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Reセット︰僕と君とバケモノと  作者: おしり大福
一章 『初見回帰』
2/16

第一章1  『逃走中』

最近筋トレを始めましたが一日坊主のyamaです。と言う事で二話目更新です。

感想や評価も良ければお願いします。執筆の糧になりますので。

 天喰湊は小さい頃しか両親を覚えていない。在住不明、音信不通つまりは捨てられたのだ。

 『捨て子』、それが湊を一言で表す称号だった。一時期はそれをひどく嘆き、悲しんでいたが、今のように高校二年生と同じ年齢にもなれば、それも次第に収まっていった。

 

 一番ひどかっのは親に捨てられ、保護施設に送られた時だった。その頃はどうして親がいなくなったのか分からなかったからだ。まあそれも今となっては親にとって湊が「要らなかった」のだろうと検討はついていた。

 それに対してはもう何も感じていなかった。


 そして小学生を迎える。

 しかし当然のように湊は小学校には通わなかった。それは孤児の中でも珍しい方だと知ったときはそれこそ天と地がひっくり返るほどの衝撃を得た。

 湊の通っていた孤児院は古い方、というかオンボロだったのだ。その経営持続が困難な所では小学校に通わせる費用などなかった。

 

 そして何もしないまま年は過ぎ、中学校。湊は中学生になっても学校には通わなかった。


 そして迎えた高校生。

 この時の孤児院の経営は正に崖っぷちで、孤児院の先生たちは湊に泣きながら「卒業してくれ」と頼み込んでいた。湊以外の子たちにも。

 しかし、ちゃんとした教育は受けていない湊たちは最低限の教育と国の支給された物件と少ないお駄賃を片手に、それぞれ孤児院を卒業していった。


 その後はただ家の中で何もない冷蔵庫と財布の中を眺める毎日だった。この頃には神など存在しないと本気で思ったものだ。心は死に、体は朽ちる。

 そんな生活のまま、ある日路地裏を歩いていた時だ。

「おい、そこの兄ちゃん。家の店で働くか?」

 そう頭部が禿げている強面なおじさんに声をかけられた時から、湊の収入源は今にも崩れそうな飲食店のバイトとなった。

 

 しかし、早いことにその店は潰れ、收入を一切断ち切られてしまう。

 そこから残りの小遣いで生きてきたが、その希望も潰えた。と思っていたが、湊は知らない土地に移動したのだ。

 そして目隠しの女性に殺されかけ、オリバという男に逮捕させかけている。


 そんな状況で、オリバはミナトに近づいていった。


――――――――――――――――――


「アマジキ・ミナト。あまり見慣れない姿だが……何処のものだ?」


 オリバがそう聞いてくる理由は、ミナトの貧相な服装にあった。季節にも合わない薄汚れたジャージを羽織り、穴の空いた靴に、少し擦れた運動用のラフなズボン。

 そしてミナトは自分の出身地を口にする。


「ああっと……日本ってとこ」


「ニッポン……?ニホンじゃないのか?」


 些細な国名の違いから生じる疑問。しかしそれには大きな違いも見られず、瞬時に疑問は消された。


「まあ、いい。取り敢えずお前は殺人の罪で手錠をかける」


 銀色に輝く二つの円がついた輪っか状の手錠。オリバは見せびらかすようにしてミナトの正面に持っていく。

 

「手錠って……逮捕?」


「逮捕、?ああ。そうだ君をタイホする」


 そんな突拍子もない、と思うミナトだが、現状、この場を見る誰もがミナトを疑うだろう。

 そのことをミナトは呑み込んだ。

 そして――、


「――ああ!なんだあの化け物は!」


「え?」


 いきなり取り乱し始めるミナトは、オリバの背後を人差し指で指した。

 しかしそこには何もいない。振り向いたオリバはそれを確認すると、もう一度正面を向いた。


「はっ!懲りねぇやろぉ。ま、捕まえられたけど、久しぶりに鬼ごっこといくか」


 オリバは先程までミナトのいた場所に、人の姿がないことを把握すると、さも子供のような無邪気な笑みを浮かべる。

 

「あの子供、誰かに似てる気もするが、気のせいだろう」


 疑り深いオリバは静かに口にし、ミナトの後を追った。


――――――――――――――――


「はあ、はあ。もう!今日は走ってばっかだ!脂肪もねぇのに燃焼しちゃ堪んねぇよ!」


 今日はよく走る。ミナトは自らのカロリーのなさを根拠にこれ以上脂肪をなくしてはならないと叫んだ。

 しかし腹の調子とは裏腹に、体の調子はすこぶる良かった。  

 転倒時に擦り剥けた足も回復し、今は元気に走り回れるようになっている。

 これもミナトが記憶をなくしたおかげだ。


「あの時何があったんだ……?」


 やはり釈然としないミナトは、戸惑いを見せながらつぶやく。

 しかし今は深く追求しない。そんなことをしていたらオリバとかいう警視に捕まってしまうからだ。


「あっ!街が見えてきた!僕の家の方かな?」


 光さえも遮っていた大木たちの姿も減っていき、陽光がミナトの体を照らした。

 そして赤いレンガ屋根がホコリのように小さくなっているのを見て、ミナトは思いついた可能性を口にする。


「このまま行けば……!」


 僅かに見える希望を辿ってミナトの足は弾みを増した。唯一の逃げ道と称し、森から抜ける最後の一歩を踏み出した。


 が――、


「やっ……とぉ!崖っ!」


 ミナトの悲鳴の原因。それは大の大人でも小便を漏らしてしまうような、風がなびく断崖絶壁があったためだ。

 下には確かに民家が見える。しかしそこにたどり着くために何メートルも崖を伝って降りなければならない。  

 ミナトは思う。――不可だと。


 今度こそ腰を抜かしたミナトは、大人しく真後ろにいる背の高い男に身を委ねた。


「――よくここまで逃げたもんだ」


「そりゃ嬉しいね。お褒めに預かり光栄だよ!」


 目を細くして、逃げて逃げて捕まった少年のことを称賛するオリバ。

 それに対してミナトは少し、否、だいぶ腹を立てながら怒鳴るように彼の称賛を受け取った。


「じゃ、これ手錠ね」


「――待て」


 キラリと日光を反射する手錠の銀色の部分がミナトの目に入った瞬間、彼は右手で手錠を押し返した。

 そしてミナトは視線をオリバから外した。

 

「殺人罪って懲役何年だ?」


 ミナトの頭上より上にいるオリバに向けて彼は聞いた。


「懲役か……場合によっては死罪だな」


「…………」


 極刑を言い渡され、ミナトは長い沈黙を貫く。迷いの見えたミナトの表情も徐々に決意のようなものに固まっていく。


「――」


 ミナトはゆっくりと立ち上がった。ゆっくりゆっくりと羽虫が止まれる速度で立ち上がる。

 立ち上がって、ミナトは腰に手を当て伸びを一つした。

 

「おい、何するつもりだ?逃げるだけじゃまた俺に捕まるぜ?」


「――」


 伸びを終えると、ミナトは崖の向こうに目を向けた。

 ミナトは思った。――綺麗だ、と。

 色鮮やかと言うと少し語弊があるが、規則的に並ぶ赤褐色の屋根は輝いて見えた。

 

「すぅぅぅ……」


 深く息を吸う。速まる鼓動を抑えるためだ。


 ――足を一歩前に突き出した。


「……ぁ」


 ニ歩三歩と足を前に運び、いつの間にか疾走していた。

 徐々に崖の端が近づいてくる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!」


「おい!馬鹿!」


 腹の底から雄叫びを上げ、ミナトの走りも最骨頂にたどり着いた。

 その時に、オリバもミナトの思惑を理解し、止めに入った。


「――!」


 崖の端を蹴り離す。


――――時が進むのを遅く感じた。


 今更だが、何故ミナトは自ら命を投げ出すような真似をしようと思ったのか。

 実際、ミナトは自殺を試みた訳ではない。ろくでもない人生だったが、生を投げ出すことをミナトは一番嫌っていた。

 目隠しの女と出会ったときもそうだ。首の皮一枚繋がった状態でミナトは生を諦めなかった。


 そして今、ミナトの思惑の先は、崖の下の緑の生い茂る木々だ。

 先程崖から身を乗り出しそうになった時、崖の下に木々があるのが見えたのだ。

 一か八か。オリバ相手に生半可な覚悟では逃げられない。

 ミナトはそう感じ、即座に従った。


「僕は……!死ななぁい!」


 目の端から水滴を小さく零しながらミナトは叫び、直後に落下した。


 木々が目の前に刻々と近づいてくる。その悲惨な状況を、ミナトは実際に目にしたところ「駄目だ……」と諦めてしまった。

 ――威勢がいいのは初めだけ、その後はチキンのビビリ。

 ミナトの本質としてはピッタリの表現だ。


 そしてその時は来た。


「わっぷ!……しゅ、かっ!だはっ!」


 無数にある微妙に硬い緑の葉っぱに顔面が覆われる。その後はミナトにも何が起きたかは未知だった。

 細い木の枝を握ったりして体にいくつもの小さな傷をつけ、ミナトの握った枝は折れて折れて折れて、ついに地面にまでたどり着く。


「がフッ!……痛ったぁ!」


 ミナトの臀部からとても鈍い音が響き、直後にミナトから悲鳴が飛び出た。

 しかし痛みに屈しず、ミナトは叫んだ。

 

「……っ生きてる。生きてる!」


 その表情はあまりにも換気に満ち溢れていて、何もかもが眩しげに見えていそうだった。

 しかしそう時間もない。


「―――」


 ミナトは上からオリバが降りてくる光景を見てしまった。少しの突起を器用に足場にし、それを伝って降りてきていた。


「やっば……!」


 その現実と思えない光景を見て、ミナトは呆然としていた。

 しかしそれは駄目だ、と自分を奮い立たせ動き出した。


 ふと、目についたのは崖の下にできている洞窟だった。


「――あの洞窟、何だか嫌な雰囲気はあるが、オリバから逃げるためだ……入るか」


 おどけた表情を浮かべながら、ミナトは深淵の洞窟に足を踏み入れた。

 




 暗い。寒い。

つい前に感じていた冷たい感情が再び蘇ってくる。そして鳥肌を立てながら、ミナトは洞窟の奥へと進んでいった。


――――

――


「ぇ……うわァァァァァ!!」


 突如としてなくなる足場に、ミナトは声を洩らし、直後に凄まじい悲鳴が響いた。

 落とし穴のようなものに落ちたミナト。まだ拭いきれていない涙の雫が再度溢れ出していた。


「うわぁぁぁ!」


 止まない自らの悲鳴に耳を傷ませながら、遂に落下が終わった。

 滑らかな曲線の落とし穴が滑り台のようになっており、死にはしなかったが、尻は擦りむけた状態となっていた。


「つぅぅ……何だったんだ」


 痛みに顔をしかめたり、怒りで顔を赤らめたりと感情が左右上下、様々な方向に飛び散り、ミナトは体力の限界を迎える。

 

 ――そしてまた、ミナトは何かを感じ取る。


「ん、何だ……」


 急にあたりが物静かになった。不穏な空気を感じたミナトは身をかがめ、警戒心を高める。

 

「――ッ」


 暗闇の中で影が動くのを感じた。とても素早く姿勢の低い影。まるで獣のような身のこなしだった。

 そしてそんなミナトの期待は裏切られなかった。


「ガウッ!」


「うわっ!」


 ミナトに襲いかかるその影は中型犬ほどの大きさだった。

 あまりの勢いにミナトは後ろに尻餅をつく。


「――ッ……なっ!」


 驚愕に目を見開くミナト。その目の前には頭から黒紫の角を生やした猛獣がいた。

 明らかにミナトがつい前にいた世界とは思えないほどの生物の構造をしており、ミナトの驚きはとどまることを知らなかった。


「えっ……僕って喰われちゃう感じ!?」


 今、この状況を客観的視点で見る限り、ミナトは自分が危機的状況に陥っていることを知った。

 そして消えかかっていた恐怖の灯火は油を注がれたようにして再発火した。


「ぬぉぉぉあ!!」


 大きな奇声が洞窟内に響くと、猛獣が吹き飛ばされ、壁に衝突した鈍い音が聞こえてきた。


「どうじゃ見たかぁ!」


 どうやらミナトの火事場の馬鹿力というやつで危機から一旦逃げられたらしい。

 しかし猛獣は何も起こっていないような澄ました姿でこちらに再度向かってきた。


「ちょっ……グハっ!」


 猛獣が突進してきたと思うと、ミナトは再び尻餅をついた。

 今度は、完全に手を押さえつけられ身動きが取れない状態になってしまった。


「えっと……あの、やめてもらってもいいすか?」


「ガルルルルル」


「ですよねぇ」


 言葉も効かない猛獣相手に必死になって弁解するミナト。しかし結果は当然NO。

 ミナトの顔に生暖かい液体が垂れてきた。それが猛獣の唾液だと知ったときは、ミナトも顔を青ざめた。


「ここ、までか……」 


「ガウッ!ガウッ!」


 そうして諦めたミナトは瞳を閉じる。口元を諦めの悪い笑顔を浮かべながら。

 しかし希望は繋がっていた――、


「――ウィード」


 ゴォン!という轟音があたりに響き渡り、ミナトは反射的に身を構えた。目をつむり、外界からの一切の情報を受け取ることができなくなる。

 

「―――」


 そしてゆっくりと目を開いた。先程までの胸にかかる圧迫感もなくなり、容易に起き上がることができた。



 ミナトは立ち上がると、まずは猛獣の行方を追った。暗闇のせいか、中々猛獣の姿が見えない。

 しかし、暫くしてから猛獣の死体と思われる姿が、奥の鋭利な岩壁に刺さっていた。


「これを……誰が」


 この状況を見て手練な奴だろうとミナトは勘付き、恐る恐る猛獣を殺した相手を見る。

 

 ――そう、全ては分かっていた。


「こんな奴から逃げれるわけ無いじゃん……僕」


 はは、と自嘲をこぼしたと思うと、ミナトはまたもや腰を抜かし、その場に座り尽くした。


「はあ、馬鹿なことすんなよな、ミナト」


 ――オリバ。目の前に姿を現したのは、人の形を保つ人ならざるモノ。


 それに恐怖することは当たり前だが、そうする前にもまだ、ミナトを死に追いやる化け物たちはいた。


「ガルルルルル……ワウ!」

「グルル」

「クフー」


「めんどくせぇ」


 先程の騒ぎで猛獣、訂正、魔獣たちが続々と姿を現した。その数目算で、五十以上。

 流石に、ここまで仮初の勇気で生き続けたミナトも、すでに限界だった。


「……ふぅ」


 そんなミナトの前に立ちはだかったのはオリバだった。


「―――」


 彼は露骨に首の骨を鳴らすと、魔獣たちの方を睨みつけた。

 すると――、


「くうぅぅん」

「バフ、バフン」


 ついさっきまで殺意むき出しの魔獣たちが、驚くべきことに一瞬にして大人しくなった。 

 ありえない光景に、ミナトは口を大きく開けて唖然としていた。


「じゃ、今度こそ取調室に行こうか」


「……チッ。はぁい」


 これ以上の抵抗は無駄だ、とわかり、ミナトは遂に大人しく逮捕されたのだった。


「ほら、両手出せ」


 そう言われると、ミナトは渋々両手を差し出す。ゆっくりとかけられていく手錠を見つめながら、ミナトは大きくため息をついた。


「腹、減りすぎた」


 ただでさえ一般人よりも食事をしていないというのに、いきなりの過激な運動。

 ミナトにはこれっぽっちも体力は残っていないし、栄養失調にすらなっている恐れがある。

 

「仕方ねぇな。ほら握り飯だ」


 そんなオリバのため息とともに懐から出たのは白い飯、つやのある白米の塊。要はおにぎりだった。

 

「はぁわわわわわ」


 ミナトは要望が叶えられ、情けない声を上げながら高ぶっていた。

 そして、思い切り大口でおにぎりを口の中に頬張ろうとした時。

 

「おいゆっくり食えよ。じゃねぇと二個目、やらねぇからな」


 そう指摘を口にすると、オリバは再び懐から二つ目のおにぎりを出してきた。

 なので大人しく指示に従い、思い切りかぶりつきたい気持ちをミナトは抑えながら、小さく一口一口食していった。


「うめぇぇぇぇぇ!!」


 感動の声が洞窟が揺れるほどに響いた。それほどまでに絶品なおにぎりに、ミナトは瞳から涙を溢れさせていた。


「そんなうまいか?」


「当たり前だろ!お前にはやんねぇよ」


「いらねぇし」


 本当に疑問なのか、オリバは眉間にシワを寄せながらミナトに聞いた。するとミナトはその質問に食って掛かり、当然だと言い放つ。

 それに渋々納得したオリバは、いつの間にか右手にしていたおにぎりを口にしていた。


「ああ!食ったな、僕のおにぎり!」


「俺のだよ!」


 うるさいほどに喚き散らすミナトをオリバが怒鳴り一蹴。そしてその時には、ミナトは二つ目のおにぎりも食べ終わっていた。


――――――――――――――――


 その後は苦難の道のりで、落ちた穴を登りに登って地上へと脱出していた。


「はぁ、疲れた」


「お疲れさん。こっからは『転移術式』でお前の新しい鉄骨の部屋に行けるぜ」


「はぁ、憂鬱」


 色々な事情が重なり、ため息は新しいため息と合わせて二回吐くこととなった。


「てか今の日本って転移術式?なんてものもあるんだな」


 ミナトにとっては外の情報などが一切遮断されている状態だったので、そんな物が開発されていたことを知らなかった。

 そんなことをミナトはオリバが術式の容易をしているのを眺めながら思っていた。


「てか、ここって本当に日本なのかな?」


「おーい!出来たぞ。こっちへ来い」


 ミナトが疑問を口にすると、オリバに呼ばれ、小走りでオリバのもとへ行った。


「これどうやんの?」


「俺に捕まってろ」


 そう言われ、オリバの右肩をキュッと握ると、周囲が青白い光に覆われる。

 徐々に前の木々が白くなって、見えなくなっていくと、今度は頭が真っ白になった。


――――――

――――

――


「―――」


 次に目にした光景は、緑の生い茂る木々ではなく、コンクリート製の黄金が輝く一室だった。


「――オリバさんおかえりなさい。そちらは?」


 聞き慣れぬ少女の銀鈴な声を耳に挟むと、ミナトは焦点をその少女に合わせた。


「――」


 息を巻くような美麗な顔つき。身長は百六十センチ後半だろうか。大きくすずしい瞳に長いまつ毛。艶のある長い黒髪は結ばれており、ポニーテールとしての姿があった。

 

 そして、何もかもが吸い込まれてしまいそうな紅の目。

 あまりの美しさにミナトは言葉を失った。


「で、君があの『心狩り』なの?」


「ぇ、……心狩り?」


 聞き慣れない単語を耳にし、思わず聞き返してしまったミナト。しかし、そんな彼に苛立ちを見せずに少女は言った。


「――そう、現在追っているジケンの犯人の異名が『心狩り』。そして私達の組織の名は、邪神教犯罪課、通称オリカル――君と話がしたいの」


 そう言って、少女はミナトにしなやかな白く細い腕を差し伸べたのだった。 




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