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Reセット︰僕と君とバケモノと  作者: おしり大福
一章 『初見回帰』
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第一章7  『壊れていく』

「っ、あ?ぁぁ……痛っ!!」


 覚醒したミナトは、まず見知らぬ天井ということに気づいた。

 そして次に全身が軋む音と、そこを駆け巡る激痛によって顔を苦しくさせた。首、腕、足と次々に痛みが伝播していく。


「何、これぇ!痛ッッ!動かせねぇし」


 痛みが酷すぎて、腕を上げられない。足も上げられない。首を傾けられない。

 そんな苦痛に耐えかねて、再びミナトは眠りについた。


――――――

――――

――


『おぉい。こうやって会うのは初めてで、何で今会えるんだろ?お前が過去に戻る回数が二回になったから?』


「――」


『喋れない?自我が弱すぎるんだね。確かに前回は結構当人にはキツイ体験だったかな?』


「――」


『まああの死に方は壮大だったね。狂気、ってやつに初めて触れたんじゃないの?あれが異質の頂点。俺たちが関わりを持ってしまったんだ。自分の尻は自分で拭わないとね』


「――」


『ここ?ここは『精神の間』。又は『時の回路』ってところだ。まあ難しくて勉強をしてないお前には解らないか?簡単に言うと時間のない無意識の世界のことだよ。確かエリーニャは知ってるはずだ』


「――」


『ん?ああ、アイツら道具のことは知ってるよ。手駒は正確に把握してないと、戦闘時は不利だからね。まああと二日でもう少し頑張るかな。ミナトも、この状況を打破できるように考えてるみたいだけど、それじゃ無理。人間の領域じゃアイツラは退けられない。怪物にならなきゃ』


「――!」


『何でそんな怒ってるの?ああ何、みんなの事を手駒と言うなって?無理だよ!アイツらが手駒にならなきゃ俺たちは一生あの化物に殺され続けるんだよ?分かっていってるの?それはここの世界の記憶に俺たちの『死の記憶』が刻まれないってことだよ!!分かってないわかってないわかってないわかってない分かってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないよ!!!』


「―」


『あ、ごめん。ついカッとなっちゃって。冷静だけが俺の取り柄なのにさ。まあアイツラの対処は俺に任せといたほうがいい。お前はせいぜい無駄死にでもしてろ……嘘、ちょっとは頑張れ。そして犬死しとけ』


「――」


『そろそろ時間だな。それじゃ、これ以上は君の自我が壊れちゃうからね。じゃ!あと二日ね?』


――

――――

――――――


「――ぬおああぁ!……はぁ、はぁ、はぁ、」


 二度目の覚醒は、激痛を忘れるくらい、体の芯が凍るような悪寒を感じてだった。冷や汗が止まらない。目が泳ぐ泳ぐやコンクリートの壁を上下左右全てに焦点を合わせに行く。

 

 腕が震える。足が震える。喉が震える。命が震える。魂が震える――何もかもが震える。


「あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 あいつはヤバい、ヤバいヤバいヤバい何が、どうヤバい。とにかくヤバいヤバいヤバい死違う違う違う違う違う違うヤバいヤバすぎてヤバいヤバいおかしい死違う違う違う違う俺じゃない僕、俺じゃない僕は俺で俺が俺で僕は僕の俺の俺が俺で死狂気の沙汰無理ヤバい死もう助からない知らない忘れたいヤバい死無理だ死キツイ死辛い死震える死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死シシシシシシしししししししししししししししししししししししししァあああぁぁぁぁぁぁぁぁああァああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ――、



――――――


   ――――――


――――


          ――――――

  

  ――――


         ――――――――――



      ――――


           

    

              ――――――――










「ぬぐぉぉぁ、!おぇぇぇぇ!!」


 怖さでおかしくなりそうで、俺は意識の混在に戸惑いを隠せずにいた。そして僕は恐怖を狂気を嘔吐に変えて吐き出す。

 唯一楽になる方法だった。吐いて吐いて吐ききったあと、俺は頭を打ち始めた。


「っ、っ、っ」


 規則的に、何度も何度も頭を硬い床に打ち付けていく。軽い反動に時々感じる痛み。ヒビが入ったような感覚を頭蓋骨に感じながら、ミナトは笑みを浮かべた。


「くくっ、ハハッ!ハハハ?あははっ!!」


 歪んだ笑みに、切れた額から出た血が垂れかかる。そして赤の命を零しながら、今度は目元から青の命を流していく。

 狂っていく。落ちていく。壊れていく。


 今も自らが死を迎えたことと、あの真っ白な空間の記憶が強烈に残り、フラッシュバックを繰り返している。


「無理、無理、無理、死ぬ、くくっ、死ぬ?ああ、終わる、全部、死ぬ、ハハハ」


 乾いた笑い声が無惨にも、孤独の空間に響く。黒い瞳に狂気と恐怖を閉じ込めて、それを笑顔で誤魔化す。おかしくなりそうだった。

 全身の筋肉痛と思われる激痛とも意識的にサヨウナラをしたミナトはゆっくりと立ち上がる。


「……っ」


 微かに感じた血の匂いに、ミナトは気づいた。敏感になった鼻をこすりながらその匂いの元を探した。


「何だ、あの、赤、いの?血、血か、血だ」


 そこで見つけたのは、床にべったりと塗られていた赤字だった。

 気になったミナトはゆっくりとその赤字のもとに向かった。


「何、『ギリア、降臨』……」


 近寄ると、床に書かれていた文字を読み上げていった。そして、それは人の名前のようなもの。

 もしくは白い空間で出会った狂人の名前。

 


 その後、しばらく呆然としていたミナトだったが、彼は何かを思ったのか急に動き出す。


「み、んな、は、どうし、た?」


 壊れた人形のように、ゆっくりと扉に近づく。


 そして思い出す。『君の自我が壊れちゃうからね』と闇の存在が口にしていたことを。


「もう戻れない。死んですべてが無くなるまで」


 次第に溢れていた涙が枯れ果て、乾いた目元が乾燥していく。冷たさと乾く痛みは筋肉痛よりも鮮烈に記憶に残った。

 

「あれ、鍵が……ここ俺の……僕の部屋じゃない」


 おかしな点に気づき、ミナトは脳を沸騰させた。これ以上は何も受け付けてはいけないと頭が拒否行動に移ったのだ。

 

 ――一度の死に、二度の狂人との対面。


 記憶の許容量を大幅に超えた出来事に、ミナトは生ける廃人と化したのだ。

 身体は壊れても戻ってくることを知った。

 しかし心は壊れたらそう簡単には戻らない。戻れない。


「ぁ、誰か……」


 不意に、扉の奥に気配がした。人と会うのは久しぶりな感じがしていたので、平和を求めて扉に手を伸ばす。

 すると鉄製のドアノブが揺れた。


 ――そして、


「君、朝ごはんよ」


「――リリエナ……」


 久々の安堵感に、少しの希望見出す。その彼女が手に持っていたのは、緑の野菜や黄色の卵に赤のケチャップが乗っているものだった。


 ――俺は心狩りだ。極悪に兇悪に無情に無慈悲に残酷に無道に残忍に非道に俺が殺せるのがぁぁ最っ高ぉぉおぉぉ!!!


 ――わかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないわかってないよ!!!


「――っ」


 二人の狂人が脳裏を横切った。二人はミナトに吐き気と喪失感と恐怖を残していったまま、存在を消した。

 ケチャップが血液と見間違えてしまうほどに追い詰められる。馬鹿だ馬鹿だと、ミナトは自分を罵るが、その見解は変わらなかった。

 突如、膨大するのは嘔吐感だった。


「ぐ、オワァァァ!」


「君!?」


 ありえない吐き気に、空っぽな胃から黄色の何かが溢れ出してきた。

 胸が空っぽになった。それを埋めるように鼓動が速まる。


 ――不審な動きをしたら殺される。


「―――」


「……!」


 ミナトが直感的に思った可能性を確かめるようにリリエナの方を向くと、その刹那、銀色の長物がミナトの首をかすめた。

 しかし――、


「……っ」


「ふぅ、やっぱり君があの『心狩り』なのね」


 銀色に輝く剣はミナトの首に達する寸前に、動きを止めた。


 そして『心狩り』と呼ばれた時脳裏に浮かんだのは今もなお忘れ難い強烈な記憶にある狂人だった。

 しかもリリエナに、殺しに依存性を見出す『心狩り』と、それに怯えていたミナトが同一人物だと捉えられてしまった。

 それに対して、ミナトは憤慨を見せようとしたが、長物の前ではそれは封じられる。

 今までの行動の結果が、今のミナトの状況に陥ってしまった原因ということは彼自身が一番理解していた。


「いや、っく、ちが、うんだ。俺は僕は『心狩り』じゃない」


「そんなの、今となっては戯言だよ。確かに非力そう。でも、疑わしきは罰せよ、そんな言葉じゃ私を変えれない」


 開かない口を無理矢理にして否定の言葉を謳っていくが、リリエナは一切それに取り合おうとしない。


「頼む、僕をぉ、あんな屑と一緒に、ひぐッ、しないでくれえ!!」


 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった崩壊顔でリリエナに懇願した。殺さないで、ではなく、屑と一緒にしないで、と。

 しかし――、


「――さようなら、『心狩り』」

 

 最後に見た彼女の紅の目は、血よりも真っ赤だった。


――――――――――――――――


「――で、君があの『心狩り』なの?」


「……ハハ」


 もう何度目になるだろうか。ループが重なるたびにリリエナとの記憶が薄まっていく。

 前回の出来事を脳が受け付けない。今のミナトには彼女こそが真の化物に感じられていた。その考えに至った時点で、ミナトは自分を嘲笑った。


「大丈夫?君、一回休む?」


「ああ、そうさせてもらう……」


 動揺を隠し通そうと務めると、これが案外上手くいく。一度心を壊したからだろうか。しかし、一度丸めた紙が、完全に元に戻らないように、ミナトの心もシワが付いたままだった。

 ムラのある感情にミナトは表情一つ変えない、それこそ、人形になったようだ。


「医務室とかある……?」


「えと、廊下を出て右の奥に行ったら分かるよ」


 医務室の居場所は頭の中にしっかりと詰まっているのだが、疑われないように慎重に慎重にことを進めていく。

 冷静に、頭が冴えているおかげでよく周りが見えていた。

 しかし、先程の出来事を体験して、尚もこの態度というのは、狂人という粋なのではないだろうか。ミナトも深く考えていた。


「う、く……」


 ミナトは廊下に出て、歩き出すと同時に目眩を感じていた。壁に寄りかかると、ミナトは目元を擦りだした。


「あ、れ?」


 世界が色褪せて見える。レッドカーペットは、見事に黒色に錯覚し、ベージュ色の壁は、鼠色に錯覚する。色褪せる色落ちる。

 世界が灰色となって、ボロボロ、ボロボロ落ちていく。

 でも、


「何で、こんなに、落ち着いてんだよぉぉ!!」


 ミナトが大声を張り上げた直後、ゴン、という軽い衝撃音が妙に響く。それはミナトが壁に向かって拳を突き出した為に生じたものだった。

 まるで、自分の怒りを体現するかのように。


「どうして!どうして、さっき殺されたってのに、どうして落ち着いて、どうしてッ!」


 突き出した拳は一度だけでは足りず、何度も何度も壁に叩きつける。その苦しそうな表情と、手から滲み出る血がやけに酷く痛ましげに見えた。

 

 殺された事に落ち着いているのが堪らなく狂ってると分かっている。しかし結果としてはその冷静さに助けられてると理解しているから余計に辛い。

 むしろ、


「殺されない為には今の状態じゃないといけない!」


 それが解っているから、知っているから、ミナトは手から血を流している。それは行き場のない気持ちが溢れ出していた様にも見えた。

 しかし、ミナトはこんな場所で踏み止まっててはいけない。やるべき事は分かりきっている。


「どうやって、『心狩り』を食い止めるか……」


 今回の事柄の問題源である狂人の存在が腹が立つほどに絡んでくる。謎が多い現状、結局は『心狩り』を退けなければならないのは流石のミナトも分かっていた。


「で、やっぱりアイツに助けを求めるしかない」


 そう言って、今後の方針を口にすると、下を向いていた視線を上げ、前を見ながら足を前に出していった。


――――――――――――――――


「――再び参上の『乾坤書庫』。結構懐かしい気分だな」


 二度目の書庫に、ミナトはそう言葉をこぼした。迫力のある壁も、今となっては微塵も驚きはしない。


「南京錠が外れてるってことは中にエリにゃんが居るはずだな」


 あの大きく黄金に装飾された南京錠が無いことが分かると、ミナトは扉に手を当て、ゆっくりと押していく。

 しかし、それがあまり上手く開かず、ミナトは腕だけに入れていた力を全身に送り出した。


「……っ、開いたぁ」


「――何をしに来たのです、邪神教徒。失せろです」


「急に会いに来て辛辣だな!」


 折角、重い扉を開けたことに少々の達成感を抱いていたところを小柄な白髪の幼女に邪魔をされた。

 しかしその幼女は眉間に皺を寄せて言った。


「……?お前は誰と勘違いしてるのです?エリーとお前に何の接点があったのです?」


「え、ぁ、そっか知らないんだったな……」


「……?」


 エリーニャにとっての事実と、ミナトの記憶にズレが生じ、少々のすれ違いが起きてしまう。

 悲しそうな表情を浮かべるミナトは、不思議そうに見てくる彼女に視線を合わせずに心を整えた。


「僕の名前はアマジキ・ミナト!無知無能あと無力、そんな僕は一般人なのでどうぞ邪神教徒などと疑わないでくださいまし!」


「……つまみ出すとするのです」


「何でだよ!?」


 初めての自己紹介をフレンドリーに済ませようとしたミナトだったが、その影響は悪い方へ行きエリーニャの不感を買ってしまう。

 驚愕に声を上げたが、それに取り合わずに彼女は右手をかざした。


「えっ、ちょ……」


「――アース」


 間髪入れずに魔法を繰り出そうとするエリーニャを手を出して静止させようとするが、上手く行かずに彼女は詠唱を短く言った。

 すると、空気中から光の粒子が集まると、突然空中に拳程度の大きさの氷の粒が出来上がった。


 それはミナトに目掛けて勢いよく発射された。


「――グハッ!!」


「さっさと去れなのです」


 容赦なくミナトの鳩尾に入った氷魂の一撃は、重々しく体に響いた。苦鳴を上げるミナトに、エリーニャは酷くも拒否の言葉を言った。


「っ待って、僕は邪神教徒じゃない……」


 痛みが残っているのか、声を掠れさせながら否定の言葉をこぼした。

 しかしエリーニャも頑固なことに、一向に認めようとしない。


「――じゃあその臭いは何なのです」


「臭い?」


 臭い、と言われて思いたる節がないミナトは眉を寄せた。すると、エリーニャもそれに合わせたように眉を顰めた。

 両者ともに言い分が食い違い、真実と嘘の見分けがつかない。

 そんな状況は停滞を選んだ。


「臭いってなんだよ、加齢臭?」


「――邪之残臭、または邪気のことなのです」


 軽い口調で匂いとやらを考察していると、エリーニャが静かに口を開いた。

 ――邪之残臭、邪気と。

 それが例の臭いの元凶ということは理解できるミナト。しかしなぜそれが自らの身体に纏わりついているのかが不明だった。

 

「邪神教徒ってもっと何か凄いんじゃないの?知らんけど」


「まあ確かにこんなアホ面が邪神教徒ならとっくに壊滅してるのです」


 何とか邪神教徒と疑われている誤解を解こうと試行錯誤してみるミナトだが、その応答はとても辛辣なものだった。

 ミナトは少し傷心を負い、気持ちが下がっていたが、当初の目的を思い出しもう一度口を開く。


「なぁ、ここに『心狩り』の書物とかないか?」


「それはあるのですが、話を逸らすなです」


 と、今回探していた物の有無を確認し、有ると分かると一先ずミナトは胸をなでおろした。 


「それって何処?」


「だから邪神教徒はお断りなのです」


 場所を確かめようと聞くと、エリーニャに冷たくあしらわれた。いい加減信用してくれとも思っていたが、相手が相手なので無下にはできない。      

 仲良くしていきたいと思っているからだ。


「分かった。思う存分疑っていいから本を見せてくれ」


「何を言ってるのです?」


 一見、諦めたと思われたミナトの行動だが、本人は全く諦めていない。むしろ今まさに本気で仲を改善しようと頑張り始めたところだ。

 しかしその彼の意図を汲み取れなかったエリーニャは、怪訝そうに顔を顰める。


「だから、魔法でもなんでもいいから、僕が悪さしないように監視してて。それならいいでしょ」


「勝手に……まあいいのですよ、はぁ」


 最後にエリーニャが短い嘆息をつくのを聞いて、ミナトは書庫に足を入れた。


「こっちなのです」


「お、ありがと」


 案内を始めてくれるエリーニャに短く感謝を口にすると、ミナトは足早に彼女のもとに急いだ。

 その小さな背中を見つめながら、呆然と前に足を出していく。


「――」


 すると、急に立ち止まったエリーニャ。その動作は目的の場所にたどり着いたと知らせるものだった。

 そしてエリーニャは、くるりと後ろを振り向きミナトに声を掛けた。


「ここが『心狩り』の調査資料なのです。言っとくのですが、破いたりしたらお前の脳髄を破るのです」


「お、分かった分かった」


 低く唸るエリーニャに、苦笑を交えて了解を伝えると、ミナトは本に手を伸ばした。

 見たところ普通の本、と思い乾いた紙をめくっていく矢先、ミナトは違和感に気づく。


「あれ、何で文字が読めるようになってるんだ?」


 首を傾げ、このおかしな現象について考察を始める。相変わらず異世界の文字は不思議な形をしていて、形象文字の下っ端のようなものだった。

 しかし、ミナトは訳のわからない異世界文字をスラスラと頭の中で読んでいく。

 『心狩り』が人の心を取る犯行動機の一部や、彼の能力が書き示されていた。


「あっ、言っとくのですが、それの正答率は低いのですよ」


「ならそうやって書いとけよ!?」


 せっかく重要な情報が知れたと思った刹那、残酷にもその情報が真実かは不明と知り、ミナトは膝から崩れ落ちそうになる。しかし、そこはグッと堪えて立ち上がる。


「まあ、いいや。この本貸してくれ」


「破いたら殺してやるのです、ニンゲン」


 部屋でゆっくり読むためにエリーニャに貸し出しの許可を貰おうとすると、憎まれ口を叩かれながらも許可をくれた。

 そしてミナトは最後に「そうだ……」と何かを思い出すかのように呟き、後ろを振り返る――、


「――残念だけど、殺しても死なねぇよ。僕はしつこいぞぉ」


 と、エリーニャに対して憎まれ口を叩き返したのだった。


 


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