第3-3話 スキルを駆使して遭難者を救出します
……状況を整理しよう。
スキーに来た俺たち、ロッジで休憩していると、奥のゲレンデで雪崩が発生したとの情報が。
凛の両親……俺の叔父さんと叔母さんが雪崩に巻き込まれた。
凛に入ったメッセージによると、ふたりは無事だが、叔母さんが足を骨折してしまい、すぐには動かせないらしい。
他に2人のスキーヤーがおり、合計4人が遭難している、
悪いことに、先ほどまで小雪だった天候が悪化してきている。
奥のゲレンデはもっと山頂に近い位置にあり、ここより天候が荒れているに違いない。
「なに!? 悪天候で県警のヘリが飛べない? マジかよ……」
ロッジの係員が話す内容が聞こえてくる……まずいな……いくらスキーウェアを着ているとはいえ、悪天候だと体感温度はマイナス20度以下……もうすぐ夕方になるし、一刻の猶予もないかもしれない……
「ユウにぃ……大丈夫だよね……?」
凛が不安そうな声をあげる。
「大丈夫だ。 連絡があったという事は、雪崩に埋まったわけじゃない。 吹雪をしのげる場所に避難すれば……」
優しく凛の頭を撫でてやる……とは言ったものの、俺も正直不安だ……。
……まてよ? 現在使用可能な”バグスキル”である、”瞬間移動”と”治癒術”を使えば?
「……エレン、さっき凛のスマホに入ったメッセージから、叔父さんたちの場所を確認できるか?」
[……やってみます]
エレンはこういう事も得意な子だ。
……やっぱりリアルでは大人なのかもしれない。
[分かりました。 ここです]
数分後、エレンから俺のスマホにメッセージが届く。
ここか……もらった座標を地図アプリにマッピングする。
「ユウにぃ、何やってるの? そうか! ”瞬間移動”を使うんだね」
「ああ。 遭難者全員……4人か……を抱えて”瞬間移動”するのは無理かもしれないが、”治癒術”でケガ人を治せれば、滑って降りれるかもしれない」
「なるほど、さっすがユウにぃ! ……ねえ、アタシもつれてってよ!」
「一人なら一緒に転移できると思うが……危険だぞ?」
「ほかにも遭難者がいて、人手がいるかもしれないでしょ? お願い!」
……確かに、運動神経抜群の凛がいてくれた方が良いかもしれない。
「よし! それじゃあふたりで行くか! 出発の準備をしよう」
「うん!」
[……私も連れてってください]
俺は防寒装備と、念のため気付けのウィスキーなどの道具をそろえ、エレンのタブレットを持ち、凛と指定の場所に”瞬間移動”するのだった。
*** ***
「ふうっ……ここが雪崩の現場か……思ったより天候は悪化してないな?」
なんとか無事に”瞬間移動”することが出来た……目の前には大きく崩れた雪の塊が広がっている。
現在の天候は吹雪……までにはなっていないが、横殴りの雪が降り、風も強い。
急ぐ必要がありそうだ。
「ユウにぃ、あそこ!」
目の良い凛が見つけてくれた。
雪崩で崩れた雪の脇、大きな針葉樹の根元に、4人の人間がうずくまっている……あれは、叔父さんたちだ。
「パパ、ママ! 大丈夫!?」
ふたりのもとに凛が駆け寄る。
「凛!? どうしてここに?」
「凛ちゃん? どうやって来たの!?」
叔父さん、叔母さんもびっくりしている。
それもそうか……遭難現場にいきなり自分たちの娘が現れたのだから。
「叔父さん、叔母さん……大丈夫ですか? 特に叔母さんは足を骨折したとか……」
「悠君まで? 凛と来てくれたのカイ? それはグレートだ!」
凛の父親……俺の叔父さんはハーフなのでたまに怪しいガイジン口調で話す。
以外に余裕あるなこの人。
「細かい説明は省きますが、俺たちが現在プレーしてるゲームの”リアルスキル”を使いまして」
「オー! 凛がやっている[探検者になろう]ってヤツだね! いやぁ、最近のゲームは凄いなぁ」
……俺もいまだに信じられないんですがね……そうだ、叔母さんのケガも確認しないと。
「ママ、足を骨折したって聞いたけど……足首?」
「そうなの……パパがかばってくれて……素敵だったわ」
「ふ、マイハニーをかばうのは同然さ!」
娘の心配をさておいて、ラブラブっぷりを見せてくれる叔父さん夫妻。
「パパ、ママ……元気そうで安心したわ」
いつも通りフリーダムな両親に思わずジト目になる凛。
と、とりあえず、”治癒術”を試してみようか。
「ユウにぃ……そうだね。 ママ、患部を見せてくれる?」
やはり骨折しているようだ。
真っ赤に腫れ上がっていて痛々しい。
ここまでのケガを治せるんだろうか……俺は少し不安になりながら、[探検者になろう]アプリのリアルスキルスロットより、”治癒術”を呼び出す。
パアァァ!
先日使った時より強い光が現れると、見る見るうちに患部の腫れが引いていった。
「こ、ここまでのケガがホントに治っちゃった……」
「先ほどパパが言ってたゲームのスキルね……凄いわねぇ……ゆーくんありがとう! お礼に今日の夜、凛をあなたの部屋に送り込むわね!」
「なっ、ななな! 何言ってんのよママ!」
「……叔母さん、母親のセリフじゃないです」
すっかりいつものフリーダムさを取り戻した叔母さんに安心する。
凛の顔はゆでだこのように真っ赤だ。
ふふん、ギャルっぽく振舞おうとしているが、コイツはとてもウブなのだ!
たまにからかうと超面白い。
[……ユウ、あとふたりいる……治療したげて]
おっと、そうだった。
俺は一緒に避難していたカップルのケガを確認し、治療するのだった。
”治癒術”のスキルに対し、凄くびっくりされたが、[探検者になろう]の名前を出してごまかした。
「皆さん! スキー履けましたか? いまからゆっくりと滑り降りるので、お互い前の人を見失わないようにしてください!」
土地勘がある俺が先導し、凛が最後尾でフォローする。
[探検者になろう]でもよくやる陣形だ。
[……ユウ、こっちのコースがいい。 反対側は雪崩の危険アリ]
タブレットの地図アプリを操作し、マッピングしながら誘導してくれるエレン。
……30分後、エレンの適切な指示もあり、俺たちは一人も欠けることなく、ふもとのロッジまで戻ることが出来た。
*** ***
ロッジの係員に報告すると、大変驚かれたが同時にすごく感謝してもらった。
明日朝、天候の回復を待って念のため再捜索をしてくれるらしい。
俺たちは叔父さん叔母さんに弄られながら夕食を済まし、いまはゆったりと大浴場に浸かっている。
遅い時間なので、他には誰もいない。
「……ユウにぃ、今日はありがとね!」
隣の女湯から、凛の声が聞こえる。
「凛もお疲れー。 叔父さん叔母さんが無事でよかったよ」
「にひ、今日のユウにぃ……凄くカッコよかったよ! バレンタインデー、期待しといてね!」
「おう、頼むぞ~!」
どうやら俺は、女子社員の義理チョコ以外を確保できそうだった。
*** ***
[レイドボス:ニーズヘッグ(残りHP2,003億1,101万,7000)]
[探検者になろう]の情報画面を見つめるエレン。
ユウたちはとてもいいひと……よくやってくれている……でも。
あとどれくらい、私は待てばいいのだろうか。
エレンはそっと、ため息をついた。
【ここまで読んで頂き、ありがとうございます!】
次の章はバレンタインです(ラブコメあり)
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