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貪欲な英雄

 「あー、俺ってぇー生きていたときもみんなに人気でぇそれいて彼女もいてぇー。気に入らねえ相手がいたら力で従えてきたタイプで、まあぶっちゃけ、リア充人生を堪能してたんだよねぇ」

 ワックスでガチガチに固めた制服姿の金髪男は目の前の人物が神と知ってもなおチャラチャラとした口調で話しかけてきた。彼の相手をしている結城は眉をしかめながらも無表情をつらぬいていた。

 「なんなんだこいつ……無性に腹が立つ」

 「え?今なにかいーましたかー?」

 「いや何も言っていない。ところで転生を予定される方々には規約として特殊な能力を付与するよう決められている。ご希望の能力はあるか?」

 金髪の視線は結城の頭上高くを見つめていて、鼻をほじっていた。

 「この上に宇宙ってあるのかなー」

 もはや話を聞く態度ではない相手に喉まで出てきた汚い言葉を結城は引っ込めるが、結城のポーカーフェイスにも若干の落胆の顔がにじみ出ていた。

 「宇宙に行きたいと?ならば飛行能力を希望ということだな」

 「ハァ!?誰がそんなもん欲しいつったんだよ!てめえ脳みそあんのか!?」

 突然切れ始めたが結城には全く意味がない。彼からすれば相手にしていつまでもここに滞在されるより、さっさと転生させてしまったほうが精神衛生上よろしいのだ。

 「では一体どんな能力がほしいんだ。私もいつまでもお前一人に相手をしてられないのだ」

 「そうだなー。やっぱり願い事ができるっていうんならやっぱこれっしょ。『俺の願いを好きなだけ叶えられる能力』をくれ」

 「了解した。では最後の質問だ、以前の世界での記憶は必要か?それともまっさらにして仕切り直すか?」

 「そんなの残すに決まってんじゃん。江里菜とか仲間との絆を捨てるなんて俺にはぜってーできねー!」

 「では今から転生の儀を執り行う」

 「できるだけ早くしろよ」



 「はーーーーーーだっる!何だあいつの態度は、全く最近の若者は口の聞き方どころか話すらまともに聞けないのか!」

 「何を言っておる、おぬしも以前の世界では奴と対して変わらない年頃のはずじゃったが」

 結城の脳内に別の神が直接話しかける。「しかしまあ、あのような能力を希望した上にあの性格のままで転生か……」

 「なにか俺の対応で問題でも?」

 「ん?ああ、いやいや。おぬしは転生させるものとして至極真っ当な対応をしたと思うぞ。ただ、転生後彼がどうなるかを少々案じておったのだ」

 「へえ、あんたがそう言うならちょっとあいつの転生後の様子を見てみようか」

 結城は転生後の世界を映し出すとされる手鏡を取り出すと先程見送った人物の転生後の人生を眺め始めた。「でもこのスピード感だとこいつが物心つくようになるまで一体いつまで待てばいいのやら……」

 「そうか、おぬしは手鏡の機能を知らんかったか。その手鏡には時の流れを変えられる機能がある。と言っても実際にその世界が進めた速度で進行しているのではなく、因果律にしたがって未来を先取りした映像を映しているのだが。まあそんな細かいことは置いといて、手鏡の柄を軸に右回転させるんだ。」

 「こうか……?」

 一回転させるごとに鏡に映った風景が家や街だったりと次々に変化していった。

 「右に1回転させると1年未来に、左に回転させれば過去に巻き戻すことができる。もし微調整がしたいなら自分が回るしか無いがな」

 「なんかそれを想像するとシュールだな」

 結城が少しほくそ笑んだ。10回程度右回転させた手鏡には成長した先程の金髪男が映っていたが、同じくらいの年頃の少年を複数の仲間とともに袋叩きにしていた。

 「胸糞悪いな、やはり記憶を消してやったほうがこいつのためになったんじゃないのか?」

 「それは我々が勝手に決めていいことではない、なすがままにした結果が世界律の意思であり決定なのである」

 「また世界律か……正直俺は……」

 なにか言いかけていた結城はそのまま黙って手鏡を数回回転させた。

 場面が移り変わった鏡の世界では鎧を身に着けた兵士が数え切れないほどの隊列を組んで一個の銀色の面を作っていた。周囲には似たような面が横に複数並んでおり、その対面には赤色の面が同程度の数同じように並んでいた。

 「これは……戦争か。ところであいつはどこにいるんだ?」

 金髪男を探している間に戦争の火蓋が切られたようで、銀と赤の面がパレット上の絵の具のように交わった。こうなっては探すのは難しいと手鏡を回転させようとしたとき、結城の目線が戦場のある一点に止まった。

 「ここだけ赤い軍の兵士たちが以上に倒れている。この兵士をボールのように投げているやつが金髪のやつか?一体どれだけ強力な願いにしたんだ。この戦場……いや下手すればこの世界で敵なしなんじゃないのか?」

 「かもしれんな……」

 さらに時間を進めると金髪は数年後には王族と結婚、その後は自ら王になっていた。彼は自ら戦場に赴き戦場の敵をバッサバッサとなぎ倒していき、戦局を塗り替えていった。その功績もあってか彼が30代のころにはあらゆる国々接収していき、ついに世界を統一してしまった。

 「おいおい、とうとう世界まで収めてしまったぞ?無為な心配だったみたいだな」

 「いや、これからが本番よ」

 「……?」

 意味深な言い方をした神にイマイチ理解ができないまま結城は手鏡の世界を未来にすすめる。すると、先程まで世界中地図に刺されていた旗の色が、金髪のいる街以外まるっと変わっていた。

 「これは一体……?」

 「やはりか、この男も世界を統べた後自身の欲望を満たすために圧政を敷いたのだろう。ほれ、彼の姿を見てみろ」

 「……!?この姿は、まるでモンスター……いや魔王……?」

 世界を統一し平和をもたらしたはずの英雄は、自らの行いによって世界から憎み疎まれる存在になってしまっていた。彼を倒すべく各国から送られる兵士をなぎ倒す彼の頬には一粒の涙が流れたが、彼が打倒されるまで二度と涙が浮かぶことはなかった。

 自分の行いへの後悔か、自らには向かうものへの怒りか、涙の意味を知る唯一の人物はまるで涙の代わりにするかのごとく血を流して静かにまぶたを閉じた。

 存在しない未来を映せなくなった手鏡には真っ黒な闇が写っているだけだった。

 一人の人生を視聴し終えた結城に神が話しかける。

 「私は何度も彼と同じような能力を携えて転生していったものを知っているが、不思議と彼らは皆、魔堕ちをしている」

 「魔堕ち?あいつの場合気づいたら悪魔になっていたって感じだったがあれは一体なんなんだ?」

 「魔堕ちに至ったものの魂は世界律によって転生を拒絶され、永遠の闇にその魂を閉じ込められてしまう。行どころをなくした魂は遅かれ早かれ消滅してしまうのだ。彼のように気づけば魔堕ちしていたというケースを何度も見ていくうちに私はこう考えるようになった。世界律は転生後の世界での生き方を見て彼らをテストしているのではないか……と。まあその目的は私の知る由もないが」

 「ふーん。じゃあ金髪はテストで赤点だったってことか」

 脳内からの返答はなかった。気づけば最初に抱いていた彼への負の感情はとうになくなっていた。

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