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きみが見た未来 2

「はぁ? いや、気づいたみたいねじゃなくって! なんて奴らを連れてきてんだよ! あれ! あれ! あの事件の首謀者だぞ! 侵略者だぞ!」


 (さい)が両手をぶんぶんと振り回しながらがなり立てると、表情を変えない遠子(とおこ)にかわって棒人間(ぼうにんげん)がしゅんとした。


「こんなにキュートなボクも残念ながら元、侵略者なんだッピ。もうしわけないッピ」

「ややこしくなるからお前は黙ってろ!」

「ひょえーっっ!! なんで投げるっピー!!」


 黒ドレスのカエル――レーナはぺこりと頭を下げて言う。


「それに関しては反省してるわ。本当にごめんなさい」

「ぼくからも謝るよ。この通りだ。……あ、そういえばベイビーもいっぱい生まれたんだ。立体映像見るかい?」

「そりゃおめで――いやいやいや見ねーから! とにかく遠子さん、どういうことなんだ?」

「……ぼくがアドバイスしたんだ。助けを求めるといいって」


 おずおずと話に割って入ってきたのはゼロだった。パーカーのフードの中には、先ほど放り投げられて飛んで行った棒人間が収まっている。


「うおっ、ゼロ! いたのかよ!?」

「うん。遠子たちと一緒にきたんだけど、少し遅れて到着したら、思ったより口を挟みにくい状況になっちゃって」

「あー、あの長ぇ階段のせいか? しんどいもんなー」

「まあ……そんなところ」


 彼はぽりぽりと頭をかいて少し恥ずかしそうに笑った。


「ぼくの予知でも祥太郎(しょうたろう)理沙(りさ)の行方はまだ掴めてない。でもいくつかのルートでカエルの二人が引っかかったから、その時一緒に登場した遠子に確認してみたんだ」

「才くんの気持ちもわかるけど、冷静に考えてみて。レーナさんたちは『ファントム』を利用して『ゲート』を開いたっていう実績があるのよ? 今の状況についても、何かわかることがあるかもしれないわ」

「騒がしいと思ったら……とんでもないのを連れてきたわね」


 そこへ作業を終えたマリーが戻ってくる。腕を組んでカエルたちを一瞥すると、大きくため息をついた。


「でも『ゲート』はトーコが壊しちゃったはずでしょう? あのあと、なんとか帰ってはこられたけれど」

「それならボクがまた、出入り口をあけたっピ!」


 棒人間がフードの中で立ち上がり、胸を張る。そしてそのままバランスを崩して地面に落っこちた。


「いてて……いちどボクのチカラであけたやつだからー、省エネであけられるっピ!」

「ボーニンゲンはまたそういうインチキみたいなことを……」

「祥太郎くんと理沙ちゃんがピンチだって聞いたからさ。贖罪になるかはわからないけど、ぼくたちも力になりたくて来たんだ」

「それに、わたしたちは遠子ちゃんにとても感謝してるの。恩返しもしたいから」

「わーったわーった! 今はカエルの手でも借りたい状況だからな。ゼロのお墨付きもあるなら頼むしかねーだろ」


 それから才は、静かに頭を下げる。


「二人を助けたいんだ。力を貸して欲しい」

「ええ、喜んで。今度こそみんなと、ちゃんとお友達になりたいわね」

「そしたらベイビーたちも連れて遊びにきたいね。……それで、今どういう状況か教えてくれるかな? ある程度のことは遠子さんから聞いたんだけど」

「それは私から説明しよう。二人ともご協力に感謝する」

「あらマスター。少し見ない間にずいぶん若返って」


 レーナが驚いたように言うと、マスターは微笑みを浮かべた。


「お陰様で。あなた方が色々とぶち壊してくれた結果、若返ることができたよ」

「ふふ、それは……どういたしまして?」


 一瞬ピリッとした空気は、説明を始めたマスターの声ですぐに和らぐ。二人のカエルは、黙ってうなずきながらそれを聞いていた。


「なるほどねぇ。まず、ぼくたちでも見てみよう。機械よりは直接確認したほうが早いから」


 話が終わると、ジュノとレーナは遠子の肩から降り、連れ立って『ゲート』へと向かう。体は小さいものの、凄まじいジャンプ力であっという間に近くまでたどり着き、荘厳な扉の片隅をぴょんぴょんと跳びながら覗き込んだ。


「あんまり不用意に近づくと危ないんじゃない?」


 レーナはマリーの忠告に軽くうなずく。


「ありがとう、でも大丈夫よ。危なそうだったらちゃんと逃げるから」

「これ、どこに繋がってるんだろうねぇ……なんにも見えないけど」

「むむむっ! カエル星人だけにいいカッコはさせないっピ!」


 棒人間もそう言って、『ゲート』まで急いで走った。


「……でも確かになんにも見えないっピ」

「肉眼? で分かるとか、俺らが必死で解析してるのがバカらしくなるな」

「そこは持って生まれたものもあるから仕方ないよ。ところでこの隙間っぽいの、頑張って埋めようとしてるみたいだけど、それやめた方がいいかもよ?」

「ジュノさん、それはどういうことだね?」


 マスターが反応すると、彼は同じ場所を覗き込んだままで答える。


「ここは『ゲート』がくっつき損ねたわけじゃなくて、何と言えばいいかな……『なり損ない』みたいな状態に見える」

「それは『ゲート』のなり損ないということだろうか?」

「おっしゃる通り。そもそも別の『ゲート』だからくっつかないんだろうし、無理にくっつけちゃったりしたら、二人が帰ってこられなくなるかもしれない」

「あいつらはその中から帰ってこれるのか!? 今、この先にいるのが分かるってことか!?」


 才が身を乗り出すとジュノは首を振った。


「残念ながらそこまではわからないな。見えないし、広さもかなりのものだろう。ただ、ここに吸い込まれたのだとしたら、中に留まっている可能性が高いと思う。どこかに繋がっているような気配もないから」

「『ゲート』のようだけど『ゲート』じゃない……停滞してる感じがするのよね」

「それくらいボクにもわかるっピ! どよーんとしてるっピ!」

「ここが少なくとも『ゲート』のような場所であるなら、転移能力者である私であれば様子を見に行けるのではないだろうか?」

「どうしても行きたいなら止めないけど、ミイラ取りがミイラってやつになるかな」


 エレナの問いにも、良い反応は返ってこない。絶望感に、あたりの空気が重くなった。レーナが小さく息をついてから言う。


「もう少し色々考えてみましょ。わたしたちも今の肉体になじんできちゃってるから、エネルギー体になって中へ向かうというのも難しいわね。以前は服を脱ぎ着するみたいに簡単だったんだけど」

「そういう制限も肉体の魅力だけどね。それにエネルギー体になれたからって無事に二人を見つけられるかどうかはわからないな。迷子になってしまいそうだし」

「それはそうね。わたしたちが地球にやってきた時も、本国との『ゲート』を開いた時も、目印があったようなものだから……棒人間ちゃんならどう? 行けるんじゃない?」


 話を振られ、棒人間はふるふると首を振った。


「ボクも入っちゃったら、出てこれるかわからないっピ……」

「くそっ! 全然ダメじゃねーか! こうなったら俺らで一から調べ直して――」


 才の言葉には力がこもらない。ジュノに指摘されるまでこれが別の『ゲート』であるという考えすら出てこなかったのだ。それに、吸い込まれた二人の命を思うとこれ以上の時間はかけられない。


「そうか、目印か。目印……」


 ジュノはその間もぶつぶつとつぶやきながら思考を巡らせていた。


「向こうから見える――というのは望み薄か。何か二人の出す波長と合うものがあれば、共鳴してこっちから居場所がつかめるようになるかもしれないな」

「ジュノさん、その波長が合うっていうものは、例えばどんなもの?」


 遠子が尋ねると、彼は振り返って言う。


「そうだなぁ。例えば体の一部とか、大事に身に着けていたものの欠片とか?」

「髪の毛なら二人の部屋行って集めてくれば行けるんじゃねーか?」

「うーん、でも抜け落ちて時間が経った髪の毛は抜け殻みたいなものだからなぁ。執着もないだろうし。切り離したての尻尾とかだったらイキが良くていいんだけど」

「無茶言うなよ! じゃあ、スマホとか『コンダクター』――は持ってねーか」

氷雨(ひさめ)くんの説が正しいならば、現在の二人の服装は儀式のときのままということになるね。実際彼らは服ごといなくなっているし、荷物は『アパート』に残されている。あのとき他に持っていたものと言えば――」

「この、香袋やね」


 マスターの言葉を引き継ぐようにし、友里亜(ゆりあ)が小さな巾着袋を指先で揺らして見せる。


「今回の儀式のため、うちが特別に作って魔力をたっぷり込めた品や。どっかで落っことしてなければ、二人とも同じもんを持ったままのはず」

「ちょっと見せてくれるかな?」


 受け取った袋を、ジュノはまじまじと見つめる。


「うん、いいかも。じゃあこれを、こうして……」


 しばらく両手で揉むようにしていると、やがて袋は白く発光し、浮き上がり始めた。

 ある程度の高さまで上がった瞬間、弾丸のように飛び、『ゲート』の一角に吸い込まれるようにして消える。


「ちょっとこのコード一本借りるね」


 それからジュノは『ゲート』のデータを取るために周囲へと張り巡らされていたコードを一本引き抜き、口に咥えた。


「うぉっ!」


 それと同時にモニターを見ていた才が短く声を上げる。画面が急に真っ暗になったからだ。


「ほわれふぁわふぇひゃないははあんひんひふぇ」

「『壊れたわけじゃないから安心して』って言ってるわ」


 コードを咥えたままのため、不明瞭なジュノの言葉をレーナが通訳する。


「ぼふもみへいるものをきょーゆーしたんま」

「『ぼくの見ているものを共有したんだ』って言ってるわ」

「いや、お前らやっぱおかしいわ」


 呆れたように言う才だったが、その言葉には畏敬の念もこもっていた。他の皆も、急いでモニターの前へと集まる。

 ただの暗闇だと思っていたその場所も、目が慣れてくると濃淡があるような気がした。その中を、白く小さな光が漂うように移動していく。


「この光ってるんが、うちの香袋?」

「ほうだよ」

「『そうだよ』って言ってるわ」

「いや、それくらいわかるで」


 友里亜は少し笑ってから、もう一度モニターをじっと見た。光る香袋が通ったあとは、白く軌跡が残っている。


「光の糸のようだね」


 エレナがぽつりと言う。

 

「私たちと二人をつなぐ、希望の糸だ」

 

 それは皆に見守られながら、ゆっくり、ゆっくりと伸びて行った。

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