工学部機械科4年のボクが大学4年間で使用したテキストをもって異世界転生
「今から、燃焼器稼働試験を行います。大規模な衝撃音が発生しますので
周囲の方はご注意ください。」
雪原に無意味な警告が吸い込まれていく。
「カウントダウン3 で駆動弁の開放、カウントダウン0 で点火機を作動させます。」
ボク一人で実験手順書を読み上げ、スイッチ操作のデモンストレーションをする。
「5...4...3...カチッ」
駆動弁を開放する。
「2...1...0...カチッ」
点火機を作動させる。
燃料の供給を停止するか、熱電対が耐熱限界以上の温度を検知するまでは
燃焼器は稼働を続ける。
「ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」
爆轟に伴う爆音は、だだっ広い雪原でも吸いきれない。ここまでうるさいとは、
普段はチャンバールームで区画を締め切って実験を行っていたから気づかなかった。
ロケットエンジンの一種だから当然と言えばそうだが。
オシロスコープを確認するが燃焼室壁温は許容範囲内だし、冷却水の温度も想定内だ。
フー、少し気が楽になった。ボクが設計したシステムはしっかり動いてくれている。
この時点で1分経っているから、燃焼器は熱的に定常状態になっているはずである。
あと2分経てば試験は無事終了となる。後は持ち帰ったデータをまとめるだけだ。
まあ、データをまとめる作業が一番大変なのだが。
もうすぐ試験終了だ。なんだかあっけない。8か月コイツの事ばかり考えてきた、
いや暇が無かった、
院試は不合格だし就職先も未定だ。
どうせ試験場にはボクしかいないのだからもう少し長く稼働させてもいいだろう。
白い雪原と青い火炎をこの爆音の中でもう少し見ていたい。それに後2分稼働させれば、
ロシアの先生がもつ世界記録を抜ける。研究上は何の意味も無いし、後で怒られるだろうが、
これぐらいいいじゃないか。一つくらい誇れるものが欲しい。
4分.............5分、やった。これでボクが長秒稼働試験世界記録を持つ人間だ!
「ボスンッ」
燃焼器が不穏な音を立てる。
「パンッ」
短い衝撃音と共に燃焼器が破裂した。破片が飛んできている。
とがった破片が目についた。
あれがあの速度で体にぶつかったら大怪我だな。
あれ?こっちに飛んできてるな、あれ?よけられなくね?
あれ?やけにゆっくりだな? あれ?これってもしかして死ぬ前に時間が
「グサッ」
ボクは死んでしまった。