国王陛下入場ですわ!
「お前たち何をしておるか!」
ファンファーレが鳴り響き、国王陛下が入場なさったようですわね。
その横には宰相と……あら?うちのお父様もいらっしゃるわね? なになさってるのかしら?
なんだか青い顔でお腹を押さえてらっしゃるわ、陛下と入場されて緊張なさってるのかしらね?
「いや首かしげてるけど、どう考えても義姉上のせいでしょ……」
「はっ! 貴方、思考を読むスキルでも持ってるの!?」
「全部声にだしてるよ義姉上……」
「王太子よ!この騒ぎはどういう事だ! きちんと説明せよ!」
……しょうもない会話をしてるうちに事態は進行してたようですわね、陛下がクズその1を詰問しておりますわ。
「ち、父上……実は……」
あら、クズその1の言葉を遮って国王の傍にいた宰相が
「王太子殿下、ここは公式の場でございますよ。いくら親子と言えども、国王陛下とお呼びください……それにしてもそんなことも進言されないと分からないとは、いやはや……側近はなにをしてるんだか」
うわぁ……めちゃくちゃ怒ってますわねあれは……睨まれているクズその1とその4が震え上がってますわよ。
「ちち……いえ宰相閣下……」
「黙りなさい! お前に発言を許した覚えはありませんよ。黙ってそこで待機なさい」
「ひっ……」
クズその4はもうダメそうですわね……腰が抜けたのかペタリと座り込んじゃいましたわ。
「はぁ……情けない……国王陛下、私は愚息の行いの責任をとり、本日この場限りで爵位を返上し宰相を辞させていただきます」
「なっっ! 突然どうしたのだ宰相よ!」
ビックリいたしましたわ……まさか宰相がお辞めになるなんて……まぁその気持ちもわからなくはありませんのよね……だって……
「陛下……私は宰相の地位にある者として……そして古くからの友人として、かなり前から王太子殿下と愚息ら側近の奇行としか言いようのない失態を再三報告させていただいておりました……愚息の側近も辞させてほしいとも……しかし陛下は『若気の至りだから』や『結婚前の遊びくらい大目に見てやってくれ』などと、まさに王太子殿下と親子なのだな……と痛感させられる始末……」
「さっ! 宰相よ!何を言い出すのだ……そんなことは申しては……」
陛下ったら、そう言いながら皇女のことをチラチラ見ておりますわね……今更意味ありませんのに。
「それは、認めるわけにもいきませんよね……帝国の皇女殿下の前で『事実です』なんて言えるわけもありませんでしょう……ですが私は最早この事態を静観できず、王国の公爵令嬢にして『帝国継承位第三位』をお持ちのご令嬢へと密かに相談いたしました」
そう!それこそがわたくしでございますわよ!
あら、お父様の顔色が土色になってきましたわ……大丈夫かしら?
「え……帝国継承権……?」
陛下もバカその1もなんだか顔色が悪くなってきましたわね……今更、事態の深刻さを理解したのかしら?
「えぇ、わたくしの亡き母上は帝国皇帝陛下のただ一人の妹……つまり皇妹でございますから継承権を保持しておりますの。ですから大事な従妹にして、かわいい妹分である皇女をないがしろにした事はゆるされませんわよ!」
「おねえさま……うれしいですぅ!」
そう言いながらまた抱き着いてくる皇女を優しく受け止めてナデナデしてあげましょうね。
「つまり今日のこの事態はすでに帝国に……??」
「筒抜けどころか現在進行形で生放送中ですわよ?」
そう言いながらわたくしの後ろにある光の玉を指さします。
「これは最近帝国にも普及し始めた、『カメラ』なる魔道具でございますわ。大変優れたものでどんなに離れた場所でも映像を届けられるというものですわね」
ついでに言うとわたくしにだけ見える、『コメント』なる向こうの人々が書き込んだ文字も見えておりますが、別に教える必要もないでしょう。
「な……なんという事だっ……このままでは国際問題どころか戦争ものではないか……」
「自業自得では? ですから私は帝国の属国になる王国の宰相などごめんこうむりますので、爵位の返上と辞職させてもらいます……あぁ、今すぐ妻と二人で愚息の根性を叩きなおす旅にでますので、遺留は聞けません、後任は公爵閣下へお願いしましたので、せいぜいがんばってください。 では」
陛下に止めを刺すように言いたい放題して、宰相はクズその4を引きずっていきましたわ……よっぽど陛下に対してストレスをためてたんでしょうねぇ、お気の毒に……。
あらあら、舞踏会に参加していた貴族の皆さんが、事のやばさに気がついたようで、潮が引いたようにいなくなっていきますわね。
「そんな……私は何も知らなかったのだ! 側近のあいつらがちゃんと止めればよかったのに……そ、そうだ! 王国の公爵令嬢なんだから、お前もこうなる前に僕を止めたら良かっただろ! ……あぁそうか……さっきお前、帝国の継承権持ってるとか言われてたな……さては王国の継承権も欲しくなって僕を陥れたんだろう! この悪役令嬢め!」
「………………どこから突っ込んだらいいのかちょっと思考停止してしまいましたけど、その悪役令嬢ってなんですの? そこは『悪の令嬢』とか『魔女め!』とか言う場面じゃないのかしら……(なんか素敵な響きね)『悪役』ってお芝居に使う言葉ではないの?」
「お前が連れて行かせた彼女が言ってたぞ! 帝国の皇女は『悪役』だから断罪されて当然だと! それを庇うってことは、お前も同類の悪役令嬢だ!」
その言葉にプチッときてしまいましたわ!
「寝言は寝てからおっしゃいなさい! この浮気クズ野郎めがぁぁっ!」
……あらいやだわ、カッとなってつい、回し蹴りをかましてしまいました。
おー。広いダンスフロアーの向こうまで綺麗に飛んでいきましたわねぇ。
「ウァルスギーネ皇女よ……」
「はい」
「我が愚息が本当に申し訳ない事をしたっ!」
国王陛下が皇女に深々と頭を下げておりますわ。
……でも、その決断は
「もう遅いですわ……」
ウァルスギーネが悲しそうに陛下を見ております……えぇ、帝国にすべて知られてしまった時点でもう取り返しはつきませんもの……。
「おねえさま……陛下との話し合いは、後日にいたしませんか? わたくし少し疲れてしまって……」
「なんですって! それはいけませんわ! さぁウチに帰りましょうね! 義弟!なにしてるんですっ、早く皇女のエスコートをなさいな!」
「え……あの……わたくしおねえさまのほうが……」
「私はもう少しやることがありますの! 先に帰ってゆっくりお休みなさい」
「……分かりました。早く戻ってきてくださいね?」
「えぇ勿論ですわ!」
皇女を無事送り帰してから、わたくしは国王陛下へ向き直り
「さて、陛下……この国の行く末についてお話しいたしましょう?」
と威圧を込めて微笑んでやりましたわよ!