第三話 「戦闘種族たち」01
自室で書類を見ているとアルバーが顔を出す。
「シュン、チーム・バウザーナが来ましたが……」
「何の用だ? あいつら」
「さあ? 挨拶と見舞いがてらでしょう」
「そうか……、会わない訳にはいかないか。通してくれ」
「はい」
チーム・バウザーナでリーダー、と言うか将軍を自称しているジェンヌは何かとシュンに突っかかる。
巨大な企業貴族の息子で、その財力にモノを言わせてチームはランキング上位の常連だ。
金の力で手に入れたレアクリスタルと、引き抜いた人材でチームを固めている。
苦手な相手なのは、この街に来たばかりの頃、シュンは何度も彼らにコケにされ笑いものにされていたからだ。
稼げない新人に対してのそんな態度が気に入らなかった。
そのシュンが今や個人ランキングでトップなのだから、さぞや腸が煮えくり返っているだろう。
ジェンヌの個人ランクは四、五位ぐらいだと記憶している。
「何だ! 元気そうじゃあないか? 死にそうに見えたぜ!」
「悪いな。見ての通りピンピンしているよ」
人を小馬鹿にするような碧眼の視線に、軽薄そうに歪んだ口元。
ウエーブのかかった長い金髪を後ろで縛り、いつものように両手をポケットに突っ込む。
上下黒革の戦闘服に身を包み、ベヒモスの革に白い毛皮をあしらったコートを肩に羽織っている。
傲岸不遜を絵に描いたような男だ。
ジェンヌはいつものように二人の副官を後ろに従えている。
ランベルトと呼ばれている一人は、黒い短髪に日焼けした精悍な顔つきで軍人上がりと言われていた。
もう一人、パトリツィオは銀の長い髪で、貴族の私兵団から引き抜かれた元冒険者だった。
見舞品のつもりか、ジェンヌは果物の入った籠をテーブルの上に置いた。
「どうぞ、座ってくれ」
シュンはソファーを進めた。副官の二人は後ろに立つ。
二人とも有力貴族の父が馬鹿息子のために付けた腕利きで、ランクが低いのはジェンヌに獲物を譲っているからだと噂されている。
貴族の人脈で集められフタッフで、チームの経営をしているらしい。
「何の用だい?」
「見舞いと祝福よ。あの雨の中、這いつくばって泥水をすすっていたいたのが、今や最強の称号を手にしたんだからなあ……くくっ」
スキルの使い方がよく分からなかった頃、確かにそんなこともあった。
ジェンヌたちはそんなシュンを嘲笑って、こき下ろしていたのだ。
「確かに俺はトップに立って最強の称号を手に入れた。だけど一時のことさ」
「まあな……」
ここだけは、二人は同意できる。
チームランキングトップには不動のチーム・ディボガルドが君臨しているからだ。
トップランカーの合議制チームで個人ランクのトップテンにつねにメンバー四、五人の名前がある。
シュンは遠からずディボガルドの誰かに抜かれるはずだ。
しばしの沈黙が流れた。
「スケラーノのスキル。何だったんだい?」
シュンはピンときた。こいつはこれを聞きに来たのだ。
冒険者なら誰だって興味はある。
「まだ分からないよ」
「とぼけんなって」
「俺にとっては未知のスキルだからな……」
嘘ではなかった、シュンは本当にまだどんな力を手に入れたのか分からなかったのだ。
「ちっ!」
ジェンヌはわざとらしく舌打ちしてみせる。
「【移動】、【衝撃】、【切断】みたいな普通のやつじゃないな。だから今でも分からないのさ……、ギルドの受付も分からないと言っていた。自分で探るところから始めるよ」
「そうかい……」
それは何かとてつもないスキルか、所詮は使いこなせない未知のスキルなのか、実際まだ他の誰も使えないスキルなのかもしれなかった。
生物兵器ベヒモスの体内で生成される希少水晶は、無数の遺伝子の組み合わせで性質を変え、それは開発者すら予想しなかった特性を生み出していた。
正体が分かっていないスキルはまだ数多く存在する。
「邪魔したな」
「いや、見舞い、ありがとうよ。分ったら教えようか?」
「ふんっ!」
ジェンヌは荒々しく席を立ち、二人の副官を従えて部屋を出て行った。
企業とはある種の特権階級の集まりを指す。
それは会社であったり、軍閥が経営する組織であったり、大地主の領地経営体だったりの企業体だ。
今、国の運営は政治の手を離れて大企業の集合体が担っていた。
長く続いた戦争と、疲弊を極めた戦後が政治の全てを否定したのだ。
そしていくつかのトップ企業は貴族と呼ばれて、まるで中世の貴族さながらに振る舞っている。
彼らは互いに連携して巨大な産業複合体を作り出し、この国をも統治している。
国政、地方自治が企業経営。国民、市民はその労働者と家族、そして株主のような立場になった。
あの先の大戦以来、人々は気まぐれな民主主義に辟易し、このような統治体制をとる国が増えている。
弊害もあったが、新たな統治機能は、概ね上手くいっていた。