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作戦開始 2

 翌日。旅館で朝食をとったあと、一行は近くにあるという神社を目指して歩いた。思ったよりも険しい道のりに、理沙(りさ)以外のテンションがガタ落ちになったころ、色あせた鳥居が上方に見えてくる。


「おい何だこの無駄になげー階段は! よし祥太郎(しょうたろう)、びゅんと行け」

「え? いいのホントに? 冗談だよな?」

「わたしももう、いい気がしてきたわ……近くに誰もいないし」

「ダメですよ祥太郎(しょうたろう)さん! (さい)さんとマリーちゃんもしっかり! ここはトレーニングだと思って頑張りましょう!」

「むしろリサは何故そんなに元気なの……?」


 そんなことがありつつ、ようやくたどり着いた先にあったのは小さな神社だった。鳥居の先に見える本殿も古びてはいたが、綺麗に掃き集められた落ち葉や、清らかな流れを見せる手水舎に、きちんと世話をする者の存在を感じられる。


「見たところ、普通の神社だなぁ」


 ひとまず参拝を済ませ、ぽつりと言う祥太郎。それを聞き、賽銭箱の近くに置いてあるパンフレットを眺めていた才が顔を上げた。


「神社自体に何かあったとしても、そんな見てすぐ分かるってもんでもねーだろ。大体この神社なのかも定かじゃねーし、本人がここの関係者なのかも分からん。キーワードだけだからな」

「マジで情報少なすぎるなぁ。大丈夫なのか?」

「あいつがコントロールしてんだから問題ない。ちゃんと俺たちが見つけることを見越して最小限のヒントを出してるんだ。こういうのはある意味、運命ってやつを相手にした駆け引きみたいなもんだからな」


 念のため周囲を気にしつつ小声で話す。見える範囲に人影はなかったが、いち早く気配を感じ取った理沙は怪しまれないよう、普通のトーンで会話を始めた。


「社務所も閉まってますね。御用のある方はどうぞって書いてあるインターフォン押してみます? あたしこの健康祈願のお守り欲しいです!」

「あっ。じゃあ、わたしは隣のキラキラしたのにするわ」

「それ恋愛運のお守りみたい!」

「れ、恋愛運? そういうつもりじゃなかったっていうか、わたしはそういうのは別に……」


 とっさに話を合わせた結果、思わぬことになったマリーが顔を赤らめていると、誰の耳にもはっきりと、階段を踏みしめる足音が聞こえてくる。

 やがて現れたのは、制服姿の少女だった。


「こんにちは。何か困ってます? ……あれ? 理沙ちゃんとマリーちゃん!」


 名を呼ばれ、一瞬戸惑う二人。少しして目の前の少女と、タオルがぐるぐる巻きになった姿が脳内で一致した。


美世(みよ)さん! 昨日ぶりですね、こんにちは! 美世さんもお参りですか?」

「ううん。ここ、私ん家」

「近所って言ってたけど、この神社の人だったのね」

「二人とも、知り合いなのか?」


 才が口を挟むと、マリーが小さくうなずく。


「昨日お風呂で偶然一緒になったの。それで少しおしゃべりをしたわ」

「へぇ……あ、俺は才と言います。どうぞヨロシク」


 そうにこやかに言ったと同時に、がらがらっと引き戸が勢いよく開く音がした。目を向けると、本殿から少し離れた場所、住居と思われる建物から白い髪を後ろで束ねた女性がこちらへと歩いてくる。小柄だが姿勢もよく、真っ直ぐにこちらを見る大きな目には威圧感があった。


「なんですか、騒がしい」

「あ、おばあちゃん。この人たちはね」

「美世。まずは家に入りなさい」


 祖母は皆を怪しげに一瞥し、早く引き離そうとするかのように美世の背へと手を当てる。


「違うの! ぜんぜん変な人たちとかじゃなくて、理沙ちゃんとマリーちゃんっていって」

「美世!」

「……はい」


 強い口調で言われ、美世は暗い顔でうなだれた。


「理沙ちゃんマリーちゃん、ごめんね」


 彼女はそれだけ言って、逃げるように家の中へと入っていく。


「さて。お守りでしたかしら?」

「今のはちょっと、ひでーんじゃねーの?」


 見かねて言った才を、美世の祖母はぎろりと見た。


「あなた方は美世の何なのかしら? 見たところ観光客のようだけれど。学生さん?」

「……まあ、そんな感じっつーか」

「あなたさっき美世の体に触れようとしてたわね?」

「は? ち、ちげーし! ちょっと握手しようとしてただけで!」

「では下心は全くないと?」

「まっ――それは、ま、全くとか言われましても……」

「サイ、弱気にならないで。ミヨはお祖母様とちゃんと話がしたいと言っていたわ。あんな無下にしなくてもいいんじゃないかしら」

「上品なお嬢さん。美世から何を聞いたか知りませんが、我が家には我が家の事情があります」

「でも、せっかく知り合えたんですし、ちょっと話をするくらい……」

「お守り必要ないのでしたら、わたくし失礼しますけれども」


 なおも食い下がった理沙に言葉が被せられる。一瞬の迷いの後、理沙は健康祈願のお守りが欲しいと伝えた。


「ご心配いただかずとも、高校を出る頃には美世の自由にさせます。その時に良かったら友達になってあげてくださるかしら」


 紙袋に入れたお守りを渡しながら発せられた意外な言葉に、誰もそれ以上口を挟むことができなかった。

 遠ざかっていく彼女の背中を、ただ目で追う。


 ◇


「ターゲットは、ミヨで間違いなさそうね」


 その夜。再び部屋に集まったメンバーは、日中あったことについて話し合っていた。温泉ではタオルを巻いていたため気づかなかったが、美世の髪は黒く、腰くらいまである長さ。そして高校生。ゼロのメモにあったターゲットの条件にぴったりだ。


「ほんとにすんなり見つかったなぁ」

「だろ?」


 感心したように言った祥太郎に、なぜか才が得意気な顔をした。


「でも何か、事情がありそうなのよね……ミヨのお祖母様のあの言い方、変だと思わない?」

「あたしたちが聞いた話だと、美世さんの友達とか、人間関係にすごく口を出すんだって言ってました」

「つまり何でかは知らないが、あのばーさんがわざと人を遠ざけてるってことだよな。高校卒業まで」

「なんか、しきたりみたいなのがあるのかな? 神社の」

「ショータローの言うような理由なのかもしれない。少なくとも、ただの意地悪ということではないと思うの。そこにわたしたちがどこまで踏み込んで良いものか……」

「もっとシンプルに考えようぜ。俺たちには俺たちの仕事がある。まずはそれを考えねーと」

「ですね。『大干渉(だいかんしょう)』を止められないと、美世さんもお祖母さんも結局危ないわけですし」


 才と理沙に言われ、マリーは顔を上げる。


「そうよね、まずはそのことよね。ただ、あの調子じゃ、ミヨとこれ以上仲良くするのは難しそう。せめて遠くから見守る方法ってないかしら?」

「ああ、それなら小型の発信機があるぜ」

「また才はそういう犯罪臭のするものを……」

「あのねぇ祥太郎くん? 人聞きの悪い言い方をしないでくれるかな? ちゃんと今回の仕事用だ仕事用! エネルギーのゆらぎを探知するスグレモノでだな」

「わかった。僕が悪かったよ。でもそういうのは使っていいんだっけ? 線引きがイマイチ理解できてなくて」


 口を尖らせながら祥太郎を睨んでいた才は、自分の荷物をごそごそとやると、中から細いチェーンがついた小さなカエルのぬいぐるみを取り出した。


「わぁ、可愛いですね!」

「だろ? 理沙ちゃん。遠子(とおこ)さんとエレナさんにも手伝ってもらった俺様の自信作だ。つまり、元々この作戦のことを知ってるメンバーだけで作ったわけだな。それを『個人的に』仲良くなった二人から、友情の証として美世ちゃんに渡してもらう。もちろんこれを見てマジックアイテムだと気づかれることはまず、ない」

「なるほどなー」

「……でも、ひとつ問題があるわ」


 コミカルな表情のカエルをじっと見ていたマリーが言葉を発する。


「それをどうやってミヨに渡す? 家を訪ねても門前払いでしょうし、あの様子じゃ、この宿のお風呂にも、もう来ないんじゃないかと思うの。少なくとも、わたしたちが滞在している間は」

「時々って言ってたから、たまたま会えただけだったかもしれないよね。才さんならなにか『視え』――」


 理沙はそう言いかけ、はっと動きを止めた。


「やっぱダメです才さん! 覗きなんてしちゃ!」

「いやいやしてない、まだしてない」

「学校はどう? 今日も制服着てたし」

「ショータロー、それ名案かも。だけど、どこの学校なのかがわからないわ」

「ああ、あの制服ってここの隣町にある女子校のだろ? クルマで行きゃすぐだぜ」

「本当ですか才さん!? それならお祖母さんに気づかれずに、美世さんと会えそうですね!」

「おう、さっそく明日行ってみようぜ!」


 方針が決まり、ほっとした空気が流れたところでマリーがぽつりと言う。


「ところでサイはどうして、ミヨの制服が隣町の女子校のだってことを知ってるの?」

「はい? ……あー、それはたまたまっつーか? そんな深い意味はないっつーか」

「マリーちゃん、きっと才さんは都内の女子校の制服全部わかるんじゃないかな? じゃあ、お疲れ様でした。また明日! マリーちゃん、温泉行こう!」

「ちょっとリサ、行くから引っ張らないでってば!」

「えっ、ちょっと待って!? マジで、マジで偶然! たまたま知ってたの! 前付き合ってた子の友達がさ」

「じゃ、僕もひとっ風呂浴びてくるので。お疲れ様」


 部屋にひとり取り残された才は、ムスッとした顔でポットから注いだお茶をぐいっと飲み、その熱さに跳ねた。

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