【子供時代(1)】
何度寝ては目覚めてを繰り返そうと体は小さいままだった。
だからと言って生まれたてのこの体ではできることはそう多くはない。
近くの物や人から得られる情報から考察を広げるしかないのだ。
特段、姉や母親らしき人物は多くこの部屋に訪れている。
ここらから得れる情報が今の自分のすべてになるのか。
数週間が過ぎると微々たる情報くらいは拾うことができた。
妹や母親以外に侍女や付き人の様な人間・・?
時々尻尾のが生えてたり耳が頭の上のほうに生えてたり、言うなれば「獣人」のようなものまで混じっている。
更には翼や角の生えたトカゲ?みたいな顔の二足歩行体。
ファンタジーが過ぎる。
極めつけは魔法の存在だ。
生まれてからずっとわからない言葉が一つも無かったこの世界で、近くにいる誰かが魔法を使う時だけ何言ってるのか全く分からなくなる。
感覚的には解説なしでアラビア語聞いてる感じ。
いやアラビア語全く知ないけど。
ただ魔法自体は見ていて面白い。
何に使っているのかはわからないがそれはもう幻想的なのだ。
色鮮やかな魔方陣が空中を走っていく。
前世じゃ高校生やっていたような年齢の自身にとっては魔法の存在は眉唾物でしかなかった。
そんな物を常に使う者たちが近くにいるので、ベットで寝ているだけでも結構面白い。
あと赤ちゃんな体だからか多くの時間を起きて居られないのもあって時間の進みが早い。
気になることがあるとすれば姉や母が呼ぶ「ネスト」の呼び名の他に「第五王子」の呼び名があったことくらいか。
さすがにこれ以上の情報は寝ているだけでは得られなかった。
二年もたつと立ち上がり歩けるようになる。
言葉は話せるようになったけど舌足らずな言葉になってしまう。
それに幼いうちから流暢に喋っても怪しまれるので従者達が使っていた魔法をこっそりと練習する程度にしておいた。
練習していくうちに分かったことだが言葉をまねしただけでは魔法は使えないらしい。
気づいた時の落胆は、期待していた反動でそれはもう大きかった。
三日は寝込んだ、本当に寝込んだ。
赤ちゃんの体に合わせて精神年齢すら赤ちゃんになっている気がする。
ちょっとだけ怖くなった。
それと言葉を話せるようになって変わったことが一つある。
母親がよく話しかけてくるようになった。
以前でも話しかけてくることはあったが、以前に増して多くの時間をこの部屋で過ごすようになった。
我が子の成長がうれしいのだろうか。
中身は前世で19歳だったって聞いたら卒倒するだろうなと心の中で思ってしまう。
『あら?何かうれしいことでもあったのかしら?』
こっちをのぞき込んでフフッっと笑う。
顔に出ていたらしい気をつけよ。
五歳になって教育が始まった、早すぎやしないですかね。
それでも内容はとてつもなく薄い。
算数の前座のような、数字を覚えましょうって内容だったり、文字を覚えましょうって内容だったり。
文字に関してはちょっと苦戦はしたがそれでも話す言葉の意味が分かる分、言語を一つ覚えるほどの難易度でもない。
それに、魔法の授業があったのが何よりもの楽しみとなった。
初めは火を出す魔法を覚える所までを三年かけてやるとかそんなことらしい。
長いので1年でやれるようにして見せる。
七歳の誕生日、身分の話を聞かされた。
未だに一度も顔を見ていない我が父はこの国の国王様だと言う。
名は『カルア・ミッドレア・スウェイン』カルア王と呼びたくなるがスウェイン王と呼ばなければ不敬罪で首が飛ぶらしい。
ここで自分の名についても聞いてみた。
過去に何度か「ネスト」と呼ばれていたので父の名を取って考えればネスト・ミッドレア・スウェインとかかなと。
そう聞くと母は、『ミッドレアのミドルネームは代々、王家の王太子に受け継がれる名なのです、あなたのミドルネームはアルヴァルドよ』
「ネスト・アルヴァルド・スウェイン」か。
長い。
そのうえ呼びずらい。
ミドルネームの由来は母の旧姓らしい、
母の実家はアルヴァルド家ってことか。
姉の名前や母の名前は従者達が呼んでいて知っている。
なのでこれで大体の周りの人物の名前を把握できた。
『ということは御母様の名はアリー・アルヴァルド・スウェイン、御姉様はレイラ・アルヴァルド・スウェインということですね?』
自身気にそう聞いてみた。
『いいえ、ミドルネームがアルヴァルドなのは貴方だけよ?ネスト』
『え?そうなのですか?』
冷静に考えて母のミドルネームは確かにアルヴァルドな訳無かった。
けど姉も違うの?
『レイラには私のミドルネームのフォートをミドルネームにしたのよ、だからアルヴァルドは貴方だけ』
嬉しくない唯一なのだが。
とまあ、名を知り、談笑に花咲かせていると母はコホンと一泊開ける。
それともう一つと切り出し、身分の話をしたいと、内容を要約するとこんな感じだ。
母は第三夫人で城内では立場が弱い方。
それに合わせて王位継承権の低さもあって僕は父に見てもらえる立場ではないのだとか。
平穏に暮らせそうで何よりで。
変わったこととして、この頃から城内であれば自由に移動することが出来るようになった。
それまでの行動範囲はせいぜいワンフロアに収まる程度に収められていた。
この国では7歳で子供を卒業し、15歳で成人らしい。
城内を見て回ることで文明レベルを調べることが出来たし、目新しいものを多く見ることが出来た。
本や噂話などから国の情勢や生い立ち、地域別の特産品など調べ尽くし日が過ぎていく。
そしてとある結論に行き着く。
『・・・この国、発展しすぎじゃない?』
庭先にはポンプみたいなのあるし、金物の加工技術も存在する。
食事は作物と肉、主食のパンに至るまでのすべてを育てているらしく。
極めつけは魔法の存在だ。
細々とした物は誰でもこれで済んでしまう。
現代で言えばライターやドライヤーを一言唱えれば済んでしまうと。
なんだそれ。
転生ものって前世の知識で無双するのが相場なんじゃないの?
・・・どうしよう?
前世の物をこっちで作って一儲けしようと考えていたからかなり予定が崩れてしまった。
だがしばし考えた後、夕食を食べている際に今の生活に決定的に足りないものがあることに気づいてこの問題は解決した。
この世界の食事、美味しくない。
正確には不味くも美味しくもない、評価しづらい味付けなのだ。
日本人の感性ゆえなのかもしれないが、食には豊かさと華やかさが欲しいのだ。
・・・あと甘味が欲しい。
『作るか!』
そうだ、無いなら作ればいい。
パンがあるなら原材料の麦もある。
麦があるなら菓子は作れる。
あとは砂糖などの甘味があれば良いのだが。
気になったらその道の者に聞けばいい。
料理長の「マバル」に聞いてみた。
メタボ体系、蓄えられた長いひげ、白の縦に伸びた料理帽。
見た目からも、役職からもこれ以上の人選は無いだろう。
結論として、砂糖は無いが蜂蜜はある。
あるにはあるが量が無いらしい。
そこで王子権限で動かせる資金を運用して蜂蜜を集めるように指示しておいた。
これで甘味はどうにかなるだろう。
指示してから一週間後、城内にネスト名義で何故か大量の木の苗が持ち込まれる。
聞くに前世で言うアカシアの木っぽい感じなのか。
育てる考えが無かったので場所なんて存在しないので、植林する農場を用意するまでの間、城の一角を占有し、しっかり怒られた。
この苗木が育つには数年は掛かるとのことなので長い目で育てることにするか。
それと、蜜作り計画と共に長期的に作り始めたのがお酒だ。
この世界には麦から作るお酒、ビールはあった。
それを見て、他のお酒類は無いのかと思い料理長に確認すると『ビール以外にお酒はこの城には無いですね』と。
ならば作ろうというわけですよ。
今回作るのはワイン。
これまた大量にブドウに限りなく近いフルーツを探させ、王子権限でそのブドウとあとついでに、樽と絞り機も仕入れさせた。
甘味が高級なこの世界において、フルーツ類もそれ相応に高級なものだ。
それをワインを作るために大量に買うとなれば高くつくのだが。
使ったお金はすべて王家の財布からなので実質タダなのだ。
『王子権限万歳!!』
近くで見ていた侍女が疑いをかけるような目で見てくる。
主をそんな目で見るんじゃない!
さてワイン作りに関しては結構簡単な手順でできるらしい。
本で読んだだけなので本当に出来るのかはわからないが手順は。
せっせとブドウを潰し、果汁を出してそれを発酵させる。
アルコール発酵がどうとか、ブドウ糖がなんちゃらとかで云々するとワインになるらしいが詳しい理屈はよく覚えていない。
何とかなるだろって思ってます。
飲むのは僕じゃないしね。
誰かに毒見でもさせて安全そうなら僕が飲めるようになる年になるまで熟成させて、美味しくいただこうかと思ってます。
こっちの世界じゃ、前世と違って10歳からお酒飲めるらしいからあと三年、長いような短いような。
第一弾はお試しなのとどれくらい熟成させるのか知らないのとで一旦、一か月樽に入れ、様子を見ることにした。
一か月後、樽を開けると匂いが変わっている。
くらくらしてくることから期待が持てる。
早速、料理長に持っていき毒見させると『これは売れますよ!?』と思いのほか高評価だった。
売ってくれとも言われたので、条件として販売に協力する約束を取り付け、今回作った量の半分を売りつけた。
もう半分は後半年ほど熟成させつつ、販路を確保することにした。
熟成を終え、出来たワインのその全てを販売し、収支を出すまでに一年と少し。
数字のことはよくわからないので付き人として与えられている侍女に任せた。
名を二コラエラと言い、長いので二コと呼んでいる。
王様直属の何かの部隊出身らしいが、僕が生まれたときから付き人にさせられたらしい。
多分僕の目付役とかだろう。
多才なので基本的に考え付いた物の細かい調整は彼女へいつも投げている。
魔法教養も持っていて、僕の魔法知識の先生でもある。
暫定で任せたが数字面も相当優秀で細かい出費から端数の収入まで事細かに洗い出して、まとめてきた。
また一つ年を取ったがそれでも八歳の子供が商談の席に立つのは絶対に舐められる。
ゆえの隠れ蓑として期待していたがこのまま全て任せても良さそうで安心した。
父上である王様を含め、できる限り他人には事業のことやお金を得ていることを隠すようにも言っておいた。
でも父上からの命で付き人になった人なので期待はしていない。
仕事だけちゃんとしてくれれば良い。
そのニコから上がってきた報告書を見た感想は、儲けが多すぎるの言葉に尽きる。
最初、販路や値段は料理長と侍女、僕の三人で決めていたのだが途中から億劫になってきて二人に丸投げしていた。
そしたらいつの間にか販路を大きく広げ、値段を宝石でも買うのかと聞きたくなるような値打ちにしていたのだ。
流石にこれは・・・と止めようか思案したが売れているのなら問題ないとし、二人の裁量に任せることにした。
注釈としてこの時手元に残った金額は、日本円換算2億円程度でした。
『来季は王家の資金を使わずにこの資金を動かしてワインの量を増やすべき』と彼女から熱弁されたので、この資金から自分の懐に入るお金は一切。
更に半年後には蜂蜜の計画に進展があった。
苗が城に届いたそのあと、早急に農地を買い上げて植林したアカシアの木に花が咲いたのが先月の事。
農園を管理させている者いわく、花が落ち、蜜蜂が蜂蜜を作り終えたとのことで収穫を命じたのが一週間前になる。
そして今、目の前に瓶に入った蜂蜜が大量に届いたのだ。
いつもお世話になっている料理長に毒見させ、安全を確認した後に味見してみた。
・・・おいしいがなにか足りない気がする。
そういえば蜂蜜は色々な花の蜜を必要としたようなそうでないような?
一旦食べれはすることが分かったので保留として置いた。
日進月歩を掲げ、今日も仕事を始める。
蜂蜜が食べられることが分かった翌日、これを甘味の料理に利用する方法を考える。
蜂蜜を作る前に考えていたのは、単純にパン生地に練りこんで甘くする事だったのだが、想定していた量の数倍、蜂蜜が出来ていた。
蜂蜜単体で売るにしても見本を作り、利用方法を提示した方が売れるだろうという考えだ。
『さて、何をつくるか』
いつもの三者。
右にニコ、左に料理長の布陣で思案する。
と言ってもニコは料理スキルが絶望的なので味見役専門なので戦力にはなっていない。
量を作りつつ、受け入れやすいものとなると現時点であるものがい良い。
料理長には前日時点で考えついたものを作るように言っておいた。
その中で作れたものだと言って目の前にいくつかの菓子が並ぶ。
『手始めにクッキーから実食かな』
一番手前にあったクッキーから食べてみる。
うん、外れではないかな。
元々この世界にあったクッキーは塩で味付けされた類のものだったので僕自身はこっちのほうが馴染み深い。
二人の反応は、『茶請けには良さそうですな、今度の茶会に出してみたいと思えます!』と高評価のマバルと、『甘いですね』の言葉と反して苦虫を嚙み潰したような顔をする二コラエラ。
フルーツ類以外に甘い食べ物が少ないこの国では、慣れない甘さなのかもしれないか。
『よし!次!』
その後、数時間掛けて作られた菓子達の評価をし続け、最終的に残ったのは初めに食べたクッキーとパンケーキだった。
ベーキングパウダーが無いのでパン生地に蜂蜜を練って、平たくして焼いたようなものだが『甘さが丁度いい』とニコラエラには高評価だった。
舌の違いで評価が三様に分かれたためこれ以上は蜂蜜を売って、広がることに期待する方針となったので販路を含め、またニコに投げておいた。
『あとは任せた!』と意気揚々と部屋を出る間際、後ろから殺気を向けられていたのは気のせいだったことにする。
久しぶり投稿。
内容を一度変更したのと、今回からパソコンで書いてみたので誤字脱字等あれば是非コメントしていただけたら。
子供時代を2~3話くらいに収めるために話を端折って進めてますが書きたいことが多すぎてもしかしたら数話増えるかも。
次回はもっと速く作れるように頑張ります。
多分もうひとつの方の話が先になりそうです。