15話 崩壊の序曲
「……くそっ」
クライブは舌打ちをした。
苦い表情をして、宿の部屋で寝るルルカに目をやる。
ベッドに寝ているルルカは、あちらこちらに怪我を負っていた。
治療は済んでいるものの、すぐに怪我が治るわけではなくて、時折、苦しそうな声をこぼしていた。
治癒師に見せたものの、一命をとりとめることが限界だった。
毎日看病をして、貴重なポーションを消費しなければいけない。
しばらくは動けそうにない。
「どうしてこんなことになった……?」
クライブは奥歯を噛む。
簡単な任務のはずだった。
街に近づいている魔物の群れの掃討。
よくあるパターンの任務で、今までに何度も何度もこなしていた。
それなのに……
この結果だ。
ただの魔物の群れではなくて、スタンピードの兆候で、強力な個体が潜んでいた。
そのことに気づかないで突撃したせいで、大きな被害が出た。
また、指揮もめちゃくちゃだ。
誰一人、まともな指揮を出すことができず、失敗に失敗を重ねる始末。
どうしようもないほど杜撰な戦闘だった。
どうにかこうにか勝利を収めたものの、結果はこれ。
ルルカが重傷を負い、クライブ達も軽いとはいえない怪我を受けた。
「ティト、これはキミの責任だぞ!?」
「はぁ? なんで僕のせいになるのさ」
「当たり前だろう。タンクであるキミの役割は、味方を敵の攻撃から守ること。なのに、これはどういうことだ?」
「それは……」
一瞬、ティトが苦い顔になる。
「でも、クライブの指揮が適当すぎるのが悪いんじゃないか! 僕は、言われた通り、きちんと前に出て敵のヘイトを稼いでいた。それなのに、クライブがルルカに前に出ろというから、巻き込まれたんじゃないか」
「あ、あれは……俺達が追い込まれていたんだ! ルルカも前に出てもらわなければ、あそこで詰んでいた。そもそも、キミはヘイトを稼げていなかった! ここ最近、ずっとそうだ。何度も何度も魔物を取り逃がしていただろう」
「そ、それは……」
「セイルでさえできていたというのに!」
「僕を、あんな落ちこぼれと比べるな!」
「事実を言ったまでだ!」
「なにを……!?」
「もうやめてよっ!」
チェルシーが悲鳴のような声をあげた。
「今は、誰が悪いとか間違っていたとか、そういうことをしている場合じゃないでしょ……? そんなことよりも、ルルカのことを考えてあげないと。自分は悪くないって、そんなことばかり繰り返して……」
「……」
「……」
クライブとティトはバツが悪そうな顔になって、それぞれ視線を逸らした。
「私達が争っていても、仕方ないじゃん……どうしようもないじゃん……」
悲しい。
寂しい。
切ない。
それらの想いが涙となって流れる。
ただ……
「ふんっ、泣けばいいと思っているのか? これだから女は」
「っていうか、自分はミスしてません、っていうチェルシーの態度、むかつくんだよね」
帰ってきたのは心無い言葉だ。
自分達は悪くない。
ならば、悪いのは誰か?
チェルシーだ。
彼らのそんな身勝手な悪意が突き刺さる。
「だいたい、魔法使いならば、すぐに詠唱をしてもらわないと困る。時間がかかるようでは、二流……いや、三流ではないか」
「僕が必死に守ってあげているのに、それが当たり前のような顔をされてもね……ちょっと、どうかと思うよ」
「そ、そんな……あたしは、あたしは……」
仲間からの心無い言葉。
チェルシーは涙がにじむものの、ぐっと我慢した。
泣いている場合じゃない。
今はいないセイルに代わり、自分がパーティーを建て直さないといけないんだ。
それが、セイルの追放を止められなかった責任だ。
そう、チェルシーは考えていた。
彼女は、セイルの追放に賛成はしていない。
むしろ反対して、クライブ達を説得しようとしていた。
しかし、それは叶わず……
それができなかった以上、同罪と考えていた。
自分がセイルを追放したも同然。
ならば、後のことはしっかりとやらなければいけないのだ……と。
そんな責任を負うことを思っていた。
「そ、その……ごめんね……」
チェルシーは謝ることしかできない。
それ以上のことはなにもできない。
(あたし……なんて弱いんだろう……)
悔しさと、情けなさと。
自責で涙がこぼれてくる。
それを見たクライブとティトは、再び心無い言葉を浴びせて……
パーティーの絆なんてものはない。
なぜ、こうなったのだろう?
個性の強いメンバーではあるものの、以前は一つにまとまっていたのに。
和が保たれていたのに。
でも、今はこの有り様だ。
バラバラで、なにもない。
それは、セイルが抜けたからではあるのだけど……
そのことに気づいているのはチェルシーだけ。
クライブとティトは、本気でそのことを理解していない。
最近の不調はただの偶然。
皆の甘えという認識だ。
……救えない。
「くそっ、今回の失敗で膨大な違約金が請求されてしまう……! ティト、パーティーの金はまだあるか?」
「なんとかね。ただ、少し足りないかもしれない……」
「なら、すぐ新しい依頼を請けるぞ!」
「ちょ、ちょっとまって!? ルルカは?」
「……チェルシーが見てろ。俺達で稼いでくる」
「それは……」
「なんだ、その顔は? 俺達だけでは不安だというのか!?」
「そ、そんなことはないけど……」
「とにかく、稼がなければ、このままだと最悪、称号の剥奪も……くそっ、そんなことになってたまるか! 俺は勇者だ! このまま落ちぶれるなんてこと、ありえるわけがない!」
負の連鎖が続いていく。
どこまでも、どこまでも……
今回は、軽いざまぁ回でした。
今後、ゆっくりとじわじわと堕ちていく予定です。
やっぱりすぐにやってはダメですね!(ぇ
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