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 野生動物は眠るとき熟睡することがないのだという。いつ敵に襲われるか解らないからだ。

 人間のところにいて安全が確保されるとぐっすり眠るようだが、野生のうちは病気のとき、弱ったとき、怪我を負ったときには隠れられるところに行って眠るのだが、そうでなければうつらうつらしているのだという。

 ドラゴンもまた同じなのだが、ドラゴンが他の野生動物と一線を画すのは「(ゴールド)の音」である。

 ドラゴンは金を集めるが、人間のように整理整頓はしない。小さいものは床一面に広がっているし、大きなものは倒れていたり壁に立てかけられている。別に人間がやってきたら踏まれて解るようにしているためではないが、結果としてそうなっている。整理整頓されていなくても一瞥したら、どこに何があるのか解るのだ。そんな状態でも金貨の一枚でも無くなっていたらすぐに解る。

 ドラゴンの寝首を掻こうと侵入してくる人間は後を絶たないが、床一面に広がっている金を踏まずに、音を立てずにドラゴンの顔や首までたどり着ける人間は、そうそういない。何かが金に接触して音が鳴ったら、どんなに小さな音でも瞬時に覚醒し、戦闘状態になる、それがドラゴンである。

 だからキングドラゴン・ガルシスがうつらうつら眠っているとき、大音声で

「キングドラゴンガルシス殿!頼みがあってやってきた!」と起こされたのは、初めてのことである。

 ガルシスの長い寿命のなかで知識を得ようという人間が来ることはあるが、そういう人間はガルシスが起きているとき、正面から、低姿勢で話しかけていた。

 見れば扉の無い部屋の入り口に立ち、元気はつらつにこちらを見ている男がいる。

 一人で来たようだ。

 驚いて、怒りもわかず呆気にとられたガルシス、口に出たのは全くの面白みもない

「なんだお前は」であった。

 入っていいかとも聞かずちょっと頭を下げるとずかずか入ってくる男は、入ってすぐ(散らばっている金貨を踏んでもいいのだろうか?)と足を止めたが、どうしようもないので踏んでガルシスに近づいていく。ガルシスも、起きている自分の目の前で、金貨を手に取らないのだから何も言わず男を見ている。

 首をもたげ上から見下ろすガルシスに

「我が名はタカッピー・ヨッシーノ、ドラゴンの中のドラゴン、王の中の王ガルシス殿に頼みがあってやってきた!」

「そこまで大声をあげなくてもいい、普通に話せ」

「おぉ!話を聞いてくださることをまず感謝する!」

 感激したのだろう、声量を落とさず言ったが、そこからは上を見上げて普通の声量になる。

「私は東の端にあるジパングという国からやって来ました。

 父が金細工職人をやっていたんですが亡くなりまして、金の文化の最先端であるこの国に、父の作品を持ってきたんですが、どうも評判が芳しくないのです」

「ほう」

「商人たちの目利きを疑うわけではないですが、なにぶんジパングは離れすぎているから商人たちは価値が解らないことを考えまして、金のことなら人間以上に精通しているドラゴンに見てもらうのが一番信頼できるのではないか、ならばドラゴンの中のドラゴン、王の中の王であるガルシス殿に見てもらおうと、王都からやってきました」

「ほう」

「ガルシス殿!ガルシス殿から見て!我が父の細工の腕は如何か!どうか忌憚のない!ご意見を!お願い!したい!」

「だから大きな声をだすなと!」

 目の前で三つほど作品を並べるタカッピー、呆れたガルシスが

「あのなぁ、ドラゴンと人間とで美意識や作品の評価が同じわけがないだろう!人間の社会では売れるか売れないかも重要なことだろう、儂が何かを言って商人が参考にするとは思えんぞ」

 三つの中でも自信作なのだろう一つを掲げたタカッピー、

「ガルシス殿、モノの評価とは好き嫌いとか良い悪いとか個人の感想だけでなく、造作がどうだとか、形式や主題とか、部品の鋭さや曲線とか組み合わせとか、さまざまな角度や方面から言うことができます、ドラゴンならではの!視点ということであれば!商人も!「そういう見方があったのか!」と!考える!材料に!すること!間違いなしです!」

「だから大きな声をだすなと…まぁ見るだけならいいが、儂が一度自分で持ったら、もうそれは儂のモノだ、返すことはできんぞ?」

「それはかまいません、たくさんありますので。見ていただくモノは見料として差し上げます」

 仕方がなく髭で受け取るガルシス、目の焦点が合うところに持って行って

「うーん、特に好きとか嫌いとか、良し悪しとかは思わんの」

「ではこういうのはどうでしょう、その作品に匹敵する精度や作りの金細工は、お持ちではないですか?」

「うーん、これに匹敵する、ねえ…」

 髭で持ったまま金細工の山を三つほどかき回し、これかなあと三つ取り出す。

 タカッピーに顔を戻しても周囲の金は何一つ無くなっていない、正直にただ待っていただけのようだ。

 その三つの作品を渡されたタカッピー、テンションが爆上がりして

「これは伝説のモンソロ王が悪魔を封じ込めるために作った箱!これはビダデ王の王冠!これはバサの女王の腕輪!」

 がば、とガルシスに顔を上げて

「我が父の!作品は!これらに!匹敵!しますか!」

「だから大きな声をだすなと…由来や価値は全然知らんし興味もない、ただ精巧さや作りはこうだろうなというだけだ。三つともやらんぞ」

「ええ、解ってます、私がこの三作品を都に持って行ったら、商人や貴族たちの取り合いで戦争になります!見ることができただけで不相応の幸せです!」

 ガルシスの髭に返す。

「私の父の作品に自信が持てました。ガルシス殿の意見を添えることは難しいでしょうが、がんばって言い方を考えます!」

「そうか、まあがんばれ」

 一礼し、一枚の金貨も盗らず意気揚々と帰って行くタカッピーを呆れて見送るガルシスであった。

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