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ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~  作者: 森山たすく
第十二章 新人発掘オーディション
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新人発掘オーディション 4

「今、何とおっしゃいました……?」


 急に丁寧な言葉で聞き返す(さい)に、少女の顔がこわばる。


「も――申し遅れました! 私、ナレージャ・アイリスと申します! 私、ルフェールディーズ魔術団のお役に立ちたいんです!」

「その、つかぬことをうかがいますが、ルフェールディーズ魔術団というのは……」


 少女――ナレージャはまた一瞬固まった。少し考え、これも面接の一部と思ったのか、背筋を伸ばして語り始める。


「はい、ルフェールディーズ魔術団は、わが国アーヴァーの祖、エリシュテイル・レザ・ノーマ様の片腕と言われた大魔術師、ルフェールディーズ様が始められた組織で……」

「あ、もう結構です。あの、ちょっとお待ちください」

「はい! 承知しました!」


 そう言って才は彼女に背を向け、仲間を招集した。それから、ひそひそ声で言う。


「俺さ、三つのケースがあるんじゃねーかなーと思うわけ。一、全部ナレージャちゃんの妄想。二、実は地球のどこかにアーヴァーって国がある。三、ナレージャちゃんは異世界から来た」


 その場にいる全員が、無言で三本の指を立てた。


「デスヨネー」

「わたしもね、ちょっと思ったことが三つあるの」


 マリーが同じように、小声でひそひそとやる。


「一つは、『ゲート』が開いた気配がしなかった。二つめ、ということは別の方法、もしかしたらカリニの召喚術のせいかもしれない。三つめ、シミュレーターがまた悪さしたんじゃないの?」

「そ、そんなことはなくなくは……」

「あっ! カリニさんの隣に、魔法陣みたいなのが映ってますよ! もう消えちゃいそう!」


 もごもごと返していた才は、理沙(りさ)の声を聞いて我に返った。


「理沙ちゃん、スクショして!」

「す、すくしょですか? ――ええと、これかな? えいっ!」

「うわぁぁぁっ! ちょ、ストップ! やっぱ俺がやる!」


 タブレットに迫る拳を間一髪で受け止め、彼はひとまず画面を保存する。モニターを再度確認した時には、横たわるカリニの近くにあった光る円は消えていた。


「あのぅ……」


 息をついたのもつかの間、それまで黙って部屋の隅に立っていたナレージャが、おずおずと声をあげる。

 自分に視線が集まると、(おび)えるように肩をすくめたが、言葉を続けた。


「す、すみません、口を挟んでしまって。でも――その、私なんかがルフェールディーズ魔術団に即採用なんて、やっぱり、何かの間違いだったんじゃないかなって。それなら、はっきり言っていただいた方が……」


 皆、何と返答して良いのか迷い、押し黙る。


「ウルセェぞ、テメェ!」


 その沈黙を破ったのは、大きなだみ声だった。


「イマ、イセカイからキタ、テメェをどうゴマカスか、ミンナでナイちえしぼってカンガエてんだから、ちっとダマッテロ! このニセしょうかんアイドルが!」

「えっ――?」

「ギャァァァァ! ショクドウだけはカンベン――!」


 あわてて祥太郎(しょうたろう)がシロを飛ばしたものの、伝えてしまった事実は消えない。ナレージャは震える瞳をさまよわせた。


「ど、どういうことなんでしょうか?」

「あの、ナレージャちゃん、ちゃんと説明すっから、ひとまず落ち着いて――」

「近づかないで!」


 彼女は(ふところ)から大きな石のついた短い杖を出し、才へと向ける。


「よく見たら変な部屋……私を(だま)したのね!? それで魔術団を――アーヴァーを乗っ取るつもりなんでしょう!」

「だから違うんだってば! 話を聞いてくれって!」

「グロウザの火よ。深淵(しんえん)(のぞ)く目よ」

「『風変わりな(ストレンジ)』――」

「来たれ、『魔王』」

「――なっ!?」


 何か術が使われることを察し、詠唱(えいしょう)を封じようとしたマリーだったが、発動は予想よりもずっと早かった。

 杖の先の石が赤く光り、そこからどろりとした『影』が()()てくる。


「サイ! 早くこっちへ! ――『女神の揺り籠クレイドル・オブ・ゴッデス』!」


 急いで組み立て直した結界に、才も転がり込んできた。膨れ上がった『影』は、天井を覆い、幾本(いくほん)もの『腕』をこちらへと伸ばしてくる。

 その一本に触れたテーブルの一部が、じゅっという音と共に溶け落ちた。


「ちょ!? 待て、冗談じゃねーって! ナレージャちゃん、マジで一旦(いったん)これ、引っ込めてくれよ!」


 しかし、彼女は答えない。

 ――というよりも、身動きすらしない。


「あの……倒れてません?」


 理沙の言うように、ナレージャはいつの間にか床に突っ伏していた。(かたわ)らには、杖が転がっている。


「祥太郎君、彼女と杖もこちらへ!」

「りょ、了解!」


 指示を受け、祥太郎はナレージャを結界の中へと転移させた。そっと床へと降ろされた体を、マスターは急いで確認する。


「どうやら、眠っているようだね」

「ちょ、こっちもマジ何とかして! 結界が破られちまう!」


 助けを求める才の声。敵はゆっくりと腕を振りながら、部屋にあるものを溶かしている。

 現時点では、仲間を囲む光の膜に問題は見られないが、近い未来のことを指しているのだろう。


「よし。じゃあ理沙、師匠の動きをよく見とくんだよ」


 そこで動いたのは雨稜(うりょう)。彼は深くゆったりとした呼吸にあわせ、空気をつかみ取るかのように腕を何度か動かした後、気合を発した。


龍雨障りゅううしょう!」


 突き出された両の手から放たれた何本もの光は弧を描きながら飛び、マリーの結界の上へと、青い色を塗り重ねていく。

 すると、結界に伸びかけていた『影』の腕が、ためらうように動きを止めた。


「師匠すごーい!」

「えへへ、それほどでもー。マリーちゃんの結界の上から、忌避効果(きひこうか)をプラスしたんだよ。虫よけみたいな」

「その説明だと、あんまりすごくないかも……」


 さらに、マスターがマリーの肩へ軽く触れると、光がレイヤーのように重なり、結界の力がより強固なものとなっていく。


「才君、これで問題ないだろうか?」

「ああ、バッチリ! ――ん?」

「どうしたのかね?」

「いや、結界は大丈夫なんすけど、カリニが……」

「そういえば、カリニさんのことすっかり忘れてましたね」

「備品と違って部屋は頑丈(がんじょう)に出来ているが、彼もこちらへと連れて来た方が安全かもしれないな。祥太郎君、頼めるか」

「了解です! ちょっと行ってきます」


 そう答えた次の瞬間には姿が消え、ほどなくして祥太郎は戻って来た。目を閉じたままでいるカリニの体は、ナレージャの隣へ、ゆっくりと横たえられる。


「ご苦労様。――さて、守りは問題なさそうだが、どう攻めたものかな」

「ナレージャさんを起こして、術を解いてもらうのはどうですか?」


 理沙の提案に、しかしマスターは首を振る。


「目を覚まさせること自体は難しくないかもしれない。ただ、睡眠状態が術の代償であるならば、何が起こるか分からないからね」

「じゃあ、とりあえずあのドロドロしたのを殴る……のはしたくないなぁ」

「師匠もあんまりオススメしないねぇ。何だか得体(えたい)が知れないし。あれ」

「僕がどっかに飛ばして――も解決しないか。じゃあマリーの結界で封印しちゃうとか」

「わたしにこれ以上働けと……?」


 結界の維持に力を割いているマリーは、あからさまに嫌な顔をする。

 雨稜の言うように、得体の知れない印象が不気味であり、だからこそ守りの手をぬく気にはなれなかった。


「才君、何か『視え』ないだろうか?」


 マスターに問われた才は、うーんとうなる。


「カリニがなぁ」

「カリニ君は連れて来たが、それとは別の件なのかな?」

「ふはははは! 我の力を欲するか!」


 その話を聞いていたのかどうなのか、当人が突然起き上がり、朗々(ろうろう)と言葉を発した。

 皆の視線を浴びながら、すっと立ちあがる彼に才は言う。


「ああ。あれ何とかしてくれ」


 結界の外には『影』がうごめき、備品が溶けてどろどろしている惨状(さんじょう)


「…………事態の解決を我が許す。よきにはからえ」


 カリニはそう言い放つと、バタンと倒れるように横になった。


「おい、寝たふりすんな」

「サイ、今は放っておきましょう。それどころじゃないし――」


 視線を敵へと戻したマリーの言葉は、途中で飲み込まれる。


 いつの間にか『影』は、跡形もなく姿を消していた。

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