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ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~  作者: 森山たすく
第十二章 新人発掘オーディション
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新人発掘オーディション 3

 そこに立っていたのは、身長二メートルはあるであろう大柄な男だった。

 なでつけた金髪の下にある太い眉を引きしめ、鋭い眼光でこちらを見下ろしている。上から下まで全身黒というコーディネートは、放たれる威圧感をさらに増幅させていた。


「貴様らか。我を呼び出したのは」


 彼は低音でそう言うと、ばさりとマントをひるがえし、ドアを開け放したまま、ずかずかと部屋の中央へと進む。そこに置かれたパイプ椅子を見て一瞬、眉をひそめたが、とりあえずどかり、と腰を下ろした。


「何と貧相な玉座であろうか。我には相応しくないが、ひとまず我慢してやろう」


 そう言って足を組み、不敵な笑みを浮かべる。

 『アパート』メンバーは顔を見合わせ、まずマリーが口を開いた。


「あの……あなた面接を受ける気、ありますの?」

「なっ」

「だってノックもなさらない、ドアも閉めない、挨拶もない上に、勝手に着席するなんて。お仕事の面接を受けにいらしたのでしょう?」


 中でも一番若い少女に言われたのがよほどショックだったのか、ふんぞり返っていた男は、思わず小さな椅子から滑り落ちそうになる。


「……ふん、小娘が。我に指図するとは」


 しかし男は踏みとどまった。足をぷるぷるとさせながら、ゆっくり体勢を戻していく。


「見た目で人を判断しない方が良いと思うがね。特にこの業界では」


 すると、それまで黙っていたマスターが、突然そんなことを言い出した。


「ちなみに私は、もう還暦近くだよ」

「は?」


 男の視線は、にこにこと人の好さそうな笑みを浮かべるマスターから、ゆっくりとマリーの方へと移動する。


「ちょっと!? わたしは違うわよ!? まだ15なんだから!」

「へー。そうなんだ」

「ショータロー、そこで感想挟むのやめてくれない? この人が余計に疑わしい目で見てるじゃない!」

「だってちゃんと聞くの初めてだからさー」

「年齢のことはともかくとして、見た目で侮ると足元をすくわれかねないからね」

「年齢のことはマスターが言い出したんじゃないですか」

「まぁまぁ。それより、何か質問をした方が良いんじゃないだろうか。面接っぽく」


 そう促されて祥太郎は考えるが、特に思いつかない。助けを求めるように、才の方を見た。

 すると彼は不思議そうな顔で見返してくる。


「何だよ祥太郎」

「いや何だよじゃなくて、ほんとに何にもないの? どういう質問するとか」

「そういうのは面接官各自でお願いします」

「マジかー……」

「はーい! じゃあ、あたし質問したいです!」


 頭を抱えた祥太郎にかわり、颯爽と手をあげたのは理沙だった。すでに余裕を取り戻し、ふんぞり返っている男に向き直り、ぺこりと頭を下げる。


「よろしくお願いします! えっと……履歴書とかはないんですか?」

「我の壮大な歴史は、あのような紙片に留められるものではないからな」

「そういえば、あたしもここにお世話になる時、履歴書持ってこなかったんでした。おんなじですね! そういえば、お名前は? あたしは榎波理沙えなみりさっていいます!」

「ふん……仮にリュツィフェールと名乗っておこう」

「カリニさんですかー」

「リュツィフェールだ」

「リュツィフェールさん。ではリュツィフェールさんは今日、どうやってここまで来ましたか?」

「ストップ! ストップ!」


 それまで黙って聞いていたものの、堪りかねた才が、そこで割って入る。


「確かに面接っぽいけど普通の質問すぎ! 大体コイツも何なの? 遊びに来たの? もっとねーわけ? こんなこと出来ますよアピールとか!」

「名前には突っ込まないんだ……」

「能力者の中には、真の名を明かすのを嫌がる人も珍しくないからね。実際それが魔術などに影響を及ぼす場合もある」


 ぽつりと漏れた祥太郎の言葉を、マスターが拾って返した。先ほど『業界』という言葉が使われていたが、この界隈の『常識』は、祥太郎にはわからないことだらけだ。


「何だか真面目に履歴書持ってきた僕がバカみたいだなぁ」

「祥太郎君のそういう所は美点だと、私は思うがね。――才君、質問はもうその辺にして、そろそろ実技に移ったらどうだろう」


 このままでは全く面接が進みそうにない。男とにらみ合っていた才はマスターの声で我に返ると、うなずいた。


「そうっすね。じゃあ――」


 が、そこで動きが止まる。


「サイ、どうかした? もしかして、何か『視え』たの?」

「……あと10分くらいで次の人、来ちまいそう」

「は? まさかそういう対策、全くしてないの?」

「し――してなくなくは」

「呆れた」


 あたふたとしながら何かを探す才に、マリーは大きくため息をつく。理沙はその様子と、不敵な笑みを浮かべて座る男を交互に見た。


「じゃあカリニさんは? どうします?」

「だからリュツィ――」

「あ、あった。こうする。――ぽちっとな」


 才はポケットから小さなリモコンを取り出すとボタンを押す。すると突然、パイプ椅子がガシャンと閉じた。支えを失ったカリニの体は、床へと向かって滑り落ちる。


「なっ――!?」


 しかもそこには、いつの間にかぽっかりと穴があいていた。驚愕の表情を浮かべたまま、彼の姿は吸い込まれていく。

 ――ガシャン。

 やがて床の穴は消え、パイプ椅子が元に戻った音が、部屋へと響いた。


「ふぅ……危なかったぜ」

「いやいやいやちょっと待て才。何をしたんだお前は」

「わたし気づいちゃったんだけど。この下ってたぶん、あの部屋よね? 『シミュレーター』があった」

「さっすがマリーちゃん、大正解!」


 才はパチンと指を鳴らし、バッグからタブレットを取り出す。

 電源を入れると、そこには周囲をきょろきょろと見まわしているカリニの姿が。


「あっ、カリニさんが映ってますよ!」

「この前、あの部屋に結界を張ってくれと言われたから、変だと思ったのよね……ここで実技のテストをして、モニターで観察するってこと? 悪趣味だわ」

「んなこと言ったって、実力出してもらうにはちょっとヤバい状況に陥ってもらうくらいの方がいいじゃんか。いつも祥太郎の時みたいに都合よく敵さんがやって来てくれるわけでもねーし、『シミュレーター』使った方が安全だしな。次の参加者とのバッティングも防げるし!」

「……ん?」


 そこまで黙って才たちの話を聞いていた祥太郎の中に、疑問がわき上がる。


「僕も最初の戦いの時、観察されてたってこと?」

「は? ったりめーだろ。未経験者に一人だけで仕事させるとか、どこの鬼畜アパートだよ。『コンダクター』もつけてたし、何かあったらマスターが助けに入る手はずだったわけ」

「そうなんだ……そうなんだ?」


 納得しかけたが、どうにもモヤモヤが取れない彼の横で、何だかんだでディスプレイを真面目に見ていたマリーが声をあげた。


「サイ。今、カリニには何が見えてるの?」

「マリーちゃんいい質問だ。その祥太郎さんが最初に戦ったという、アルテス・ミラ人だ」

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

「……ショータローが奇声をあげたくなる気持ちもわかるわ」

「カリニさん、固まってますけど大丈夫でしょうか」


 カリニはまるでマネキンのように微動だにしない。あのうごめくおぞましい姿がリアルに迫ってきているかと思うと、かわいそうな気もしてくる。


「まぁでもほら、手ごろじゃん? シミュレーターで再現するのも簡単だったし。そんなに強くはねーし。ビビるし。どちみち俺らには見えねーし」

「確かにこのお仕事って、見たこともない人が来た時に、とっさに対応できるかって大切なんですよね。慣れもありますけど」

「ショータローはその点、いきなりのチャレンジで良くやったと思うわ」

「そーそー、あのくらいビシッと動けりゃ即戦力なんだけどなー」

「そ――そういえばさ、カリニはどうやって下の階まで落ちたんだ?」


 何故か自分が褒められる流れになっていることにむずがゆくなってしまい、祥太郎は急いで話題を変えた。


「倉庫にあった非常用の脱出シート借りてきた。貼り付けると壁も通り抜けられるようになるスグレもん。それを活用することを思いつくなんて、さっすが俺様。天才」

「へー。ニャンコ型ロボットがポケットから出しそうな道具だなー」

「ところでサイ。今さらだけれど、シミュレーターはもう使って大丈夫なの?」

「今はアパート周辺のエネルギーも安定してるし、ちゃんとマスターにも許可取ったし、だいじょぶだいじょうぶ! ね、マスター?」

「こういう使い方をするとは、一言も聞いていないがね」


 マスターは笑顔だったが、何とも言えない威圧感が漂ってくる。


「そ――それはほら、サプライズで! その方が楽しいじゃないっすか!?」

「脱出シートも勝手に持ち出したようだが、消耗品だからね。ちゃんとお給料から差し引いておくから」

「そんなー!」

「それからもう一つ。カリニ君は『ミュート』を外していないだろう? 能力を判断するには早計だと思うよ」

「そういえば……才さん、問答無用で落としちゃったから」

「本当、段取りめちゃくちゃだわ……あら? そういえば、何か忘れてるような」


 マリーがそう言った直後。

 開け放したままになっていたドアから、人影が飛び込んできた。


「こんにちはー! 勇気のユとティンカーベルのティ、わくわくまだまだ止まらない22才、召喚アイドルのユッティでーす☆ みんなのためにユッティ、しあわせを召喚☆ しちゃうZO☆」

「……」

「…………」

「………………」

「……………………」

「…………………………」

「し、失礼しましたっ!」


 沈黙に耐え切れなくなり、逃げるように去っていく召喚アイドルのユッティ。


「才君、やはり募集広告に『オーディション』という言葉を使ったのが良くなかったんじゃないかね」

「そ、そんなことないってマスター! 絶対あれを見て優秀な人材が……」

「ヘイヘーイ! ミーガキタヨ! ミーガキタヨ!」

「誰だよお前! 次の人!」

「理沙ー! オーディションはどうかなー? 上手くやれてるかなー?」

「テメエら、待たせたナ! ――あ、ギンギラギンのショウタロウさん、コンニチハ!」

「師匠とシロちゃん! また来たんですか!? っていうか師匠、召喚術使えないですよね?」

「うん、でも頑張ってる皆を応援したくて、差し入れ持ってきたんだよ。今日は駅前にあったケーキ屋で買ってきたんだ」

「お前らは何でそんなしょっちゅう来るんだ! ケーキだけ置いて帰れ!」

「才クンのいけずぅ……」

「リサのお師匠、ずいぶん図太くなったわよね。泣いてはいるけど」

「うわぁ、運命とか言った自分をぶん殴りたい……」


 次々登場する人物に、祥太郎は頭を抱えてもだえる。

 それを微笑ましく眺めていたマスターだったが、はっと顔を動かした。雨稜うりょうも、きょろきょろと周囲を見回している。


「どうしたんですか? 師匠。トイレですか?」

「ううん、違うんだ。ちょっと違和感があってね」

「お手洗いなら、ドアを出て右ですよ」

「いやいや理沙、言い方への違和感じゃないから。トイレから離れて欲しいんだけど」


 その時、ドンドンドンとドアがノックされた。一瞬、顔を見合わせた後、マスターが「どうぞ」とうながす。

 すると少しのためらいの後、ゆっくりと扉は開かれた。


「失礼します! すみません、遅くなってしまって……」


 現れたのは、マリーよりは年上だろうか。色白の肌に燃えるような赤い目が印象的な少女だった。同じく赤の髪は、急いでやって来たためか肌に少し張りつき、肩も上下している。


「また召喚アイドルのメンバーか?」

「アイドル……? ですか」


 才の言葉に、不思議そうな態度が返ってくる。

 彼女が着ているのは、青を基調とした修道着をドレスに仕立て直したような服だった。アイドルと言われればそのようにも見える。


「まあいいや。もう採用! 採用にしよーぜ! かわいいし」

「またサイはそういうことを言う……」

「だってもう疲れたし! 今までで一番礼儀正しいし、マリーちゃんも文句ないだろ?」

「ほんとですか!? 本当に、私なんかを採用してくださるんですか?」


 するとそれを聞いた少女の顔がぱっと輝き、詰め寄るようにして才を見た。それから一人一人に目を向け、何度も頭を下げる。


「私、グズで、どんくさいし、覚えも悪いし……ダメなとこいっぱいあるんですけど、本当に本当に頑張ります! 頑張って絶対、ルフェールディーズ魔術団のお役に立ちますから!」


 彼女が意気揚々と放った言葉に、一同は再び顔を見合わせた。

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