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第二話 「最強の凱旋」02

 シュンと仲間たちは共にランツィアの事務所に戻った。


 一階はメンバーたちの詰め所になっていて、二階は事務所とシュンの個室兼の自宅、三階は新人の宿舎となっている。


 シュンは二階の自室に行きベッドに寝かされる。

 ほどなくしてアルバーたちが食事を運んで来た。


「チーム・スカーレッドからの差し入れです。温めてきます」


 シチューの鍋に山盛りのパン、それと籠に季節の果物が乗っている。


「あっ、私も……」


 マヤも立ち上がりキッチンに向かった。


 ほどなくして運ばれた食事に一昼夜、水だけの補給で戦っていたシュンはかぶりつく。


 シチューは昔、よく食べた懐かしい味だった。

 レイキュアが自ら腕を振るったのだろう。

 マヤがカットした果物も新鮮でおいしかった。


 食事が終わる頃、桶の水とタオル、シュンの着替えが運ばれて来た。


「シュン、体を拭きましょう。私がするわ」


 皆が気を利かせて部屋を出て、マヤが服を脱がせてタオルでシュンの体を拭う。


「皆は元気か?」


 皆とはシュンとマヤが共に育った孤児院の子供たちの事だった。


「うん元気よ」

「久しぶりに会いたいなあ……」

「子供たちが、帰ったらシュンの話を聞かせてって」

「そうか……」

「皆、目をキラキラさせて聞いてくれるわ」

「うん、先生は元気?」


 先生とは二人の母親代わりであり、貧乏孤児院に人生の全てを捧げている、師とも仰ぐ人物だ。


「うん、元気よ。お金はそんなに要らないから、あまり危険なことはしないでって」


 胸を拭き終わったマヤは背中側に移る。


「いつグロッセナに来たんだ?」

「昨日のお昼頃よ。あなたがスケラーノと戦っているって聞いて……」

「そうか……」

「心配した……」

「悪かった、とは言っても俺たち冒険者はベヒモスを狩るのが仕事だしな」

「うん」

あいつ(スケラーノ)は何人もの冒険者を倒したおたずね者だ。それに俺の(かたき)でもある。いつかは倒さなきゃならない相手だった」

「分かっているわ……、立てる?」

「ああ」


 マヤは立ち上がったシュンの服を全て脱がせて体を拭き、新しい服に着替えさせる。


「いつまでいるんだ?」

「明日帰るわ。もう、寝なさい。傍にいるから」

「ああ……、眠いよ……」


 ランツィアは二人が育った小さな街の名だった。


 横になり目をつぶって少し子供の頃を思い出す。

 シュンは顔と胸へのマヤの頬と優しい手の感触を夢見ながらすぐに深い眠りに落ちた。


   ◆


 翌日、目を覚ましたシュンは置時計を見て慌てた。

 時刻は正午を指し、マヤの姿は無かった。


 机の上には戦闘服――といっても普段もこの服だが、が綺麗に畳まれて置かれている。

 シュンは慌てて服を着て、ズボンを履きながらスッ転ぶ。


「痛てて……」


 全身の筋肉痛と、残った疲労で体が思うように動かない。

 慎重に転がるように階段を急いで降りる。


 幸いまだマヤとジョルジュは、見送りのアルバーと共に事務所の前にいた。


「起こしてくれよ~~」

「ごめん、ぐっすり眠ってたから」

「だからって……」

「鼻を摘まんでも起きなかったわ」


 マヤはそう言って笑う。


「そっ、そうか……」

「寝てていいんだぞ。あの戦いの後だ」


 ジョルジュも笑いながら言う。


「いや、南門まで送るよ」

「アルバーさん。シュンを宜しくお願いしますね」


 マヤは頭を下げた。二人は何度も会っているし、シュンは信頼できる片腕だと彼女に紹介していた。


「いえ、世話になっているのは僕たちですよ」


 謙遜するアルバーを残して三人は歩き出した。


「シュン、チームの経営は上手く行っているようだな」

「ええ、安全第一でやってるけど幸いスポンサーが沢山ついてくれて」

「そうか、一人で無理はするなよ」

「はい」


 生き残る事が大切だ。

 戦いの師であるジョルジュの口癖でもあった。



「それじゃあ、シュン。また来るわ」

「ああ、待ってるよ。いや俺も時間を見つけて帰るよ、いや、なかなか難しいかなあ……」

「無理しないで……」


 南門からシュンは、二人が乗った馬車が見えなくなるまで見送った。


 危険地帯に隣接しているこの街では、現代技術(テクノロジー)の使用は大きな制約を受けている。


 魑魅(ベヒモス)は人類文明が発する電磁波、電波などに反応する生物兵器だ。


 大戦時に敵国に向けられ放たれたベヒモスは、自己増殖して大いに銃後を浸食した。


 そしてその脅威の増大が、各国を講和に向かわせたのは皮肉な話だった。


 戦争が終わりもう三百年がたとうとした今も、人類は自らが犯した過ちに苦しめられているのだ。


 結局、マヤたちが来ていた間、シュンは戦っていたか寝ていただけだった。

 久しぶりに会ったのにこれだけかと肩を落とす。


 気を取り直して帰りの通りを歩くと、街の人々がシュンに視線を送り、ヒソヒソと話をしている。

 ひとたびでも最強になれば、この街では有名人なのだ。


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