第1-1話 大人気VRゲームとリアルスキル
ある冬の日。
俺の視線の先に一匹の小さな子猫が見える。 かわいいな……子猫は世界の癒しだぜ……ん?……危ない!?
子猫が渡る道路の先に、届け先が分らないのか○○イーツの出前自転車がスマホを見ながらふらふらと走ってくる。
このままでは、子猫が轢かれてしまう!
子猫がいるのは数十メートル先、走っても間に合わない!
俺は猫好きだし、かわいそうなイベントは大嫌いだ!
俺は子猫を救うため、スタンバイ状態にしていたスマホアプリから、スキルスロットを展開、”瞬間移動”をタップした。
……俺は、この行動が平穏な日常を終わらせるきっかけになるとは、まだ気づいていなかった。
なんでこうなったのか、話は数日前にさかのぼる。
*** ***
ガキイィィイン!
「! 止めたぞ、リン!!」
俺は、ゲームスキルの”防御陣”と”シールド防御”を展開させ、[ゴブリン・ロード]の突進をかろうじて食い止める。
「ユウにぃ、任せて!」
ドゴッ……
俺の合図に合わせ、後衛から一気にジャンプしたリンが、魔術付与した回し蹴りを[ゴブリン・ロード]に叩きこむ!
ギアアアアッ!
苦悶の叫び声をあげる[ゴブリン・ロード]
いまだっ!
「エレン!」
奴の動きが完全に止まったことを確認し、俺はもう一人のパーティメンバーの名前を呼ぶ。
「……はい。 ”アイシクル・ランス”」
ザシュッ!
空中に生まれた、人の背丈ほどある氷の槍が、[ゴブリン・ロード]を貫いた!
シュワアアアア……
断末魔の悲鳴を上げる間もなく、光の粒子となって掻き消える[ゴブリン・ロード]。
俺たちの勝利だ!
ふう……ここはレベルCダンジョン。 そこそこの経験値とドロップアイテムが見込めるので、俺たちぐらいのレベルの”探検者”にはちょうど良い狩場だ。
見渡す限り青白い壁で構成された、西洋風の城を模したダンジョンが広がっている。
[7,500の経験値を獲得。 クランレベルが29に上がりました]
[新たに獲得できる”リアルスキル”があります。 確認してください]
空中にリザルトメッセージが表示される。
「おっ! これ、”ピーマンサーチ”じゃん! 欲しかったんだよね、もらいっ♪」
構えを解いたリンが、アンロックされたスキルをさっそく装備している。
「……リンさん。 一応スキルはみんなのものですから……話し合いもせずに取るのはお行儀が悪いです」
ぷくっ、と頬を膨らませながら、もう一人のクランメンバーであるエレンがやってくる。
まったくこいつらは……お子様のお守りも大変だ……おっとそれより。
「二人とも。 そろそろ仕事や学校に行く時間だぞ。 ログアウトしよう」
「はーい、ユウにぃ」
「……了解しました」
俺がログアウトボタンをタップした瞬間、ダンジョンの風景は掻き消え、何の変哲もない10畳程度のフローリングの部屋……俺が借りているアパートの光景が現れる。
「よし、そろそろ出勤するか」
俺は、会社のIDカードくらいしか入っていないカバンを引っ掴むと、お茶をひとくち飲んでから家を出た。
もうお気づきの方もいると思うが、先ほどの光景はゲーム。
1年ほど前からサービス開始し、瞬く間に若者の間でブームとなった大規模VRゲームサービス、[探検者になろう]である。
*** ***
うう、今日も寒いな……俺は、最寄り駅までの道を足早に歩く。
途中のコンビニでホットコーヒーを買っていこう。
……おっと、自己紹介がまだだったな。
俺の名前は星名 悠太
大手メーカーで、社内のパソコンやシステムの管理……いわゆる社内SEと呼ばれる仕事をしている。
現在28歳。 断じてまだ三十路ではないのだ。 アラサー男にとって、ここは重要である。
一人暮らし、彼女無し。 い、イイんだ……ゲーム内人生が充実してるから。
「おはよう、ユウにぃ!」
思わず悲しいことを考えていると、一人の女の子に声を掛けられる。
彼女の名前は秋月 凛
俺の従姉妹で、市内の私立高校に通う高校一年生。
近所に住んでるので、駅までの道中よく一緒になるのだ。
「にひひ、ユウにぃ……寂しい一人暮らしってボヤいてたけど、こんなにかわいいJKとクラン組んでるなんて、リア充でしょ?」
どうやら、先ほどの心の声がぼやきとして声に出ていたようだ。
確かに凛はカワイイ。
肩にかかる長さの茶髪(亜麻色に近い)……ふっくらとした頬に、いたずらっぽい輝きを放つ深蒼の大きな瞳。
日本人離れした容貌は彼女の祖父がイタリア人だからだ。
スポーツ少女特有の、引き締まったスレンダーな身体を、市内でも可愛いと評判の制服が彩っている。
詳細を説明すると! 白いシャツの上に薄黄色のセーターを重ね、赤いリボンが胸元を華やかに飾っている。
膝丈の赤黒チェックスカートからすらりと伸びる脚、足元は紺のスニーカーソックスに、有名ブランドのスニーカー。
2020年代のイマドキJKスタイルだ。
俺が学生の時は、ミニスカ紺ソ全盛期だったけどな……いまのスタイルも、生足のふくらはぎが見えるので、それはそれでよい!
……思わず話が脱線したが、彼女は俺が主催する[探検者になろう]のクランに参加している。
彼女はむかし空手を習っていたので(今はテニス部だ)、ゲームでは格闘系のジョブを選択してるわけだ。
「あー、今回ゲットしたリアルスキル:”ピーマンサーチ”、助かるぅ! ママっていつもお弁当のおかずに巧妙にピーマン混ぜるから、参ってたんだよねー。 これでピーマン食べずに済むぞ!」
小学生みたいなことで喜ぶ凛。
”ピーマンサーチ”、”リアルスキル”とはなにか、次の話で説明しよう。
色々不思議な点があるこのゲームの、ある意味最大の特徴だといえるかもしれない。
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