表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/111

召喚術師と召渾士 3

「ここが、ナレージャさんのお部屋ですよ」

「わぁ、すてき! ほんとにここ、使わせてもらえるんですか!?」


 理沙りさがドアを開けて中へと案内すると、ナレージャは目を輝かせながら周囲を見回した。


「はい。しばらくは居てもらうことになりそうですし」

「そういえば最初はこんなだったわね」


 マリーもその後に続きながら、自身が『アパート』の一員となった日を思い出す。

 今はそれぞれの好みが反映されているが、元はここのように、白を基調としたシンプルな部屋だった。


「ねー。自分の部屋に慣れてると、逆に新鮮っていうか」

「リサの部屋は、和室とジムが共存してるものね……」

「すごい! 広い! ベッドもふかふかです!」


 二人が話している間に、ナレージャの姿は寝室へと消えている。


「でも、私の荷物、これだけしかないんですよね……」


 彼女はさみしげに言って、古びたショルダーバッグと杖を、ベッドの上へぽふっと置いた。


「とにかく、明日から本格的に帰る方法を探しましょう! あたしたちも頑張りますから!」


 あの後、ナレージャとカリニにも改めて話を聞いたのだが特に情報は増えず、皆の疲労も考え、今日は早めに切り上げることとなった。


「そうそう、わたしたちもある意味、異世界に関するプロフェッショナルだから」

「巻き込まれるって感じが多いけどねー」

「リサ、それは言わない約束でしょ」

「えへへ。でもきっと……ナレージャさん?」

「……寝ちゃったみたいね」


 自然と小声になる。理沙がそっと布団をかけてやると、ナレージャは嬉しそうに笑ってから寝返りを打った。


「ナレージャさん、楽しい夢を見てるのかな」


 見守る二人も笑顔を浮かべ、それから静かに部屋を出る。


 ◇


「俺もナレージャちゃんを案内する方に行きたかったなー」


 頭の後ろで手を組み、つまらなそうに歩きながら、才は愚痴った。


「僕も同意見だけど、やっぱり流れ的に無理があると思う」


 祥太郎はスマホをいじりつつ、やや斜め後方を進む。

 そしてその後を、腕を組んだカリニが謎の威圧感を放ちながらついてきていた。才は唐突に振り返ると、ぴっと指を突き付ける。


「お前もせめて何か喋れよ!」

「ふっ。我の言葉は」

「やっぱいい。内容ねーし」

「仕方ないんじゃないかなぁ。記憶ないみたいだから」

「いや記憶なくてもさ、何かあんじゃん? お世話になりますとか、ナレージャたんごめんとかさ。何でコイツこんな無駄に態度でけーの?」


 するとカリニは才をじっと見た後、ふっと目を逸らした。


「……召喚の件に関して、我も責任を感じないではない。これから世話になるが、よろしく頼む」

「急にデレるのもやめろ!」

「才は才でワガママだなぁ」

「祥太郎、お前は前を見て歩け。そっちカベだから」


 そんなことをしてる間にも、目的の部屋が見えてくる。


「んじゃ、俺らはこんなとこで。明日は10時にミーティングルームに集合な」

「10時か……」

「何でお前が不安そうなんだよ祥太郎」

「だってさー」

「では、明日だな」


 カリニは会話を断ち切るように言って、ドアをパタンと締める。思わず上げた手が行き場をなくし、才は仕方なく頭の後ろをかいた。


「愛想ねーなぁ。記憶なくす前は、もっとにこやかだったとかあんのかね」


 肩をすくめ歩き出した彼に、祥太郎もついていく。


「どうなんだろうなぁ。でも何となく、育ちがよさそうな感じはするけど」

「はぁ? どこ見たらそういう感想が出てくんだよ?」

「例えば……ケーキの時とか?」

「ケーキ?」

「くっ、あのモンブランはやっぱ惜しかった――それはともかく、ナレージャを元の世界に帰す方法、何かあんの? 今日の話だけじゃよくわかんないってのは確かにあるけどさ」

「それをこれから考えようってんだろ」

「マジでシミュレーターのせいとかじゃないよね?」

「ばっ――キミまでそんなこと言うのかなぁ祥太郎君。嫌だなー」

「帰す方法はまだわからないけれど、ナレージャの『魔王』が止まった理由なら、ちょっと思い当たることがあるかも」


 突然割って入った声に顔を向けると、そこにはマリーと理沙の姿があった。


「カリニさん、無事に部屋に着きました?」

「ああ着いた着いた。相変わらずくっそふてぶてしーの。んで、マリーちゃん。その理由っつーのは?」

「また明日話すわ。どちみち試してみないとわからないし、今日はもう疲れちゃったから」

「遠子さんを呼び戻す方法を探るつもりが、何でこんなめんどくさいことになっちゃったんだろうなぁ」

「それは、アレよ」


 ぼやく祥太郎に、マリーは大きなため息をつく。


「わたしたち、巻き込まれるプロフェッショナルだもの」


 ◇


 翌日。

 10時になる少し前には、ミーティングルームにほぼ全員が集まっていた。直接部屋の中へ転移して来た祥太郎が、眠い目をこすりながらあたりを見回す。


「……あれ? マリーは?」


 いつものメンバーに加え、カリニもナレージャも揃っているのに、マリーの姿は見当たらない。


「ああ、マリー君ならテストルームにいるよ。朝から準備をしてくれていてね」

「準備、ですか」

「そーそー。ギリギリまで寝てる祥太郎くんとは違うのだよ」

「ぐうっ……」


 嫌味たっぷりに言われるが、言い返せない。才自身も、ここに来るまでに色々と仕事をしてきているのが見て取れた。


「まあそう言わずに。適材適所だからね」


 マスターはいつものように穏やかに言ってから、祥太郎へと向き直る。


「では祥太郎君にも仕事を頼もうかな。皆をテストルームへ」

「あ、了解です」

「きゃぁぁぁっ! ――え? え? どういうことですか? 移動したんですか?」


 気がつけば、目の前にはテストルームの扉。ナレージャは軽いパニックに陥り、カリニは目を丸くしている。


「いきなり転移すんじゃねーよバカ太郎! 慣れててもビビるわ」

「ああごめん。つい」

「マリー君。今テストルームの前だが、大丈夫かな?」


 マスターが『コンダクター』で呼びかけると、しばらくして返答があった。


『ええ、どうぞ。お入りになって』


 扉を開けると、だだっ広いテストルームには何本もの光の柱が立っていた。床から天井すれすれまで伸びた巨大なそれは、部屋の中央を囲むようにして円形に並んでいる。


「す……すごい! 何ですかこれ?」


 またも真っ先に声をあげたのはナレージャ。

 続いてリアクションしたのは、理沙だった。


「あれ? 師匠もいる!」

「理沙ー! 元気そうで何より」

「昨日も会ったばっかりですよ師匠。それより、帰ったんじゃなかったんですか?」

「んー。私もそのつもりだったんだけど、今日も手伝って欲しいことがあるからってマスターさんに言われて泊っていったんだ。家のことも心配だから、シロには先に帰ってもらったけどね」

「もしかして僕、外部の人間より仕事してない……?」

「適材適所と言ったろう? あとでちゃんと働いてもらうから、あまり気にしなくていい」


 マスターは、ぶつぶつ言う祥太郎の背中を軽く叩くと、マリーへと呼びかける。


「もう結界は、ほぼ完成かな?」

「ええ、9割方。あとは起動させて、マスターに調整してもらえれば」

「大がかりな結界だから、大変だったろう。ご苦労様」

「確かに少し疲れましたけど、ウリョウも手伝ってくださいましたから」

「ううっ……私がこんなに人から必要とされる時が来るなんて……! 生きてて良かった……!」

「そんなことないですよ師匠! あたしには師匠が必要です!」

「理沙ー!」

「師匠ー!」


 そうして手を取り合い、涙を流す二人。


「……まぁ暑苦しい師弟はとりあえず放っておくとして、そろそろ始めましょうか」


 マリーは呆れたように言ってから、ナレージャへと向き直った。


「ではナレージャ。――こちらへ来て、『魔王』を呼び出してみせて」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ