第3-1話 治癒術とか、反則すぎない?
一週間後、振り込まれた給料で課金アイテム”魔獣寄せ:プラチナ”をたっぷりと購入した俺たちは、”トールの迷宮”で狩りにいそしんでいた。
「あと、2体!」
ガシイィィンッ!
俺の魔力付与したシールドアタックでスタンしたシルバーラッテ(そこそこの経験値がもらえるレア魔獣)を、リンとエレンがそれぞれ追撃する。
「ユウにぃ、さんきゅ! もらった!」
バキイッ!
シルバーラッテAには天井を使い2段ジャンプして威力を増した、リンのカカト落としがとどめを刺す。
「ユウ、ナイスです」
「”フレア・レーザー”」
間髪入れず、エレンの爆炎魔法がシルバーラッテBを焼き尽くした。
「ふう、なかなかいい連携だったじゃん? アタシたちのクラン・ランキングも結構上がったみたいだね♪」
鮮やかに連携攻撃が決まったのが嬉しいのか、リンは上機嫌だ。
リンの衣装は、動きやすいように大胆に肩を出したタンクトップにショートパンツ。
手先と脚先には、魔力付与可能な、ごつい武具を装備している。
リンらしい、活発な印象を与える衣装だ。
……確かに、先週のクラン・ランキング、中級ゾーンのランキングではあるが、ベスト10に入ることが出来た。
「ついにアタシたちもランカーかぁ……最近やけに調子いいんだよね」
確かに……俺も最近、自分たちのレベル以上、想定以上に動けている実感がある。
「この一体感が[探検者になろう]の醍醐味……いいパーティになってきた。 ユウが”バグスキル”を手に入れたのも影響してる」
「そーなの? エレンちゃん詳しいね」
エレンは時々、ゲームの仕様を知っているような態度を取ることがある。
もしかして、知り合いに[探検者になろう]運営の関係者がいるのかもしれない。
「エレンは良く意味深なことを言うのな。 もし”バグスキル”の仕様を知ってたら教えてくれよ」
「……ん、禁則事項」
エレンは、いたずらっぽい仕草で人差し指を立てて唇にあてる。
ポーズに似合わず無表情だが。
彼女の衣装は、黒を基調とした、魔導士らしくいくつかの宝玉があしらわれた上着に、短めのスカートとタイツを履き、足元は白のブーツ。その上に、赤を基調としたローブを羽織っている。
すました顔をしているが、背が低いのでかなりかわいい。 先日新調した新衣装だ。
「ん~、それにしてもエレンちゃんの新衣装、かわいいな~。 お姉さんなでなでしたくなるんですけど~うりうり。 くそ~もっとこのほっぺのもちもち感を感じられたらいいのに……リミッターを切ってくれえ!」
「むー、リンさん、やめてください」
可愛いエレンが大好きなリンが、エレンにむにむに攻撃を仕掛けている。
口調はかわいいが、やっていることは完全におっさんである。
少しうらやましいが、俺が実際にやるとポリスメンに捕まるので我慢することにしよう。
[112,000の経験値を獲得。 クランレベルが40に上がりました]
[……ザザッ……レベル40への到達を確認……新たな”バグスキル”が獲得できます]
俺たちがじゃれあっていると、ガイドメッセージがレベルアップを告げる。
先日確認した新たなバグスキルをゲットしたようだ。
「よし、レベル40に届いたか……スキルを確認するぞ」
俺はメッセージウィンドウの端に表示されている”▼”をタップし、スキル一覧を表示させる。
予想通り、”治癒術”の文字が青色に変化しており、スキルを取得可能になったことを示している。
「念のため、アタシが装備、試していい? ……ん~、やっぱダメかぁ」
スキルが違うのでもしかして……と思ったが、やはりリンには装備できないようだ。
「ということは、やはり俺のスロットに……おお、やっぱり装備できた」
うーむ、やはり俺しか装備できないらしい。
あとは、これで現実世界に戻ってイイコト……をすればいいのか。
「うん、ユウ……がんばって」
エレンが嬉しそうに期待の声をかけてくれる。
……エレンの好み的には、怪我した子猫を助ければいいのか?
「……いやー、今日も遊んだねー。 そろそろ帰る?」
リンが大きく伸びをする。
そうだな、今日の目的を達成したことだし、ログアウトすることにしよう。
*** ***
翌日、特に冷え込んだ朝、俺と凛は最寄り駅に向かっていた。
「うう寒い寒い……今日は特に寒い……うえっ? 氷張ってんじゃん!」
「兵庫県北部は大雪らしいからな……そんなに寒いならタイツ履けばいいのに」
朝の寒さにブーブー言っている凛はしかし、生足である。
「ちっちっ……甘いねユウにぃ。 露出を抑えたイマドキJKのアピールポイントが、この生足なんだよ。 どんなに寒くても、ガマン!」
そ、そういうものなのか……ファッションは我慢だと言ったのは誰だったろうか?
JKの世界も厳しいんだな……。
「そーいやユウにぃ、”治癒術”は試さないの?」
「そういってもな……ケガした子猫とか、なかなか見ないぞ……そもそもこの季節は猫を見ることがあまり……」
「ユウにぃのリアルスキル、”猫寄せ”じゃん! こういう時に使ってみれば?」
おお、コイツ頭いいな! 思わずポンと手を打つ俺。
「あいたたた!」
その時、俺たちの背後からおばあさんの悲鳴が聞こえた。
「へ、なに?」
俺たちが振り返ると、一人のおばあさんが倒れ込んでいた。
どうやら、凍っていた水たまりで滑って足をくじいてしまったらしい。
結構痛そうだ。
「ユウにぃ、”治癒術”使ってみたら?」
そうだな、俺も同じことを思ったところだ。
俺は、[探検者になろう]アプリを起動すると、スキルスロットを展開してからおばあさんに声をかける。
「おばあさん、大丈夫ですか? 足をひねっているかもしれません。少し待ってくださいね」
サンダルを履いたおばあさんの足首を見ると、赤く腫れあがっている。
このスキルでどうにかなるんだろうか? 俺は多少不安に思いながら、”治癒術”をタップする。
パアァ……
「すごっ!」
「な、なんだいこれは?」
リンとおばあさんが驚きの声をあげているが無理もない。
いきなりおばあさんの足首……患部が淡く光ったのである。
「ありゃ、痛みが消えていくよ……」
光が消えたときには、すっかり足首の腫れはひいていた。
「おーおー、こりゃアレかい? こないだテレビで見たけど、”ゲーム”の”りあるすきる”ってヤツかい? いやあ、最近の技術は凄いねぇ!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとね! これはお礼さ」
すっかり元気になったおばあさんは、手押しカートからオレ達にお礼のミカンを手渡すと、さっといなくなってしまった。
「ほ、ほんとにケガを治癒出来たね……今回のスキルも凄すぎない?」
「あ、ああ。 まさに俺たちがゲームで使っている回復魔法みたいだった」
ピコン!
例のごとく、[探検者になろう]アプリが通知音を奏でる。
[レイドボス:ニーズヘッグ(残りHP2,100億2,235万,7000)]
「おお、ものすごく減ってる……!」
「人助けは、効果がおっきいみたいだね」
ピピっ
その時、エレンからチャットが入る。
内容は一言
[ぐっじょぶ]
「エレンちゃんって、エスパー?」
さあ……俺のつぶやきが、朝の空気に溶けていった。