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 ドラゴンはぐっすりとは眠らない。金貨の擦れる音一つで目が醒める。そしてもう一つ、目が醒めるものがある。

 血の臭いである。

 遠くから血の臭いがしてきてうっすらと認識し、近づくにつれて頭が覚醒してくる。

 男が入り口に立ったとき、首をしっかりともたげて臭いの大本を見据える。

 血だらけの、しかし足取りはしっかりした男が立っている。

「金を横取りしようという奴に襲われたか」

 ガルシスにはよくあることである。

「いや、そんな隙は見せないよ」

「ゴブリンたちではあるまい」

 鱗の威力はまだまだ感じられる。

「魔王が立った。で、人間が連合を組んで進軍を始め、麓のゴブリンやオークたちと戦闘が始まったんだ。俺がどんどん山の奥に進むんでゴブリンたちも敵ではないと思ってくれたんだが、いやぁ、今の投石機はずいぶん飛ぶんだね、砦から住み処からがっしゃんがっしゃん、で兵士が突っ込んできててんやわんや」

 血を流しながら広間に入り、ようやく力が尽きて金貨の山に倒れ込む。金貨に血が流れても、それはガルシスには問題ない。

 洞窟はいくつもあるがここに通じる入り口は多くない。だいたいゴブリンが巣にしているか、山のエネルギーからモンスターが湧き出るダンジョンになっているかで、ガルシスの元にやってこられるのは、人間では地図を持った者だけであろう。

「戦さか。儂には関係ないな」

 暗闇の中、ガルシスの目が煌々と輝き、男の目が弱々しく揺れている。

 その弱々しい目が、ガルシスの目をまっすぐに見つめている。

「仇をとってやろうか?」

「いいよ、そんなこと」

 体を倒したまま懐に手を入れ、まず今回ガルシスに意見を言ってもらうための金細工を一つ、そしてその金細工師の他の品を五つ、そして移動に使うための金の延べ棒や貨幣を全て並べ、

「先のことが解ったらなあ、店や家にある金細工、全部ここに持ってきたのに」

 ガルシスの目を見る光が小さくなるにしたがい、柔らかさが増していった。

「龍のなかのりゅう、このよで、いちば」

 光が消えた。

 ガルシスはどれだけぶりか解らぬため息を一つつき、男の死体に鼻先を近づけると、髭を使って持ち上げ、奥にある金で作られた椅子に座らせた。そして男の父が作った金細工を近くに、男が商人として持ち込んだ金細工を次に並べる。

 首を戻し、目を瞑ろうとして、すぐそばで戦が始まっているのを思い出した。

 魔王の軍はまだここには到達しておらず、住んでいるゴブリンやオークたちが戦いに巻き込まれているのだろう、この山の中に自分がいることは人間どもも解っているだろうから入る洞窟を探して誰かが来るかもしれない、だったら外に出てこの目で状況を見た方がいいのだろうが。


 ガルシスにとって、金を盗んでいく輩以外は全て本当にどうでもいい、今はそんな気分であった。


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