第一話 「最強の称号」02
デス・ベイスンの中央で一人と一体が向かい合って対峙した。
このスケラーはシュンにとって因縁の相手でもある。
同じチーム・ランツィアの仲間たちが周囲で見守る中、シュンが叫ぶ。
「コイツは俺の獲物だ! 手を出すなよ」
それは必ず単独で倒し、必ずランキングトップになってやるとのシュンの決意表明でもあった。
スケラーノは前屈みの二足で立ち上り、前足の五本の爪の手を突き出す。
その体躯は十メートルほどの高さになった。
シュンは一呼吸おいてから剣を両手で構え後ろに引いた。
自身の体内を探り、今どれほどの特殊能力が残っているか確認する。
一昼夜に及ぶ戦いでそれらはかなり消耗していた。
特殊能力とは冒険者たちが使う戦闘力、文字通りの特殊な能力だ。
シュンは【飛行】のスキルで浮き上がり【移動】を使い突進し、【衝撃】の力を剣に込めてスケラーノに切りかかる。
「チッ!」
スケラーノは左手を使いその剣を受け、右手の鋭い爪を繰り出す。
シュンは【障壁】のスキルで攻撃を受け止め、そのまま空中を飛んで背中に回り猛然と剣を何度も切り付けた。
このベヒモス、フェルテ種の弱点は顔から喉にかけての首筋だ。
そこは外皮も弱く鋼鉄の毛も薄かった。
スケラーノは本能的にここを守り、それは昨夜からの戦いでも証明されている。
だからシュンはあえて弱点を狙わなかった。
後ろに回り背中を攻撃するシュンに、スケラーノは向き直り両手の爪を繰り出しす。
それをいなし受け、後退しながら隙をついては背後に回り、再度背中へ剣を叩きつけた。
身を屈めて空中に尾を振り上げる攻撃を避け、シュンは頭部への攻撃に切り替える。
スケラーノは腕を振り回し【障壁】と共に弾き飛ばされたシュンは、【移動】を使い猛然とスケラーノに肉薄を繰り返した。
剣とスケラーノの黒い体毛の装甲がぶつかり合う音が静寂のデス・ベイスンに響き、観客たちは拳を握りしめ戦いを見守る。
地面スレスレに下りたドローンが土埃を巻き上げ、望遠レンズがその戦いを側面から捉える。
上から叩きつけるような攻撃に弾かれシュンは地面に落下する。
スケラーノの長く太い尾が襲い掛かるが、シュンはあえて避けずに両手で持った剣を腰だめで突き立てた。
「甘いぜっ!」
深々と突き刺さる剣に、悲鳴を上げたスケラーノは尾を振り上げるが、シュンは剣を掴んで離さない。
尾に刺さった剣と共に空中を振り回された。
ベヒモスとの戦いでは華麗なる剣技を見せたり、力を前面に押し出したりの戦いや、様々なスキルを組み合わせるなど冒険者の個性が現れる。
泥臭いながらも闘争心を剥き出しにするシュンの戦いにはファンも多かった。
スケラーノの尾から剣が抜け、シュンは空中に放り投げられた。
【移動】のスキルで落下の軌道を変え、剣の切っ先に【衝撃】の力を集中する。
更に【移動】を使いシュンは体ごとスケラーノの背中に体当たりした。
そこはシュンが執拗に攻撃を仕掛けていた場所だった。
叫ぶスケラーノから、剣を抜き飛び退いたシュンは大地に降り立つ。
「これで終わりだっ!」
断末魔のごとき低い唸りを発する弱点の喉に向け、シュンは【移動】を使い神速の突きを繰り出す。
「長かったな……」
そう呟いたシュンは、深々と突き刺さった剣を抜いて距離をとり、仁王立ちになった。
スケラーノは最後の一撃を喰らって前のめりに崩れ落ち、観客たちからは感嘆の声が上がっる。
シュンは一息ついてからの体に上がり、その頭部に何度も剣を突き立て、頭蓋骨を割り広げた。
脳髄の中に手を差し入れて探り、拳よりも大きな黒く光る塊を取り出す。
その大きさに再び感嘆の声が上がる。
体躯に比例する通常の大きさの倍はあったからだ。
それはこのベヒモス、スケラーノがいかに強敵であったかを表していた。
「すげえ大きさだ……」
シュンも思わず呟く。
それは希少水晶と呼ばれる冒険者たちのスキルの源であった。
シュンにとっては新たな力であるが、但しそれを使うには適性が必要とされ、誰でも力を体内に取り込めるとは限らなかった。
手に入れたが必要とされないレアクリスタルは市場に流通し、物によっては高値で取引されている。
「さてと……」
シュンは売りに出すつもりは毛頭ない。自身の力にできるのなら力にする。
それが冒険者であり、どれほどの適正の幅と取り込める量、そしてこの組み合わせをどのようにして使うのか? それら全てが冒険者たちの強さを決めていた。
シュンが大ぶりなレアクリスタルを握った手を空に向かって突き上げた。
大勢が固唾を飲んで見守る中、黒光る水晶の塊は徐々に灰になり風に吹かれて消えた。
手を開いて力を手に入れたと証明し、再び拳を握り突き上げた。
新たなレアクリスタルの力を得たシュンが叫ぶ。
「俺が最強だ!」
周囲からは大歓声が沸き起った。
ランキング上位には有力なチームのリーダーの名が並び、長く固定化されていた。
街は新たな力の台頭にも興奮していたのだ。
ここは魑魅と魍魎が跋扈する世界。
そして、それらと対峙する戦闘的冒険者たちが戦う世界。
軍管区、第八六地区であった。