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ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~  作者: 森山たすく
第十二章 新人発掘オーディション
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新人発掘オーディション 2

「マリーちゃん、大正解! さすがー!」

「……そんなに上手く行くものかしら」


 手を叩き、一人で盛り上がるさいを、しかしマリーは少し冷めた目で見る。


「確かに召喚術なら『ゲート』とは別のルートで異世界に干渉して、もしかしたらより安全に、トーコだけを呼び戻せるかもしれない。でもさすがに、ピンポイントでっていうのは至難の技でしょう?」


 それは、彼女でなくても感じることだった。だが、才は首を左右に振る。


「そんなこと、俺も分かってるよ。だけどさ、何にもしないよりゃ、した方がいいじゃん? このまま指をくわえて待ってるだけよりさ。奇跡だって、自分から動いてこそつかみ取れるってもんだぜ? 宝くじも買わなきゃ当たんねーし、ナンパも声かけなきゃ成功するわけない!」

「最後の方の言葉、必要なくないか?」


 祥太郎しょうたろうは呆れたように笑い、それから頷いた。


「だけど、僕も賛成だな。やってみる価値はあると思う」

「あたしも賛成です! きっと上手く行きますよ!」


 理沙りさの明るい声と表情につられるように、マリーの表情も柔らかくなっていく。


「……そうよね、やってみて損はないものね。それに、あれほどの力を持つトーコなら、召喚もしやすいってこともあるかもしれないわ」


 それから皆の視線は、自然とマスターの方へと向かう。


「ああ、やってみようじゃないか」


 それには、力強い頷きが返ってきた。


 ◇


「それで、どうしてこの部屋なの?」


 珍しく細身で落ち着いた色のドレスを着たマリーが、あたりを見回して言う。


 あれから一週間ほど。


『よーし、明日オーディションするぞ!』


 何やら作業をしていることが多かった才から、晴れやかな顔でそう告げられたのは、昨日のことだった。それから面接会場となるという部屋を片づけるのを手伝わされ、今日も朝から準備をし、今は10時を回ったあたりだ。

 部屋の端の方に長テーブルが置かれ、壁に近い側にはパイプ椅子が五脚。それぞれにいつものメンバーと、マスターが座っている。

 テーブルを挟んだ向かい側、部屋の中央にもパイプ椅子が一脚置かれていた。


「もっとあるじゃない。どうせすぐ実技試験に移るんだし、ショータローの時みたいにカフェスペースでやるとか、せめて会議室にするとか」

「確かに……わざわざここまで来てもらうのって大変かも」


 理沙もそう言って頷く。

 『面接会場はこちら』と矢印を添えて書かれた紙を何枚も用意し、入口から、二階にあるこの部屋まで誘導するように配置してきた。

 他に空いているところはいくらでもあるのに、手間をかけてまで普段使っていない部屋にした理由も良く分からない。


「まー、それはこれからのお楽しみってことで!」


 しかし才はそれだけを言うと、PCをテーブルの上に出し、セッティングを始めた。


「それで、今日はオーディション――というか面接に、何人くる予定なんです?」


 祥太郎がマスターの方へ顔を向けると、彼はコーヒーをカップで飲みながら首をかしげる。


「さぁ」

「さぁ、ってマスター」

「才君に頼まれて広告は出したが、正直、どの程度の人に届くか分からないからね」

「そんないい加減なものなんですか!?」

「まあ、我々の場合はそんなものだね。異能省の中でもあまり表立って活動している部署でもないから。……それに、君がここに来た時にも話したように、『思い』というのは大事だからね」

「思い……ですか」

「祥太郎君も広告を見た時、怪しいと思っても来ただろう? 自分の力を試したい、仕事がしたい、収入が欲しい――理由は何だってかまわない。けれども、湧き上がる不信感を乗り越えられるだけの思いと行動力は必要だ。少なくとも、この仕事にはね」


 言って微笑み、彼はまたコーヒーを飲む。

 確かに、祥太郎には強い思いがあった。だからここまでやってきて、それから次々と驚くべき出来事に遭遇しても、何だかんだでこの場所にいる。


「それにね、いわゆる波長が合うとか合わないというのがあるだろう? 一般的にもよく使われる表現だが、能力者の場合、もっとそういったものに敏感になる。仕事ともなれば、性格とは別に、能力のウマが合うというのは大事なんだ。連携する必要もあるしね。だから『合わない』人達はここへは来ないか、早い段階で去っていく。ここへ来て、そしてある程度続けられているということは、大きな意味があるんだよ」

「そっか……何か、運命みたいな感じなんですね」


 そんな言葉が口からこぼれてしまい、恥ずかしさで目を逸らす。散々な目にも遭ったし、大変なことも実際多いが、結局今はこの職場が好きだった。

 顔を向けた先では、才がモニタを食い入るように見つめている。少しふざけた雰囲気で始まったが、そこは一緒に働いてもらう仲間を迎えるための面接だ。それだけ真剣なのだろう。

 そう思って興味をそそられ、背後から覗き込む――と、画面の上でうごめくモザイク。


「ん? 何だこれ」


 思わず口から出た言葉に、他の皆も集まってくる。

 四分割された画面上には、どうやら別々の場所が映っているらしい。左上、アパートのエントランスと思われる場所でモヤモヤと動いていたモザイクは、少し経つと見えなくなった。


「これ、人でしょうか?」

「そーそー」


 理沙の問いを受け、才はモニターを指差す。


「このエントランスから、こう――右に行って、左下に行って、右下はこの部屋の前な。参加者が来たら分かるようにしてあるわけだ。もし順路通りに来れずに迷ってたら、誘導してやる」

「サイ、こんな仕掛けをわざわざ作ってたの? 呆れた」

「だってさー、せっかくのオーディションだし、ここで会うまでどんな人物か分かんない方が、ワクワク感あるじゃん?」

「確かにワクワク感はあると思うけど、完全にこだわる部分を間違えてるような……」

「いや祥太郎、お前も男だったらワクワクにこだわんねーと!」

「でも才さん、こんなにモザイク濃かったら、お客さんかスタッフか、分かんなくなりません?」

「それは大丈夫! 顔認証システムにより、スタッフと新規さんは区別されるようになってるからな。ちなみにさっきの普通な感じのモザイクは、スタッフだ」

「すごーい!」

「無駄に高度な技術ね……」


 素直に称賛する理沙にも、褒めつつ呆れるマリーにも賛同できる気がして何も言えなくなった祥太郎は、ひとまずモニターへと視線を戻した。


「あっ、マンガの犯人みたいなの来た!」


 思わず大きく声をあげる。画面の左上へと新たに映り込んだのは、もはやモザイクではなく、黒いマネキンのような人影。それがキョロキョロとあたりを見回し、しばらくして画面外へと消える。


「本人の姿が全く分からないのね……背は割と高く見えるけれど、男の人かしら?」

「ちげーんだなぁ、マリーちゃん」


 才はちっちっち、と舌を鳴らしつつ指を振り、それからとびきりのドヤ顔を見せた。


「そこら辺はさー、瞬時に映像が加工されて、老若男女問わず同じ姿になるって仕掛けよ!」

「マジでマンガの犯人じゃん!」

「すごーい!」

「……負けたわ。確かにそのこだわりはすごいと思う」

「客人は、こちらに向かって来ているようだよ」


 それまで黙っていたマスターが、ぽつりと言う。

 モニターへと目を戻すと、すでに人影は二番目の画面を通過するところだった。


「えっ、どうしよう、どうやって迎えればいい? 僕は何すりゃいいの?」

「落ち着けって祥太郎。普段通りでいいから」

「でもサイ、わたしも段取りとか何にも聞いてないんだけど」

「祥太郎さんの時みたいに、実技も手伝うんですか? あたしは面接の時って、マスターとしか会わなかったんですよね。あとで皆さんに紹介されましたけど」

「あー」


 続けざまに質問を受け、才は頭をぽりぽりとかく。

 助けを求めるようにマスターを見ると、穏やかな笑みを浮かべたまま首を振られた。


「今回は君たちに任せているから」

「えーマジかぁ……マスター手伝ってくんないのか……。と――とにかく、何でもいいからそれっぽい質問してくれればいいから! んで、最終的には俺が何とかするからさ!」

「それっぽい質問ですか……難しいなぁ」

「無責任だなー」

「サイはいつも詰めが甘いんだから。さっきすごいって素直に褒めて損しちゃったわ」

「反省会はあとですっから! とにかく席に着いた着いた!」


 そうこうしているうちに、人影はモニターの右下までやって来ている。

 皆が急いで椅子に座り、姿勢を正した直後――がちゃり、とドアが開く音がした。

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