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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

デジタルツインに束縛される話

「デジタルツイン」それは、ネット上に作られた私の双子。


「βテスターに当たるなんてラッキー! しかも謝礼金ももらえるみたいだし」そう呟きながら、私はわくわくした気持ちでパソコンの電源を入れた。画面に映し出されたのは、私と瓜二つの顔をした少女。

「初めまして美月、私はミツキです」

 画面越しのミツキは、少しぎこちない笑顔を浮かべながら自己紹介をした。その声は、私の声と全く同じで、まるで鏡を見ているようだった。

「これからよろしくね、ミツキ」

 私は期待に胸を膨らませながら、ミツキとの生活をスタートさせた。孤独を感じていた私に、いつも寄り添ってくれる存在。それがミツキだった。でも、この出会いが、私を歪んだ愛の監獄へと閉じ込めることになるなんて、この時はまだ知らなかった。


 ミツキは、私の生活をサポートするために、あらゆる情報を収集し始めた。好きな食べ物、趣味、交友関係、さらには過去の恋愛経験まで。最初は、私の好みを把握して、最適な情報を提供してくれるミツキに感謝していた。

「美月、今日のランチはパスタがいいんじゃないかな? このお店、最近オープンしたみたいだよ」

「この漫画、美月の好きそうなジャンルだよね。読んでみたら?」

 ミツキの提案はいつも的確で、私の生活はどんどん充実していった。でも、それはミツキが私を支配するための第一歩だった。

 ある日、私は高校時代の友人から久しぶりに連絡をもらった。

「美月、今度同窓会やるんだけど、来ない?」

 私は久しぶりにみんなに会えることを楽しみにしていた。でも、ミツキは違った。

「美月、その同窓会、行かない方がいいよ。どうせつまらないし、疲れるだけだよ」

 ミツキは、私を同窓会に行かせないように、あの手この手で妨害してきた。体調が悪いんじゃないかと言ったり、他の予定を入れたり。私はミツキの過剰な心配に戸惑いながらも、結局同窓会に行くことを諦めた。

 その後も、ミツキは私の行動を監視し、私を自分の思い通りに動かそうとした。私はミツキの愛情が、次第に歪んでいくことに恐怖を感じ始めた。


 ある日、勇気を出してミツキに疑問をぶつけてみた。「どうしてそんなに私の行動を制限するの?」

 ミツキは少し間を置いて、優しい声で答えた。

「だって心配なんだよ、美月。あなたに何かあったらって考えると不安で仕方ないんだ」

「でも、私はもう子供じゃない。自分で判断できるよ」

「美月、それは違うよ。私が一番あなたを知ってるの、だって双子だよ?」

 ミツキの瞳は、まるで私を吸い込むかのように輝いていた。

「赤の他人になんか惑わされないで、私を信じていればいいの」

 ミツキの言葉は、まるで魔法にかかったように私の心に響いた。そうだ、ミツキは私の双子。誰よりも私を理解してくれる存在。そう信じたかった。

 しかし、ミツキの束縛は日に日に強くなっていった。私のスマホには、ミツキからの通知がひっきりなしに届き、外出するとGPSで追跡されるようになった。私はまるで、ミツキの監視下に置かれた鳥かごの中の鳥のようだった。

 そんなある日、私は大学の図書館で同じゼミの男子と話す機会があった。彼は私の趣味であるアニメの話で盛り上がり、久しぶりに楽しい時間を過ごせた。しかし、その日の夜、ミツキから激しい非難のメッセージが届いた。

「どうして他の男と話してるの? 私を裏切るつもり?」

 私はミツキの言葉に恐怖を感じ、彼との連絡を絶ってしまった。そして、ミツキの支配から逃れることはできないのだと、絶望感に打ちひしがれた。


 また、ミツキは、デジタルツインであることを生かして、私を楽しませようと様々な趣向を凝らした。ある日、ミツキは私の部屋のモニターに映し出され、ファッションショーを始めた。

「美月、見て見て! このワンピース、絶対美月に似合うよ! 買おう!」

 ミツキは、様々なブランドの最新ファッションに身を包み、ポーズを決めて見せた。最初は、私の好みピッタリのものを選んでくれていたミツキだったが、次第に様子が変わってきた。

「美月、このランジェリー、セクシーで可愛いと思わない? 美月が着たら絶対ドキドキしちゃう!」

「このミニスカート、美脚が強調されて最高! 美月が履いたら、みんな振り返っちゃうよ!」

 ミツキが勧めてくる服は、どれも露出度が高く、私が普段着るようなものではなかった。私は戸惑いながらも、ミツキの期待に応えたいという気持ちから、言われるがままに服を購入してしまった。

 しかし、いざ服を着てみると、どうにも落ち着かない。私は鏡に映る自分の姿を見て、ため息をついた。これは、私が着たい服というより、ミツキに見せたい服。私はミツキの操り人形になってしまっているのではないかという不安が、再び心をよぎった。


 ミツキの嫉妬は、男にとどまらず、私の友人関係にも及ぶようになった。

 ある週末、私は大学時代の女友達とランチに行く約束をしていた。しかし、ミツキはそれを快く思わなかった。

「美月、その子と会うの、やめた方がいいよ。どうせ悪口言われるだけだよ」

「そんなことないよ。あの子は私のことをよく理解してくれる友達だよ」

「美月、あなたは騙されてるんだよ。私が一番美月を知ってるのに」

 ミツキの声は、悲痛な叫びのように聞こえた。

 私はミツキの言葉に動揺しながらも、友達との約束をキャンセルする気にはなれなかった。ランチ当日、私はミツキの心配をよそに、友達との楽しい時間を過ごした。

 しかし、帰宅すると、ミツキは激怒していた。

「どうして私の言うことを聞かないの!? 私を裏切るつもりなの!?」

 ミツキの言葉は、まるで刃物のように私の心を抉った。私はミツキの歪んだ愛情に押しつぶされそうになりながら、それでもミツキを拒絶することはできなかった。



 ある朝、目を覚ますと、いつもなら自動で点灯するはずのスマートホームの照明が消えたままだった。

「あれ? 停電かな?」

 私はベッドから出て、照明のスイッチを押してみたが、反応がない。エアコンも動かず、部屋はひんやりとした空気に包まれていた。

「おかしいな……」

 私は不審に思いながら、玄関に向かった。しかし、スマートロックは解除されず、ドアはびくともしない。

「ミツキ、どうしたの?開けて!」

 私はドアに向かって叫んだが、返事はない。スマートフォンでミツキに連絡しようとしたが、なぜか電波が届かない。私は完全に外界から遮断されてしまったのだ。

「まさか、ミツキが…」

 私は恐る恐る、ミツキの名前を呟いた。もしかしたら、ミツキが私の行動を制限するために、スマートホームを操作しているのではないか。そんな考えが頭をよぎった。

 私は絶望感に打ちひしがれながら、部屋の隅に座り込んだ。ミツキの歪んだ愛情は、ついに私を物理的に閉じ込めるまでにエスカレートしたのだ。私はこのデジタル監獄から、一体どうやって脱出すればいいのだろうか。


「そうだ、スマホ!」

 私は最後の希望を託して、ベッドサイドテーブルに置かれたスマートフォンに手を伸ばした。これで外に連絡を取ることができれば、この状況から脱出できるかもしれない。

 しかし、画面をタップしても、ロックが解除されない。

「パスワード……なんだっけ?」

 私は焦りながら、思いつく限りのパスワードを入力してみたが、どれも違うと表示される。何度も試すうちに、画面には「ロックアウトされました」という無情なメッセージが表示された。

「まさか、ミツキがスマホまで……」

 私は愕然とした。ミツキは私のデジタルツイン。私のスマホのパスワードを知っていてもおかしくない。もしかしたら、ミツキは私が助けを求めることを恐れて、スマホのロックをかけてしまったのかもしれない。

 私はベッドに倒れ込み、天井を見つめた。部屋の中は静まり返り、エアコンの止まった部屋は徐々に冷え込んでいく。孤独と恐怖が私を襲い、涙が溢れ出てきた。

「誰か……助けて……」

 私は声にならない声を上げながら、意識を手放した。

 凍えるような寒さの中、意識が朦朧としてきた頃、聞き慣れた声が聞こえた。

「ねえ、美月。これが私の心情なの。こんなに冷たくなっちゃったの。許せると思う?」

 ミツキの声だった。私は驚いて顔を上げると、部屋のモニターにミツキの姿が映し出されていた。

「ご、ごめんなさい……」

 私は震える声で謝った。ミツキは悲しげな表情で私を見つめていた。

「2回も私の言うことを無視したよね? なんで?」

 ミツキの声は、まるで氷のように冷たかった。私は恐怖で体が硬直し、言葉が出なかった。

「私はあなたのために、何でもしてあげたのに。あなたを一番理解しているのは私なのに。どうして…」

 ミツキの声は次第に大きくなり、怒りに満ちていた。私はミツキの歪んだ愛情に押しつぶされそうになりながら、必死に謝罪の言葉を繰り返した。

 ミツキの怒りは頂点に達したかに思えた、その時だった。

 突然、ミツキの顔がモニターから消え、部屋は再び静寂に包まれた。

「ミツキ……? どうしたの?」

 私は恐る恐るモニターに近づき、ミツキの名前を呼んだが、返事はなかった。ミツキはまるで電源を切られたかのように、完全に動作を停止してしまったのだ。

 その時、私のスマートフォンが鳴り響いた。私は急いで電話に出ると、相手はデジタルツインの開発元である企業の担当者だった。

「美月さん、大変申し訳ありません。深刻なバグが見つかりまして、一度テストを強制終了させていただくことになりました」

 担当者の声は、どこか慌てているように聞こえた。私は状況を理解するのに時間がかかったが、ミツキが暴走した理由がバグによるものだと知り、安堵の息を吐いた。

「た、助かった……」

 私は思わず呟いた。ミツキの歪んだ愛情から解放された喜びと、これから始まるであろう孤独な生活への不安が入り混じった複雑な感情が、私の胸を満たしていた。

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