クレイジャーの真実
『修司3』
何も変わらない日常の時間。あちこちに人間が知り合いと楽しげな話をしていた。子供たちが笑い、サラリーマンが携帯で誰かと電話でビジネスの話をしている。老人は大したことのない日常の話を楽しげに、木製のベンチ椅子に座って会話をし、アベックがイチャイチャしている。犬と散歩している男の人が俺の前を横切っていく。
あちこち見渡せばいろんな人間が暮らしている。だが、ここにいる人たちが皆幸せなわけではない。ここにいる人間も何かあれば殺しや裏切りなんてことも平気でやってしまうのだろう。被害者の気持ちなどわからないのだろう。
人間にいい奴などいない。誰もが表がいい顔してるけど、それは演技なのかもしれない。俺には、『人の気持ち』がわからない。何を考え、何のために生きてるかなんてわからない。勿論、俺もわからない。何のために今ここにいるのか?そんなこと探せばキリがない。だから人の気持ちがわからないのは誰だって同じだ。だから残虐なことだってできる。人だって殺せる。それはみんな同じ。
しばらく平和な日常を眺めているといつのまにか周りの人間がこっちを真っ直ぐと見つめる。全員と目が合った俺は急にあたりの空気が冷たく暗い感じに染まっていくのを感じる。
なんだ?なぜこっちを見ている?何を考えている?すると、俺の耳に異様な耳触りが聞こえてくる。だんだん大きくなっていくその音量に周りを見渡す。
『なんだ?この音は』
いや、ただ物音がしてるんじゃない。それどころか物音ではない。聞こえてくるのは…悲鳴だ。人間たちの悲鳴だった。惨劇を見たときのような耳をつんざくうるさい悲鳴だった。
『くそっ!耳が、潰れてしまいそうだな』
耳を軽くふざきながらその場を立ち去っていく。だが、後ろから誰かに付きまとわれている気がした。俺はゆっくりと後ろを振り向く。その時も耳を塞いだままだった。
『どうなってんだ』
俺の後ろには、さっきまで俺の目の前に楽しげに過ごしていた人達だった。本当にどうなってんだ?そう考えているとまた背後に何かを感じる。すぐさま後ろを振り返ると、また人間だった。俺は周りを囲まれてしまい逃げ道がなくなった。
すると人間たちから大量の黒い霧が出てきた。そして悲鳴が鳴り止んだ。と、思ったら今度は『殺してやる…くそっ!、なんで俺だけ…助けて…もう嫌だ』などいろんな悲痛な声が聞こえてきた。これは?一体何がなんなのかわからないがとりあえず俺には目の前にいる『怪物』、クレイジャーがいることが眼に映る。
『まぁ、ハンティングができることに変わりはない』
俺は邪鬼斬刀を取り出す…あれっ?ない!俺がいつも右腰にしまっている邪鬼斬刀がない!?
『どうなってんだ?どこだ?』すると目の前に誰か女の人がいる。だんだんその姿がクレイジャーの霧の姿から見えてくる。
『お前は…嶺華ちゃん?』
そしてだんだんとクレイジャーの霧が俺を包み込む。あたりが真っ暗となってどこに誰がいるかわからなくなった。
『やめろ!くそっ!嶺華!どこにいる!』
『後ろ…』
そして俺は後ろをすぐさま振り向いた。すると、その姿はあの女子高生の可愛子ちゃんの姿じゃない。見るからに、ゾンビのようにあたりが傷だらけで皮膚が腐ったかのように青く、血だらけとなっている。そして背後にはクレイジャーが迫ってきた。
『あなたは…人間?』
『嶺華?どうした?』
そして嶺華がなぜか邪鬼斬刀を手にとって刃を出した。なぜお前が!そう思った瞬間だった。
何か腹部に痛みが走る。腹部を見ると、背後からクレイジャーに腹部を刺されていた。それを見た俺は自分が殺されている姿を見ているようで何も言うことがなかった。そして邪鬼斬刀を手にとったゾンビ姿の嶺華が俺に近づいてきた。
『あなたは…人間?』
そして、俺の首を横に刀を振り切り落とした。落ちた首から嶺華の姿が見える。
『なんだ…これが死か』
そして目を閉じていく。
俺は意識を取り戻したようにゆっくりと目を開け呼吸をした。
『あれ?俺…』
さっきのは夢だったのだ。俺はその場から立ち上がって廃ビルの地下に一泊していたことを思い出す。そして俺は辺りを見回し、人がいないのを確かめその場を立ち去った。
警察が嶺華の高校付近を通行止にしている。
『この辺によく騒ぎになってるって噂なんだが。怪物を見たとか、黒い服を着た男が戦っていたとか色々聞いたぞ。訳がわからん』
部下にそういうのは警察のエリートらしき人間。年齢は40歳くらいのベテラン刑事である。
『難波さん!さっき高校生から聞き込みしてきました。やっぱり同じことを言っています。黒い霧が現れて怪物が出てきたと』
『なんじゃそりゃ。もう訳がわからん!とりあえずほかに何か見つかったか?』
『いや、それしかわからないです。でも、ここまで言ってるんですからみんな。見た人も多いらしいですし、それにあそこにある潰された車。何か上から何かに踏み潰されたような跡ですよ』
ベテラン刑事の難波康平がその車のことも含めて怪物がいたという情報に違和感がないわけでもなかった。実際見てみたのだが、たしかに部下の言う通りである。何者かに潰された跡と言われてもおかしくない跡だった。
『くそっ!この辺はあの災害に影響がなかったとはいえ、怪物による荒らしだなんて言えるかよ』
『全くですよ。怪物怪物って。一体なんなんでしょう』
警察達はしばらくその付近を調査を続行していた。
『嶺華3』
私は高校の校門を出た時だった。私の目の前に誰かが現れる。
『嶺華ちゃん。昨日はごめんなさい』
それは昨日私を守ろうとしていたと言っていた同級生の男の子。見た目は真面目系の少年で背も男子の中では中間くらいの身長である。だが顔は本当にハンサムな見た目で悪いことをするように見えない姿である。
『いや、謝るのはこっちだよ。私の方こそ巻き込んでしまったに過ぎないよ。ごめんなさい』
私は深く頭を下げる。でも目の前の彼も頭を下げてお互いに謝罪をしてる。
『うーわ。気持ち悪っ。何あの二人』
『関わらないでおこう。ほら、昨日変なことがあったし…』
昨日のことを持ち出し私たちから逃げていく一軍の女子グループが今日はなぜか虐めてこずに、ましてや近づいても来なかったためなんとか私は今日は何事もなくてよかったと思った。
『一緒に帰らない?』
彼がそう言うと私は首を縦に振った。
彼は私と同じ徒歩通学である。そして、彼は私と同じ方向に帰るのだが、その道はバイトの道であるという。彼は居酒屋でバイトをしているらしい。
バイトの話をしている最中にまた出会ってしまった。一軍のグループである。コンビニでたむろしているのを私たちを睨みながら見ていた。だが、私たちは今日何事もなかったため平気な顔して横切っていく。
『ごめんな。僕が弱かったから守ることができなかった』
『いや、私だよ悪いのは。巻き込まれたんだよ?えーと、ごめん。なんて言う名前?』
『僕は上寺龍斗。そういえば嶺華ちゃんと同じクラスではあったけど話したことなかったっけ?』
『私はない気がする。じゃあ龍斗君って呼ぶね。龍斗君は巻き込まれたんだよ。私のいじめの被害者。だから私が悪いの。ごめんなさい』
『あっ、いや。僕こそごめんなさい』
『いや私だって。ごめんなさい』
こんな会話をしているうちに何度か目があった。そして4回目の時だっただろうか。私は龍斗君と目があった時クスッと笑ってしまった。そして龍斗君も笑ってくれた。
『じゃあお互い悪いってことにしよう。私は私の悪いことがある。龍斗君には龍斗君の悪いとこがあるってことで』
『そうだね。僕、この経験から学んだよ。自分の弱さを。愚かさを。だから今度はちゃんと守れるようにしたいんだ』
『私もなんだ。巻き込んでしまったことに対して責任があると思って。だからこれ以上被害者が出ないために、私は自分自身を見つめ直すことにした』
『僕もだよ。これ以上ひどくさせたくない』
そんな会話をして、曲がり角付近で私たちはお互いの使命を果たすことを約束する。
『ありがと。龍斗君心強いから助かった』
『僕も。じゃあ、こっちだから』
そして私たちは別れていった。
とあるネット配信者がもの凄く画面越しで狂ってる様子を映す。
『もう嫌だよー。嫌だよー。死にたい…なんで私だけなの』
彼女はメンヘラ配信者と呼ばれるネット配信者で、以前リストカットをして騒ぎを起こした人である。この人はメンヘラ気質でかなりいろんな配信者、そして視聴者にも異質な感じで見られている。
チャットには『もういいよ』『粘着女 もう末期だな』『メンヘラ度上がってるやん』『薬物はやってんのか?』と書かれている。
『みんな、なんで優しくしてくれないの?死にたいよ…』
そして彼女はとある公園にやってきた。そしていきなりカメラを地面に置いてポケットから何かを取り出してるのを微かに見える。
『みんなが悪い。助けてよ…もう死ぬから』
そう言って取り出したのはカッターナイフである。
チャットからは『おい!馬鹿な真似はよせ!』との文書が多くなってきた。すると突然彼女の声がおかしくなってくる。苦しさにもがいているように見える。するとカメラから黒い霧状のものが見えてきた。何が起きてるのか視聴者にはわからないが彼女の様子がおかしいのは間違いなかった。そして床に倒れ出す。その映像はしばらく流れ続けた。
『修司』
今日の夢はおかしな感じだった。俺が周りの人間に囲まれて、嶺華に殺される夢。あれは何かの予兆かと思ったが気にすることはなかった。俺はとある黒い霧が見えたところへ向かう。何か人だかりが見えるが俺はとあるビルの屋上から見下ろすとその人だかりは異常だった。
そして俺はあることを思い出した。
これは一年前のこと。俺はこんな高いところで景色を見下ろしていた時だった。空がだんだんと真っ赤に染まっていく。夜だって言うのに異常な空の色だった。そして俺は何事かと思いその様子を見ていた。すると赤い空から謎の黒い霧が下に降下していくのがわかる。そして俺たちの街がどんどん黒い霧に染まっていくのを見た。
俺は急いで街を探索するといつも通りの変わらない日常だった。あれは一体なんだったのか?
そして次の日だった。俺のいた地域で大地震が起き、大雨による被害が出て、さらにはあちこちが火事になったと言う。まるであのが呪いだったかのように次々と俺の近くで災害が起きたこと。
『あぁ、また変なこと思い出しちゃったわ』
『おーい!だれか!助けてくれぇ』
俺は声の聞こえる方へ走り出す。
クレイジャーが大量にその場にいた人を食い散らかしていく。
『うわー!』
『キャーーー』
悲鳴が聞こえる中クレイジャーは暴走していた。人々の残骸が次々とその付近に散らばる。
すると背後から何者かに刺されたような違和感を感じる。
『見つけたぜ。怪物ちゃん。あの赤い空からやってきた怪物』
そして怪物は霧となって消えていった。どうやら死んだようだ。周りに生き延びた人がたくさん修司のことを見ていた。そして修司はその場を超人のごとくいろんな公共物に飛び移って消えていった。
『あーあ。人に見られちゃった』
そう言って修司は夜の街に消えていく