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飛び領地邸の仮面夫婦  作者: 市境前12アール
第六章 商取引
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6.マムの思惑(2)

本日、二話同時に更新していますので、ご注意願います。(二話目)

 マムの件で調査をしている時に気付いた、マムのもう一つの目的。「マムはここの兵士たちを使って商売の情報を集めて、その情報を組織に売るつもりでは」という仮説に、エフィムとスヴェトラーナが、無言で思考を巡らせる。そんな二人に、説明を続ける。


「組織は帝国の市場なんて、ほとんど何も知らない。今まで帝国と商売していなかったのだから当然ね。でも、()()()は、グロウ・ゴラッドのことについて、そこまで無知じゃない」


 エフィムは短いとはいえ数ヶ月ほど、この街を見て回っているし、何より、今は私やプリィもいる。私たち飛び領地邸の人間は、この街について、何も知らない訳じゃない。たとえ僅かでも、帝国のことを何も知らないであろう組織よりは優位に立っているはず。


……でも、ここの兵士たちを使ってマムが集めたであろう情報は、その優位をひっくり返せるはずだと、二人に説明をする。


「このままだと、取引の主導権は私たちが握ることになる。でも、それでは組織は()()()()()()()。だから、きっとマムから情報を買うと思うわ。それで、少なくとも面子は立つはずよ」


 組織も、その情報で面子が立つのなら十分な価値があると考えるはず。……仮定の多い話だけど、確信はある。これまで、身近なところでマムのやり方をずっと見てきた。マムならきっとそうするだろうという自信がある。


 その自信を読み取ったのか、エフィムとスヴェトラーナは私の仮説を受け入れて。その上で、それぞれに感想を漏らす。


「……言うのもなんだけどさ。二十人強、半年弱、総額六百万ツァーリプードから得られる情報に、そこまでの価値はあるかなぁ」

「そうですか? 最初の取引で相手よりも劣勢に立たないために情報を集める。それは悪くない手だと、私は思いますわ」


……最近わかってきたんだけど、帝国貴族と組織には、少し似たところがある。「面子」もその一つで、組織、帝国貴族はそれぞれに、実利よりも面子を優先する一面がある。そういう所は、スヴェトラーナはとても帝国貴族らしい人。「そんなにも面子は大事かなぁ」なんて言ってしまうエフィムの方が、多分少し外れてるのだと思う。


「……デュチリ・ダチャって、確か組織の下部組織だったよね」

「そうね。一枚岩とは程遠いけど」

「その割には、結構信頼してるようにも見えるけど」

「日頃から強かさを見せつけられてればね」


 そんな他愛もない会話をエフィムと交わす。組織もデュチリ・ダチャには常に探りを入れている。デュチリ・ダチャによく出入りしているドミートリも、役目の半分はそれ。ふざけているようであいつの目は広く全体を見てるし、小さな違和感を見逃さない。マムのこともよくわかってて、マムに取り込まれることもない。ああ見えて、かなり貴重な人材だ。


……そうね、そう考えると、私たちも少しデュチリ・ダチャとの付き合い方も考えないといけないのかもねと、そんなことをふと思った。


  ◇


 そうして、一通り話を終えたところで。エフィムも考えをまとめたのだろう、結論を口にする。


「でもまあ、それなら何もしなくてもいいのかな。あの人たちが手強くなってくれるのは、僕たちにはむしろプラスになると思う」


 エフィムの、やや気楽な口調の言葉。自分たちは直接店を出して商売をする気はない。実際の商売は組織や他の人たちにまかせて、自分たちはグロウ・ゴラッドと帝国とをつなぐ役割に徹するつもり。だから、組織が賢くなって利益を上げてくれれば取引量も増えるし、それはそのまま自分たちの利益になる。なら、何も悪いことはない。


 その言葉に少しだけ考えて、スヴェトラーナが頷く。


「そうですわね。ただ、私たちの方でも、兵士たちが何にお金を使ったのか調べておいた方がいいと思いますわ」

「それはそうだよね。実際に何に使われたか、できるだけ調べておくことにしようか」


 そんな二人の会話に、少しだけ考えてから、自分も頷く。確かにそれで、私たちが何か損をするわけじゃない。兵士たちも、スヴェトラーナが蹴飛ばしたくなるほど入れ込まなければ、いい気晴らしになるのも事実だろう。


 もちろん、せっかくの情報だ。こちらでも調べれるだけは調べておいた方が良いと、私も思う。


……もっとも、私たちの情報の方が、正確さには劣ることになるだろうけどと、そんなことを思ったところで、同じようなことを思ったのだろう、スヴェトラーナが軽くこぼす。


「……それにしても。私たちが使ったはずのお金なのに、私たちの方が把握していないというのは、少々悔しいですわね」


 そのスヴェトラーナの発言に共感したところで、エフィムがなにかろくでもないことを考えたのだろう、悪戯小僧っぽい表情を浮かべる。


「……なら、こんなのはどうだろう」


 そうして、エフィムが思いついた「ちょっとした意趣返し」を聞いて。思ったよりはまともなその案に、頭の中で少し検討を加える。


「そうね。面白いと思うわ。……ただ、それならこうした方がいいんじゃないかしら」


 大筋では賛意を示しながら。どうせならこうしたらどうかしらと、その計画に修正を入れて。そうして、エフィム発案、私が修正した「意趣返しの案」が完成する。


  ◇


 その二人の様子を見ていたスヴェトラーナは、小声でプリラヴォーニャに話しかける。


「(……あの方、思ったよりも悪戯小僧ですわね)」

「(そうですね。たまにそうなりますね)」


 スヴェトラーナのやや呆れた感想に、プリラヴォーニャが同じく小声でそんな返事をする。


――今のミラナは悪戯話に夢中で、すぐ隣でこんな話をしているのにも気付かないだろうと、そうプリラヴォーニャは確信しながら。


  ◇


 そうして、話が一段落ついたところで。兵士たちがどんな風にお金を使ったのか、再び調査を始める。まずは、各人にどんな形でお金を使ったのか、書面での報告を求めて。次いで、その書面を元に聞き取り調査を実施、さらに、必要に応じて買い物をした店を訪問、記憶を呼び覚ましてもらう。そんな作業を、エフィムとリジィ、私とスヴェトラーナの四人で、手分けしながら進めていく。


 ちなみに、件の兵士は十三万ツァーリプードほど使いこんでたんだけど、結局、何に使ったのかはわからずじまい。


「この差額もマムさんは把握しているわけか」

「そうね。それも多分、一ソルストゥ単位で。……あと、もし彼らが何を買うか迷ってたとしたら、それも把握しているかも」

「……それは、随分と情報を抜かれてるなぁ」


 大きな買い物、記憶に残るような買い物はともかく、日頃の何気ない買い物の類は抜けが大きい。調査を進めていくごとに大きくなっていくその額に、思わず慨嘆するエフィムを見ながら、改めてマムの手際の良さに感嘆する。


「……しかし、この街にも領収書なんて物があるんだねぇ」


 調査を進めていく途中、そんな感想を抱くエフィム。……どうやら帝国は、帳簿から税金を計算していて、必要に応じて領収書の類まで税務官に見せたりするらしいんだけど。それがあまりにも厳しくて、なんとなく「領収書は税務官に見せるもの」という印象が先行していたみたい。で、組織は税金(みかじめりょう)は大雑把だと思ってたから領収書なんて無いと思ってたと、そんな話。


……確かに組織は、みかじめ料を取るのに帳簿なんていちいち見たりしない。だけど、その帳簿を付けるために領収書は必要だし、領収書無しでちゃんとしたお金のやり取りは出来ないわよねと言う私の言葉にエフィムは、全くごもっともだよねと、笑いながら答えてた。


  ◇


 そうやって、地道に調査を進めて数日が経過した頃。再び神父様から手紙が届く。


「神父様はなんて言ってきたのですか?」

「いや、別に何かがあった訳じゃなさそうだね。……いや、そうでもないのかな?」


 スヴェトラーナの質問にエフィムは、何でもないように答えて、その手紙を彼女に渡す。一読して、少し呆れた顔をする彼女。その彼女から手紙を受け取り、一読したところで、プリィの質問。


「何て書いてあるんですか?」

「……どうも、デヴィニ・キリシュラッドの街で、野良猫?という生き物を見つけたみたいね。『餌付けされたくせに妙に偉そうで、まるで餌を食べてやるみたいな態度が気に入った』って、そんなことが書かれてるわ」


 実際には、その野良猫?を手に入れることができるのか、飼うことはできるのか、餌は何かという感じで神父様を質問攻めにしたらしい。で、もしかしたらその野良猫?という生き物を列車でこっちに送るかもしれないと、そんなことが書かれていた。


――そうね、マムがこの旅行を心から楽しんでる様子がまじまじと伝わってくる、そんな手紙だった。

申し訳ありませんが、色々と多忙なため、少なくとも来週3/17の更新は難しい状況です。申し訳ありませんが、しばらくお待ちいただくようお願いします。m(_._)m ペコリ

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