12話 拾えるものは全て拾う
領主の屋敷を訪ねて薬草を持ってきた旨を伝えると、すぐに中へ案内された。
そのまま、たくさんのぬいぐるみがある部屋に。
ベッドに幼い少女が横になっていた。
吐息が荒く、とても苦しそうだ。
その隣に領主と、その妻らしき女性。メイドや執事達。
それと、治癒師らしき人がいた。
「領主様! この者達が薬草を持ってきたと!」
「なにっ、本当か!?」
「ほら、これが薬草だ」
「よくやってくれた、恩に着る! セルゲイ、薬草が届いた! これで娘を助けてくれ!」
「そ、それは……」
セルゲイと呼ばれた治癒師は、気まずそうに視線を逸らす。
「……申しわけありません。もう……手遅れです」
「そ、そんな……」
「症状は最終段階まで進んでしまい、手の施しようがありません……」
「なんて、ことだ……」
領主はがくりと膝をついて、絶望に打ちひしがれた。
妻らしき女性も涙する。
ただ……
「おいおい、あんたの目は節穴か?」
「なんだって?」
「手遅れなんてことねえだろ。十分に助けることができる」
俺は前に出た。
無関係ではあるが、しかし、助けられる命を助けないなんて選択肢はない。
俺は、治癒師なのだ。
「な、なんだ、キミは……? もしかして、キミも治癒師なのかい? なら、わかるだろう……この子は、とても特殊な病に侵されていて、しかも、もう末期だ。こうなってしまったら助ける手はない……苦痛を和らげるか、あるいは安楽死を……それくらいしかできることはない」
「うるせえな。できない理由ばかり語ってるんじゃねえ、できる方法を考えろ」
「そ、それは……」
「俺は助ける。目の前で消えそうな命を放っておけるわけねえだろうが」
「そ、それは本当か!? 本当に娘を助けることができるのか!?」
領主がすがりつくように問いかけてきた。
俺は、しっかりと頷いてみせる。
「ああ、できる。だから、邪魔するんじゃねえぞ? 俺に、この子を助けさせろ」
「ああ、ああ! 頼む、どうかどうか……娘を、どうか頼む……!」
「任せておけ」
さあ、オペを始めよう。
――――――――――
「すぅ……すぅ……すぅ……」
あれから数時間。
領主の娘は穏やかな表情で寝ていた。
「ふぅ……これでもう安心だ。峠は乗り越えた」
「お、おぉおおお……ありがとう、ありがとう! 本当にありがとうっ!!!」
領主は俺の手を掴み、泣きながら感謝の言葉を並べてきた。
領主として、平民に頭を下げるなんてこと、してはいけないのだが……
そうしてしまうほど娘を愛しているのだろう。
こいつは、きっと良い父親なんだろうな。
「ば、バカな……あれほどの病に侵されていて、しかも末期に突入していたというのに、完璧に治療してみせた……? しかも、この短時間で……そのようなこと、宮廷治癒師でも不可能だ。いや、この世界の誰にも……キミ!!!」
今度は、治癒師が詰め寄ってきた。
怒っているわけではなくて、どこか興奮している様子だ。
「キミが見せた治療は、いったい、どういうものなんだ!? あれだけ重い病を癒やしてみせたのは、どういうしかけなんだ!? 教えてくれ!!!」
近い近い。
顔が近い。
「教えてもいいが、離れてくれ……おっさんに迫られてもキモいだけで、ぜんぜん嬉しくねえよ」
「教えてくれるのか!? 本当に!?」
「ああ。別に、秘匿するものじゃねえからな」
「そう……なのかい? しかし、技術と知識を独占することで得られる利益は莫大なものになると思うが……」
「技術と知識を独占して、どうするんだよ? 広く公開されてこそ、なんぼだろ。そうでないと、たくさんの人が救われることはない。医学ってのは、そうして発展して、そして、人のためになってきただろ。金儲けしたいなら、もっと楽な商売を選ぶね、俺は」
「……」
「それに、技術と知識を広めることで、また新しい技術と知識が生まれてくるものだ。独占しても、発展することはない。衰退するだけだ。金だなんだ、って独占して儲けても、いつか自分の首を締めるだけ。そんなのバカのやることだろ、アホらしい」
「素晴らしいっ!!!」
声が大きい。
耳が痛い。
「あれほどの技術と知識を独占しようとせず、人々を助けることを第一に考えて、そして、治癒師の未来も考えている……キミのようなことは、なかなかできることじゃない。いや、キミにしかできないことだろう! なんという……キミは、もしかして聖人かい? あるいは、勇者なのかい?」
「うるせえな……俺は、ただの冒険者だ。やたら持ち上げるんじゃねえ」
「ただの冒険者とは思えないが……っと、それよりも、早く教えてくれないか!? 今、僕の知識欲は限界突破している!」
「わかった、わかった。ただ、その前に……紙とペンを貸してくれないか?」
メイドから紙とペンを受け取る。
そして、サラサラといくつかのレシピを書き記して、それをメイドに渡す。
「当分は、この料理を与えてくれ。ちょっと面倒で薄味なものだが、栄養はたっぷりだ。失われた体力を取り戻すにはちょうどいいだろ」
「おぉ、ありがたい……というか、キミは、レシピも作成できるのか?」
「もちろんだ。患者を治療するだけではなくて、その後、完全回復するまで見守るのが治癒師の仕事だ。食事の管理もするのは当然だろ?」
「「「そこまでやる治癒師なんていない」」」
この場にいる全員に否定されてしまう。
あれ?
もしかして、俺がおかしいのか……?
「セイルさんなら、魔法で体力も回復できるんじゃないですか?」
「ユナ、さすがにそれは……でも、セイルならありえそうね」
「できるな」
「「できるの!?」」
「ただ、魔法は薬と似たようなものだからな。あまり乱用すると、体の自己治癒能力が落ちてしまう。緊急時でない限り、そこまではしたくねえな。幸いにも、この嬢ちゃんは危機は脱した。なら、あとはケツでもひっぱたくなりなんなりして、がんばってもらうさ」
「な、なるほど……」
「本当に色々と考えているのね……感心したわ」
ユナとアズは感心した様子で頷いた。
それは二人だけではなくて……
「本当に……素晴らしいっ!!!」
領主も同じだった。
再び俺の手を両手で掴んで、強く強く言う。
「キミは、娘の命の恩人だ! 私にとっての勇者だ!」
だからちけえよ。
「ぜひ、お礼をさせてほしい! まずは、宴だ! 皆のもの、宴の準備をしようではないか!」
「「「はっ!」」」
なにやら大事になってきたが……
一つの命を救うことができたから、よしとしておくか。
今日の物語は、楽しんでいただけたでしょうか?
感じたことがあれば、ぜひブクマや評価で教えてください!
皆さんの反応が、なによりの原動力です!




