フィナーレを飾る舞踏会で
それは、この物語の、最後の一幕。
ゆったりとした曲が流れる中、エフィム様と私は、向かい合って手をとりあい、肩を寄せる。周りには、私たちが踊り始めるのを待つように視線を送る、色とりどりの仮面を付けたパーティーの参加者たち。
帝国民も辺境街の民も等しく集う、そのために参加者全員が仮面を付けることになった今宵の舞踏会。誰も、こんな仮面を付けただけで身元が隠せるなんて本気で思っていない。でも、その建前と仮面舞踏会という「遊び心」は、とても合っていたのだろう。誰もが相手の身分や出自を気にせずに、交流を楽しみながら、それぞれに思惑を抱いて、この場にしかない出会いを求めて声をかけあう。
そんな様々な人たちの視線をこの身に浴びながら。エフィム様と私は、広いホールの中央に立って、互いに見つめあう。
仮面ごしに、仮面の奥のエフィム様を見つめる。出会ったあの時と同じ、春精をまとったエフィム様を。いつものように、私に優しく微笑みかけるエフィム様を。
……ああ、でも今は、あの時とは、今までとは違う。
互いに手を取りあって。
互いに肩を寄せあって。
互いにそっと抱き寄せあって。
エフィム様に身請けされてから二年間。
どうしていいか、どうすればいいか、今までずっとわからなかった。――ああ、でも、今ならわかる。次に何をすれば良いか。
仮面越しに、エフィム様の瞳を、心を、そっと見つめて。両の手を持ち上げて。抱きしめるように、エフィム様の頭の後ろに腕をまわす。
他の女性なんて知らない。瞳で心を捕らえて、唇で心をものにすれば、それで終わり。これで、エフィム様も私の物。二年越しの想いに胸が高鳴る。
触れ合って、寄せあって。瞳の奥をのぞきこんで。瞳の奥をのぞきこまれて。あとはいつも通りに、目の前の唇を私の唇にまで引き寄せれば、目の前の男性は私の物。そんな懐かしい心に酔いながら、彼の唇をその仮面ごと、私の唇にまで引き寄せる。
ああ、あとほんのひと時、あとほんの少しで、私の想いは成就する。その瞬間に、ぐっと抱き寄せられて、引き寄せられて。力強く、唇ごと引き寄せられて。
――気が付けば、私も彼も、互いに抱きしめあいながら、互いに唇を求めあっていた。
これは、一人の元娼婦の抱いた想いの物語。その物語の幕開けは、二年前、彼女がまだ娼婦だったころから始まって……