よりどりみどりのウハウハハーレムなんてあるわけないでしょ。
リリアナはため息をついた。
婚約者である第一王子、王太子候補のおつむが残念過ぎて。
『僕ァ美女を侍らせまくってハーレム作りたいんだ!』
無理である。
国の制度とかじゃなく、現実的に。
しかし選別のためのパーティーを開けと命じられては断ることが出来ない。
仮にも王族なので。
侯爵令嬢でしかないリリアナは従う他ない。
頭痛がするわと独り言を言いながら、彼女は『美しく、可愛らしく、独身の貴族女性』へ送る招待状の作成に取り掛かったのだった。
ひと月経過した頃。
リリアナが懸命に努力した結果のパーティーが開催された。
王子はそりゃあもうウキウキだった。
ツンとしていて可愛げのない婚約者とは結婚はしなければならないとして、愛人を山ほど抱えて楽しく暮らしたいのだ。
王の責務もハンコ押せばいいだけだろう?と能天気そのもの。
で。
パーティー会場に入った王子は、愕然とした。
確かに美しい女性か可愛らしい女性かどちらかしかいない。
しかし年齢が。
どう見ても最低でも二十歳は超えている者しかいない。
どころか、大半は三十路に突入している。
リリアナは執務のために同伴していないのだが、あれこれ弁えた従者を寄こしてくれていた。
「な、な、なんだこのありさまはっ!」
「はて。婚姻可能な独身の美女を集めよとのことでしたので、リリアナ様が国の隅々まで調べて集めた次第ですが。
殆どのご令嬢は婚約がお済みですので除外され、その後未亡人になっただの、離縁されただので独身に戻ったお方が対象となったのです。
さすがに王族に侍るものが他に子を産んでいたとなると問題になりそうですから、子は産んでいないものに限定されております」
「年増を集めろだなんて言ってないぞ!
僕は、同じくらいの年代か、ちょっと下くらいをっ」
「はい。その年代は既に予約済でございますので。
男爵家まで基準を下げますのは王に確認したところ承服しかねるとのことでしたので、身分に問題のない淑女が集まっております」
大声で王子が喋るものだから、年増、のワードに集められた淑女たちは内心激怒した。
常識で考えたら自分らの年代にもなろうものだろ、と言いたい。
そんな乙女心を理解しないまま王子は突っ走る。
「婚約なんて白紙にさせればいいだけだろう。僕が最優先じゃないのか」
「いいえ?
家と家の結び付きが最優先でございますれば。
商売の話であったり、派閥の問題であったりで婚約を結んでいる家に横入りは出来かねます」
従者はポンポン不敬一歩手前な事を言っているが、リリアナを介して、王より「今日言うことは大体無罪にしちゃうぞ」と許可をもらっている。
ちなみに。
今日の様子次第で見限る予定になっているので、従者も、主であるリリアナのためにも王子を破滅させる気で受け答えしている。
ちなみに王家の影がひっそり各所に紛れているので、従者が報告するまでもなく王子のやらかしカウンターは回りまくっている。
「確かに美しいは美しい女ばかりだが……」
「あちらのラピア伯爵家の方は、不義密通が原因で離縁されて独身の方ですね」
「じゃ、じゃああっちは」
「ああ、カイサ侯爵家の。
夫と仲が悪く、暗殺者を雇って殺害させたとのこと。
先日まで投獄されておりましたが出所したそうで」
「うぐっ。じゃ、じゃああいつ!」
「リクウェ伯爵家の方ですね。
婚家の義母とそりが合わず、殺し合いに発展したため離縁された方です」
目をつける女性全員ヤバい女しかいない。
いや、この会場にいる女性のほぼほぼ全員がヤバいのだ。
九割くらいは夫かその家族を殺そうとした経験があり、その半分くらいは実行済。
投獄されていたが最近シャバに戻ってきてそろそろ修道院に入れるか領地に封じるかと言うところのこのパーティーなので、彼女らも若干期待してきてはいたのだ。
しかし王子の言動にイラッ☆と来てしまった。
コイツに選ばれるくらいなら修道院か領地の田舎のがマシ。選ばれたら殺そ。
彼女らの内心は一致していた。
元々その辺の順法精神とか倫理観とか無いも同然の連中なので、怒りと殺意が直結している。
来歴で選んでいては意味がないとスカポンタンなお脳みそで理解した王子は、自分のために用意されていたソファにどっかり座り、
「もう結婚してやることやってるんだからいいだろう!
僕の愛人になりたければ体を使って説得しにこい!
満足させられたら飼ってやる!」
と声高に宣言したところ、すべての女性がパーティー会場を出ていった。
当然の結果である。
その後王子はプリプリ怒りながら帰ったのだが、その頃には速やかに王への報告が行われており、廃嫡の上「療養」からの「病死」が確定していた。
去年儚くなった王妃との初めての子で、王妃も猫可愛がりするものだから王もかなり甘く見ていたが、こいつァダメ過ぎると今更判断したのだ。判断が遅い。
幸いにして第二王子は優秀で、今から王太子教育を施したとしても自分が引退したい年齢までには立派に王として立つだろうという目途もついている。
故に。
王子は自身の部屋に戻ると同時に捕縛され、「療養」のための離宮へと叩き込まれることになったのだった。
リリアナは、と、言えば。
まだ十五歳という身であることもあって、同格の侯爵家と縁談を結ばれた。
王子などとは比べものにならぬほど紳士で優しく賢い婚約者との仲は良好で、姑舅になる当主夫妻も優しく親切だ。
まだ幼い先方の令嬢も可愛らしく、おねえしゃまー!と懐いてくれる。
ただ一つだけ。
わざと問題のある女性ばかり見繕ってパーティーを開いたことだけは。
誰にも内緒のままである。
ホントは問題ない未亡人とかもいたし、十代だけど婚約者決まってないマトモな令嬢もいたよ。
でも敢えて(バレないように)除外したよ。
全ては王子がやらかしてくれるように。
こわいね。