだ。
なかなかうまくいかないな。
二人のバフを解除した。
「あ、すごい魔力が消えた……」
「あたしも。残念って思わないで、ものすごく安心できる、っていうのが複雑なところね」
「それにしても、素人同然の私達をあそこまで強化しちゃうなんて……」
「セイルのバフって、なんか、危ない成分でも入っているんじゃない?」
「人のバフを危ない薬のように言うんじゃねえ。俺のバフは、至って普通のバフだ」
「普通っていう認識でこれだとしたら、全力出したらどうなるのかしら……?」
「す、すごいことになっちゃいそうだね……」
前のパーティーでは、クライブに、こんなチンケなバフでは意味がないと罵られていたのだけど……
ユナとアズの評価はまったく違う。
話が違うと混乱してくるな。
まあ、俺のことはいいか。
今は二人の稽古だ。
「ま、最終的に、あれくらいの力を得ることは可能だ。それを目標にがんばれや。まずは、連携だ。もう一度やってみろ」
「「はいっ!!」」
「良い返事だ。じゃあ、あと一戦だ。おら、いくぞ!」
――――――――――
「「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」」
ユナとアズは大の字になって地面に転がり、肩で息をしていた。
最後の稽古も、当たり前だが俺の勝ち。
ただ、二人はすぐにやられることはなくて、十分くらい粘ることができた。
大きな進歩だ。
「や、やりました……すごく、がんばれたような、気がします……!」
「結局、負けちゃったけど……なんか、充実感、ぜんぜん違うわ……!」
「ちょっとは褒めてやってもいいな。悪くない感じだった。その調子でがんばれば、もっともっと強くなれるはずだ。これからも、連携を意識することを忘れるなよ」
「ありがとう、ございます……!」
「この調子なら、明日にはセイルに勝てるかしら?」
「ばかいえ。十年早い」
「ちぇ……でも、セイルって、ものを教えるのがとても上手ね。あたしの動き方もそうだけど、ユナに魔法も教えることができているし」
「あ、うん。それはびっくりしたかも。セイルさん、治癒師なのに、攻撃魔法に詳しいんだもん」
「それは……」
「「治癒師なら当然のことだ」」
「む」
台詞を先取りされてしまう。
「ですよね?」
「ふふん。セイルの考えていること、なんとなくわかってきたわ」
「ちっ、口の成長は早いな」
まあ。
この二人なら、わりと早く俺を越えられるかもしれないな。
その日が楽しみだ。
とはいえ……
「稽古はここまでだ。腹が減っただろう? シャワーを浴びたら食事にするぞ」
「その後は、私をいただきますか?」
「ユナって、思い出したようにぐいぐい攻めていくわね……」
「それが私のもう一つの使命だもん!」
「そこまで言い切るのね……ま、まあ、あたしも、嫌とは思わないけど」
「なんの話をしてる、なんの話を。それよりも、今日は、特別にスイーツもつけてやる」
「「スイーツ! わーい♪」」
瞳をキラキラと輝かせるユナとアズ。
まだまだ子供だな、と苦笑するのだった。
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