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嶺華の罪

『嶺華』


ゆっくりと目を開けると雲ひとつ存在しない青空が見えた。私の視界をゆっくりと横切る飛行機が飛行機雲で線を描きながら音を立てて飛んでいる。眼球を右往左往動かしながらあたりを見回す。この感覚は以前も味わった気がする。そしてすぐに起き上がって後ろを振り返った。


『おはよう。この間の可愛子ちゃん。いや、嶺華ちゃん』


『あなたは…。ってことは私、生きてる…ってこと?』


『ピンポーン。大正解。自分の通ってる高校の屋上から飛び降りようとしただろ?何してんの』


『あの時も急に苦しくなって…。私、何か病気なのかな?って、なんで私の名前を知ってるの?前に喋った?』


『いーや。これを拾った。そんで高校に届けてやろうと思った。そしたら校門入った瞬間に目に飛び込んできたのが、この前の可愛子ちゃん、いや嶺華ちゃんって呼んでいい?嶺華ちゃんが屋上から自殺しようとしてっから急いで駆けつけた。なんか悩み事でもあんの?相談に乗ってあげるのにさ』


『それ!私の学生証。あなた、誰?』


そして学生証を私にめがけてパスするように投げ渡す。私はいきなり投げられたから反射的に取れたが、なんなのこの人。人の物を粗末に扱うなんて。見た感じは不審な格好をした黒い衣服に銀髪の私と同じくらいの年齢みたいだし。同級生?でも制服も着てなければこんな人見たことない。一体誰なのか。私は、学生証を拾った後もう一度彼を見た。そして見た感じ怪しい人物に変わりはないと思い睨んだ。


『修司。千丈修司。天野嶺華ちゃんでいいかな?』


『あの、助けてもらったのは有り難いんですが、警察呼びますよ。なんか怪しいから』


『別に呼べば?気にしない。さっさと呼ぶなら呼びな。俺がまとめて殺ってやる』


『…何ですか?急に』


私の方へ歩いてくる。ゆっくりと獲物を捕まえるようにこっちに近づいてきた私は怖くなった。この人、今から私になにかするに違いない。私は思わず上半身を両腕で抱きしめるように覆う。


『や、やめて…ください。本当に呼びますよ。触ったりしたら本当に呼びますからね』


『だから別にいいって。呼びたいなら呼んでもいい。ただ、俺は嶺華ちゃんの力になれると思っただけなんだけどな。自殺のこと、何か嫌なことでもあんのかなぁって思ったから』


『…。別に、なんでもないです…。私はただ、もうなにもかも嫌になってらこの世界から消えたいと思ったから』


『ふーん。もっと聞かせてみ。ほれほれ』


私は知らない人物に私の苦しみを伝えてしまった。何かされると言う予感が益々増加した。しかし何故だろう。この人に少し嫌なことがあることを伝えたらなんだか少し楽になった気がした。少しだけ頼りたいと思い始めた。


『ねぇ。私は一体どうなったんですか?あの後のことがわからないから。なんか黒い霧が出てきたんです』


『錯覚じゃない?俺は知らんけど』


『じゃあ、病みすぎて変なものを見たってこと…』


『まぁ、とりあえず俺は消えるしますかね。また、どっかで会えたら聞かせてもらうよ。君の愚痴でもなんでも』


『え?どこ行くの?』


知らない男の子が近くの曲がり角へと逃げていった私は追いかけていった。しかし何故か男は曲がり角から先にはいない。姿を消したのだ。

そういえばここって。見覚えのある場所だと思ったら学校付近の近所ではないのか?私はその近くの公園で知らない人と会話していた。夢かと思い頬っぺた強くつまむ。しかしアニメや漫画みたいに物凄く赤く跡ができるくらいの勢いで引っ張ってみたが、やはり見た光景は夢ではなく現実。


『本当にここは、現実世界…なの?』


私はあの黒い霧の正体がバレなんなのかがすごく気になった。私はいつかあの男ともう一度出会いたいと思い始めた。


学校帰りに嶺華がとある工事現場を横切って行く。なんの変わりもないのだが妙に後ろから誰かの叫び声がずっと聞こえて仕方ない。奇妙だと思い、嶺華が去っていこうとするがだんだんと近づいてきている気がする。すると嶺華が工事現場からすぐ曲がったところで、自分の同級生の男子が虐められているのを見た。この叫び声だったのか。後ろから聞こえるのは工事現場の音と混ざってしまってあんな聞こえ方がしたのだ。


『頼む!もう、もうこれ以上は出せないから』


『へんっ!こいつ全然持ってないじゃねぇか。つまらんな。女にモテないぜこの貧乏神さんよ』


『しけた野郎だぜまったく。この童貞陰キャ。ただ気持ち悪いだけじゃねぇか。金持ちの家だって聞いてたのに損した』


そして中には嶺華を虐めてる女子が数名いた。虐めている男子の同級生を顔面三発蹴っ飛ばす。


『なぁ、お前教えろよ。嶺華になにかしたのかよ。さっさと楽しませてよ。あたしたちをさ!』


『嶺華に何か虐めをしてやったら許すって言ってんだろうが』


嶺華は壁に隠れて女子が言ったことをずっと聞いていく。


『お前はあたしらの奴隷なの。犬なの。なぁ、さっさとご主人様の言う通りに動けや。バカ犬が』


『ちょっと奈緒。こいつさっきキックくらわせた時に奈緒のパンツ見てたぞ。マジ気持ち悪ぃ』


すると男子が虐めてる同級生の頭を鷲掴みにして女子の方に顔を上げさせた。


『僕は…見てない…。本当に…』


『そんな顔で言われても信じられるわけねぇだろうが。変態が!』


そして同級生がまた蹴られている。その叫び声を嶺華は怖がりながらも聞き、耳を塞ぎながらその場を去っていった。何より嶺華を虐める人があんな集団で集まっており、その任務を果たせなかったために暴力で解決されているということと、自分のせいでそうなってしまったことに対する責任のようなものが嶺華の精神をえぐる。

そのまま頭の中であの光景をひたすら忘れようと頭を横に振る。そして真っ直ぐどこにも寄らずに帰っていった。


朝の学校。やはり嶺華がいつも通り教室に来た瞬間に虐めがあった。何より嫌なのがネットのこと、虐めのメンバーがあんなにもいたこと、そしてその一人が自分のせいで苦しめられていること。これらのことが自分一人に背負わされる重みが誰にもわからないから話せる人がいない。唯一話せそうなのが…。あの不審な男の人。だが、彼が嶺華の前に現れることにあまり期待していない。


『嶺華ちゃーん。なぁ、今日日誌係だったよな?ついでに職員室に行って、体育館の鍵もらってきてよ』


『なんで私なの?自分たちで行けばいいじゃない』


『うーわ!友達の頼みなのに聞けないんだ。他人を思いやることのできない最低女なんだ。みーんなー。こいつ最低ですよ。こいつ体育館の鍵を勝手にとって遊ぼうとしてまーす』


勝手なことをみんなに伝わるように堂々と言う虐めのメンバーの一人。それを聞いて嶺華の基に来たのは。


『ゴミかよ。パシリにもならねぇ使えねぇ女だな。集団行動ができない人間は空気のや読めないアホなんですよー。頭悪いんだね。他人を思いやらないクズなんだね』


昨日男子の同級生を虐めて蹴っ飛ばした女、奈緒である。

この女がいわゆる一軍のリーダーみたいなものである。


『いい加減にして…。あんた達こそ、こんなにも仲間がいるなら誰かが代わりに行けばいい話じゃない!』


私は自分が虐められていたら強く言えるのだ。だがそれが原因で虐めがエスカレートしていくのはわかっている。でも間違ってると思って言った。こう言わなければキリがないからだ。例え虐めがエスカレートしても諦めなかった。そして今に至る。


『私、言うから。あんた達がそんなこと考えていたってこと』


『ぶっ飛ばされたいんか?お前は』


すると嶺華の視界に昨日虐められていた男子の同級生がいぎこちなさそうにこちらを見ながら止めるか、止めないかを判断している様子だった。


『オイッ!聞いてんのかくそ女』


『ねぇ?私を虐めてる人って他に誰なの?』


『はぁ?誰がおめぇを虐めるような奴がいんだ?まさかあたしらを疑ってんの?』


確かめたいのだ。嶺華は他に誰がいるかを。しかし、妙なタイミングで先生が教室に入ってきた。


『おい!日誌係!なにやってんだ。取りに来いよ。もう先生が持ってきたからいいが』


『せんせー。こいつでーす。こいつがあたしらに喧嘩売ってきた』


『違います!先生いつもクラスを見てたらわかりますよね?喧嘩売られているのは私な…』


『そんなことより早く席につけ。今日の日誌係は嶺華か。今度から気をつけるんだ』


やはり嶺華のことを聞いてくれなかった。そしてみんな席に着きいつも通り出席を取り出す。


『嶺華』


放課後。私は下駄箱から靴を取り出しシューズに履き替えようとした。すると下駄箱の中から一枚のノートの切れ端が出てきた。私宛に誰からかわからないがとりあえずその場で読んでみた。


『嶺華ちゃん。君の力が必要です。君にできることがあるからこれを読み終わったらでいいですので屋上にすぐ来てください』


名前が書いてない。とりあえず私は靴を履かずにそのままにしてシューズに履き替えて屋上に向かう。鞄をとりあえず教室に置いておくことにして、私は屋上に急いだ。

屋上の出入り口には誰もいない。益々誰なのか気になった。私に出来ること?なにかわからないが、私は屋上のドアを急いで開けて屋上の眺めを見た。あたりを見回すと誰もいない…。いや、入り口から見て右側にあの虐められていた男子の同級生が立っていた。


『嶺華ちゃん。ありがと。呼んでくれたんだね。待っていたよ』


『要件は何?』


『ごめん…。残酷なことなんだけど』


すると出入り口の塀で見えなかったが男子の同級生の近くにはあの一軍のメンバーが立っていた。


『ヤッホー。嶺華ちゃーん。来てくれてありがとう。まさかあたしらが書いた手紙を読んでくれて』


『え?あなた達なの?』


『今からこのフニャフニャ君が、嶺華ちゃんとやりたーいことがあるんだってー』


『嶺華ちゃん。俺、君を…』


『何?ねぇ?何するの?』


私は男子の同級生に問いかけた。すると早くしろと背中を押されて前に一歩出た。昨日虐められていた同級生がここに私と一緒に連れてこられているって言うことは。


『それいけっ!脱いじゃえー』


私の服を無理やり脱がそうとする虐めのメンバー達が私を抑えようとする。スカートをずらそうとし、下着まで一緒に降ろそうとする。


『ホラっ!挿れろ!変態の欲情バカ犬。男だろ?』


『こいつなら童貞卒業手伝ってくれるぜ。早くしろ』


『やめて!やめてぇぇぇ!』


私は必死に抵抗する。ネットのこと、昨日のこと、そして今から目の前の同級生に犯されること。全て受け入れるのに頭がパンクしそうになる。こんなことになるくらいなら…。死にたい。またそう思った私は思わず心の底から嫌になり涙が溢れでた。

すると虐めてられていた同級生が急に苦しみだした。私の目の前であの黒い霧を書く体から出して苦しみだす。


『もう、やめよう。僕は、嶺華ちゃんを虐めたりはしたくない!だから…やめろぉぉぉ!』


すると急に黒い霧が虐めのメンバー達に吹きかかる。そして私はその隙になんとか抑えられていた状態から服を戻して立ち上がった。


『いやーー!』


虐めのメンバーが苦しみだす。

一体どういうこと?すると私の目の前には倒れ込んだ虐められていた同級生がピクリとも動かなくなって寝ている。


『ねぇ?起きてよ。何があったの?』


しかしいくら起こそうと思っても起きない。そして霧の中から逃げ出した虐めのメンバーは全員逃げていく。私は黒い霧がだんだん人型になっていくのを見ていた。そして2メートルくらいの怪物が目の前で私を見る。


『なに?』


『美味しそう』


私に襲いかかろうとしたその時だった。


『修司』


『また会ったね。嶺華ちゃん』


『あなた…。この前の』


『ハンティング学校始まるよ。死にたくなかったら逃げな』


俺は何やら物凄い黒い霧が見えた場所に駆けつけたらまたここだった。ここは何人の人間が病んでんだ?まぁ、それはどうでもいい。目の前の怪物が狩りたくてたまらない。俺は邪気斬刀を出して一気に相手に近づいていく。


『ハハハハハッ!オラオラ来いよ怪物。トロいぞ。お腹減ったんだろ?こっちに美味しそうな獲物がいるぜ』


『お兄ちゃんもいいかもしれない。いただきまーす』


相手が身長が高くて俺を見下ろしているがなんの気にしない。むしろその分強そうだ。狩りごたえがある。益々楽しくなってきた。

俺と怪物が互角の戦術で争っているのを黙って嶺華ちゃんは見ている。さっさと逃げないと死んじゃうかもしれないのに。


『おーい。見物か?マジで死んじゃうぜ』


すると何を勘違いしたのか、嶺華ちゃんは寝ている男子をほっといてこっちに近づいてきた。よそ見をしていたそれは怪物の攻撃をくらってしまう。しかも背中を思いっきり爪でエグられた。

今回の怪物は厄介だった。すばしっこいわ、背は高いわで俺が気を抜いた瞬間に何度も攻撃をくらいそうになる。顔面を何回爪でエグられそうになったか。


『ハンティングをわかってんじゃん』


『ねぇ。じっとしててよお兄ちゃん。食べちゃうから』


『俺じゃなくてもいるだろ?あそこによ』


『いいや。お兄ちゃんの方が美味しそう』


『ハァ。なんだよ。この前のやつは不味そうとか言うし』


『いただきまーす』


『私を食べなさい!』


俺がふらふらになりかけの時に俺の目の前に立っている嶺華ちゃんが何か言い出した。私を食べなさい?なんだかわからないけど、彼女はこの前言ってた何かしらの病気なのかもしれないと思った。

だが、怪物が後ろを振り向いて彼女を見た瞬間に隙が出来た。俺は邪気斬刀で首元を真っ直ぐにぶっ刺してやった。


『ギャーーー』


怪物ちゃんが暴れると俺は方などを無理やり抜こうと動かす。そして見事に首がスパッと切れ怪物ちゃんが倒れた。


『ハハハッ!ざまぁねぇな』


俺がその台詞を吐き捨てた後怪物はその場から消滅していった。


そして俺は彼女を見た。

すると彼女が怒ったような顔でこっちを睨んでいた。


『嶺華2』


怪物が消滅してしまった。何が何だかよくわからないけど、私は必死に怪物に頼んだ。だが、あの男の子が殺してしまった。私はチャンスを壊され怒りが溢れる。


『なんでよ!止めないでよ!せっかく…死ねたのに』


すると男は刀をしまって腕を組んだ。


『死にたいならいつでも殺してやる。望むならな。だからまた俺に頼みに来いよ』


『じゃあ、今すぐに殺して!もう死にたいのよ』


すると気絶していた同級生が起き上がった。


『あれ?僕は』


私は後ろを振り返る。何も覚えていないようだが、私は同級生の方を見た。


『ねぇ。何か悪いことしたの?私。教えてよ!』


私は必死になってその同級生に訴えた。そして彼が答える。


『君は悪くない。悪いのは僕なんだ。僕は君を助けたかった。だけど僕の弱さが君を助けることを戸惑わせたんだ』


『どう言うこと?』


『僕はいつも君が虐められているのを見ていた。そしたらあの女子達にいつも見てる奴だと目をつけられた。僕は無視しようとしたんだけど、みんなが傍観者も手伝わなかったら嶺華ちゃんと同じ目に合わせるって脅された。断ったらこうなった。今日、君を呼んだのは彼女たちなんだけど、止められるチャンスだと思ってここまできた』


『私を助かるため…』


『僕はずっと憎んでいたんだ。彼女たちをね。僕を、そして嶺華ちゃんを虐める奴らを。こんなことはよくないってなぜわからないのか。だから誰かが止めないといけないと思ったんだ。僕なら目をつけられたし、他の人には危害が加わらない。だから、僕が君を守ろうとしたんだ』


私はずっと彼のことを重く受け止めていたが、まさか私のためだったなんて。私はなんだか自分という存在が申し訳なくなった。こんなことをしてまで私を助けようとしてた人がいるってことを知って。

私ははずっと彼を苦しめた原因だった。だから今度は私が彼を助ける。そう心に誓った。そして彼にありがとと伝え、後ろにいる不審な男の子を見ようとしたが、もう誰も後ろにはいなかった。




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