11話 採取依頼
「セイルさん、セイルさん」
「あん?」
「なんだか楽しみですね♪」
「ま、そうだな」
翌日。
新しい依頼を請けて、俺達は街の外に出た。
依頼内容は薬草採取で、なんてことないもの。
ただ、ユナとアズにとっては初めての冒険。
ワクワクした様子で、横に長い耳がぴょこぴょこと動いていた。
……エルフの耳は感情と連動するのか?
「ふふんっ、あたしにかかれば、薬草採取なんて一瞬で終わりよ!」
「へぇ、頼もしいじゃねえか。なら、全部任せるとするかな」
「うっ、そ、それは……」
「ま、油断はするんじゃねえぞ。採取の途中に魔物に襲われる、なんていう事故はけっこう多い。新人冒険者のいくらかは、それでリタイアしてしまうことがある」
「わ、わかったわよ……だから、あまり脅かさないでよ……」
「脅しじゃねえよ、知っておくべき常識だ。ちゃんと学べ。感じ取れ。そうすることで怪我をしなくて済む。いいか? 最高なのは、俺等、治癒師が動かないことだ。そういう状況を作り出してみせろ」
「……オッケー。絶対に油断しないわ」
「わかりました、がんばります!」
「いい顔だ」
これなら心配はいらなそうだ。
この二人なら、問題なく依頼を達成してくれるだろう。
そう思っていたのだが……
「……薬草、生えていませんね」
「……欠片も生えていないわね」
薬草の採取地にやってきたのだけど、一本も生えていない。
どういうことだ?
「うーん……この前、採取に来た時はたくさんあったんだけどな」
「……セイル、もしかして、その時に採り尽くした?」
「あー……ちょっと採りすぎた感はあったから、また、植え直しておいたが」
「「植え直した!?」」
だから、実際に採取した量はそこそこ、というくらいだ。
「……ねえ、ユナ。薬草って、まだ植え直せるものだっけ?」
「……無理だと思うよ。抜いた時点で、根がいくらか傷ついちゃうだろうし」
「……まあ、セイルのことだから、『治癒師だから治療した』とか言うんでしょうね」
「……セイルさんだからね」
最近、二人の俺に対する態度が厳しいような……?
「あっ」
ふと、ユナが地面を見て声をあげた。
「この足跡……セイルさん、セイルさん」
「どうしたんだ?」
「もしかしたら、ここ、ウルフに荒らされたんじゃないでしょうか? ほら、この足跡を見てください。ウルフのものだと思うんですけど……」
ウルフというのは、狼に似た魔物のことだ。
ただ、肉食なので薬草を狙うことはない。
「あたしも、ユナに同意。ただ、薬草は食べられたわけじゃなさそうね。たぶん、ここで戦闘が起きたんだと思う。それに巻き込まれる形で、薬草は全部失われることになった……こんなところかしら?」
「なぜそう思う?」
「人の足跡もあるわ。それに、ここの草は燃えた跡がある。魔法ね」
完璧な推理だ。
俺の考えと一致する。
ユナとアズは、思っていた以上に冒険者の適性が高いのかもしれないな。
将来が楽しみだ。
「やるじゃねえか。いい推理だ。たぶん、それが答えだろうな」
「やった、褒められちゃいました♪」
「えへへ……って、喜んでいる場合じゃないわよ! これじゃあ、あたし達、依頼を達成できないじゃない!」
「あ……」
しゅん、となってしまう。
そんな二人の頭をぽんぽんと撫でた。
「大丈夫だ。問題ない」
「え?」
「問題ない、って……どういうことよ?」
「見た感じ、まだ間に合う」
薬草が生えていたと思われる場所に手をかざす。
魔力を集中。
そっと、静かに解き放つ。
「グロース」
温かい光が地面に降り注いで……
それに応えるかのように、新しい薬草が生えてきた。
「「えぇっ!?」」
「これでよし」
「い、今、なにをしたんですか!? どうして、薬草が生えてきて……」
「根っこから引きちぎられたような感じで、完全になくなっていたのに……」
「なくなっているように見えて、種は残っているからな。その種に、成長を促進する魔法をかけて、すぐに採取できるようにしただけだ」
「そ、そんな魔法、聞いたことがないんですけど!? そんなものが使えるんですか!? えぇ!?」
「あ? バフの一種だから、さほど驚くことじゃねえだろ」
「治癒師がバフを使えるのがおかしいのよ!? しかも、見たことも聞いたこともないバフを!」
治癒師でも、即座に全ての怪我を治せるわけじゃない。
時に後遺症が残ってしまう時がある。
そんな時、患者のリハビリをサポートしなければいけない。
体を動かしやすくするため、バフをかけることがある。
「……だから、俺はバフをかけることができる、ってわけだ」
「す、すごいですね……とはいえ、理屈はわかりますけど……」
「そういうのは、普通、別の人が担当するものよ。一人が全部請け負うなんて、聞いたことがないわ……」
「ま、二人は駆け出しの中の駆け出しだからな。知らねえこともあるだろ」
「「絶対、そういうことじゃないと思う」」
なぜか、強烈に否定されてしまうのだった。
――――――――――
「えっ、依頼達成ですか!?」
ギルドに戻り報告をすると、なぜか受付嬢に驚かれてしまう。
「あそこの薬草は、全滅したという報告を受けていたんですが……」
「どういうことだ?」
「少し前に、別のパーティーがやってきて、薬草の採取地で戦闘となり、全滅したという報告を受けています。故意ではないと判断したので、お咎めはなし。セイルさん達の依頼が失敗しても、評価に響かないようにしないと、って考えていたのですが……」
「そうだったのか」
「依頼は完了ですが……まだ時間はありますか? 大丈夫なら、その薬草を、すぐに領主様のところへ届けてほしいのですが」
薬草採取の依頼人は領主。
理由は知らないが、今すぐに薬草を欲しているらしい。
「わかった、行ってきてやるよ。めんどくせえが、薬草を欲しているってのなら、急いだ方がいいかもしれねえからな」
「よろしくお願いします」
「セイルさん、ああ言ってますけど、怪我人や病人がいないか心配なんでしょうね」
「なんだかんだ、お人好しだからねー」
「そこ、うるせえぞ」
今日はちょっと静かな回でしたが、次回はひと暴れします!
よければ続きも見逃さないよう、ブクマしていただけると嬉しいです!
評価も力になります、どうぞよろしくお願いします!