表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/111

迷宮ショッピング 3

「問題は、ここからですね」


 走り出した理沙りさに導かれるようにしてたどり着いた先には、今日何度も訪れている分かれ道。


「左の三本は、あのラーメン屋に戻る道だったのよね。空間がつなぎ直されるような仕組みじゃなければ、残る二本のどちらかってことになるけれど……」


 マリーは言ってのぞき込むが、狭いトンネルのようになった道の先は暗くて良く見えない。


「二手に分かれるのはどうだろう? どっちかが不正解ならまたすぐラーメン屋のとこに戻るだろうし、そしたら残った道に急いでもらって」

祥太郎しょうたろうくん、もう一本も必ずラーメン屋に戻るとは限らないんじゃない?」

「あ。そっか」

「それに何が起こるか分からないから、出来るだけ別行動は避けたいところね。理沙ちゃん、何か感じない?」

「ちょっと待ってくださいね」


 彼女は目を閉じ、意識を研ぎ澄ませる。他の皆も邪魔をしないよう静かにしていたが、わずかな間のことだった。


「――四番目の道から、何かが動く気配がします。一番右はやっぱり、ラーメン屋さんのところに戻るのかも。他の道と似たような雰囲気があるので」

「理沙ちゃんありがとう。決まりね、行きましょう」


 長くうねる道を抜けた先には、入口のホールに似た広い空間が待っていた。しかしあちらと違って店などはなく、人の姿もない。


「行き止まりでしょうか。脱出口もないみたいです」

「さっきの悲鳴の主は、どこへ行ったのかしら? わたしたちの聞き間違いってことは……ないわよね」

「見てマリーちゃん! あそこに何か落ちてる」


 理沙が指差した先の地面に、白い物が落ちているのが見えた。少し近づくと、帽子であることがわかる。


「やっぱり聞き間違いじゃなく、誰かがここに居たってことなのね」

「みんな待って。もう少し慎重に行きましょう」


 もっと詳しく見ようと歩き出す三人に不安を感じ、遠子が声をかけたその時――どこかで、ごとり、と音がした。


「――!?」


 皆、一斉にそちらを見る。天井から、今まさに巨大な岩が落ちてくるところだった。

 祥太郎は冷静にその岩を睨みつける。この程度を飛ばすくらい、造作もないはずだった。

 そして、目の前には真っ白な光が拡がる――。


 ◇


 ――ヨーロッパのような街並みだった。

 実際に訪れた経験があるわけではない。ただ、その絵本の中に出てくるような景色を一言で表現するには、うってつけの言葉だった。


「ぐぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 遠子のぼんやりとした思考は、奇妙なうめき声に破られる。

 あわてて周囲を見て、それが自分の体の下から発せられてることに気づくと、急いで立ち上がった。


「あっ――棒人間ちゃん! ごめんなさい」

「だ、大丈夫だっピ。それより、遠子さんさんは大丈夫っピ?」

「ええ、私は」

「なんだか、珍しくぼんやりしてるみたいだっピ」

「……そう言われれば、そうかもしれないわね」


 言って頭を振り、手で顔をこする。街並みをもう一度眺めてみるが、なかなか思考がまとまらない。


「棒人間ちゃんは、ここがどこだか分かる?」

「分かんないっピ」

「そうよね。……じゃあ、ここに来るまでのことは覚えてる? ちょっと整理しておきたいの」

「覚えてるっピ。でっかい岩が光って、ここに来たっピ」

「岩が光った原因って見てた?」


 棒人間は腕を組み、うんうんと考えるような仕草をした。


「えっと、ゲンインかどうかは分かんないけど、たぶん祥太郎さんが岩を飛ばそうとしてたんだっピ。理沙ちゃんさんも何かしようとしてたけど、祥太郎さんは見るだけでいいから早いっピ」

「じゃあ、祥太郎くんの能力に岩が反応して――もしかしたら転移の力が跳ね返されたか何かで、こんなところに飛ばされたのかしらね」


 遠子はもう一度街を見る。今になって気づいたが、レンガ造りの建物に挟まれた石畳の道には、誰の姿もなかった。

 ざわざわと、嫌な予感だけが沸き上がる。


「みんなは別の場所に飛ばされてるかもしれない。探しに行きましょう」


 ◆


「――うぅん」


 マリーは小さく声をあげ、目を覚ます。目の前がやけに暗い。

 鼻先にも腕にも、あたたかさを感じる。――よく見ると、自分がしがみついているのは人の背中だった。


「きゃぁぁっっ!!!」

「どぅぐへぇっ!?」


 思わず蹴り飛ばすと、地面に顔面から突っ伏した人物は聞き慣れた声を出す。


「サイ!?」

「ってー! マリーちゃんひどいぜ……」

「ご、ごめんなさい。驚いちゃって」

「あれ? 才さん元に戻れたんですね! ――ところで、ここは? 外国ですか?」


 顔を手でさすっていた才は、理沙とマリーを見た後、あわてて周囲を見回した。


「あいつは? 祥太郎」

「えっ? ――あ。あのあたりから人の気配がします!」


 理沙の指さした方には、白い花の咲く花壇がある。皆で駆け寄ると、その陰に祥太郎が横たわっていた。


「おい起きろ祥太郎。起きろってば!」

「……ん。うわぁぁ! 才がいる! ほ、本物?」

「本物だよバカ! シャキッとしろ」

「ねぇ、トーコたちはどうしたのかしら?」

「それなんだが……」


 才は腕を組み、どう伝えるべきか少し考える。


「俺さ、ぬいぐるみにされてた間、動いたりしゃべったりは出来なかったんだけど、周りも見えてたし、皆の会話も聞こえてたわけ」

「ええっ!? じゃあわたし、ぬいぐるみというよりもサイをずっと抱っこしてたってことなの!? 何故言ってくれなかったのよヘンタイ!」

「だから言えなかったんだって! 落ち着いてくれよマリーちゃん! 残念ながら感触とかそういったものも全く堪能できず……って、そんな話は今はいいんだよ」


 彼は大きく咳ばらいをしてから続ける。


「あの時、遠子さんだけ離れた場所にいただろ? だから巻き込まれなかった可能性もあるが――いや、巻き込まれただろうな。そもそもあの場所自体が不自然だった」

「確かに迷路のひとつとして作ったとしても、脱出口がないのはおかしいですよね」

「ああ。だからあそこに居た全員、ここへと飛ばされたはずだ」

「飛ばされたのは、僕が落ちて来た岩を転移させようとしたせいだよな……?」

「そうだろうが、違うとも言える。祥太郎の能力はトリガーになっただけだ。恐らく何の能力だったとしても関係ない」

「サイ。もしかして、ここがどこだか知っているの?」

「いや。――でも、あの岩が何なのかは分かった。転送装置だ」

「転送装置って……『アパート』のゲートルームにあるやつみたいな?」

「みたいなじゃなく、同じものだと思う。少なくともベースは」

「ちょっと待って」


 マリーはそれを聞き、少しだけ声を震わせた。


「じゃあ、こんなことをしたのは、『アパート』の関係者ってこと?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ