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悪夢と現実を同時に

鏡がある。そこに映る髪と素肌は白く頭にツノがあり背中には一対の羽があった。思考が追いつかない。目の前にあるこれは一体なんなの?私の顔をしたなにかが異様な姿で立っている。恐る恐る私みたいなもののツノや羽に触れてみる。感触がある。幻覚ではない。じゃあこの状況はなに?現実ということ?もしかしてあのセトロが体内に入ったからこうなった?しかし周りにはあのセトロの体の一部のようなものが落ちてる。もうわけがわからない………。これはどういこうとなの…。

ガシャン!

「ここら辺で通報があったんだよな?」

「ああ。相手は頭のネジが飛んだ人間だ。もしもの時は殺るぞ。」

「あぁわかってる。だが通報から5分は経ってるからもう逃げた後なんじゃないか?」

コクターだ。コクターが来てくれた。今のこの状況、セトロが体内に入ったかもしれない私を助けてくれるかもしれない。声のする方に向かって歩き出す。

「足音がしたぞ!まだいる!」

「待て!通報者かもしれない。えー、いるのなら出てきてください。助けに来ましたよ。」

言われた通りに声の主の前に出る。

「ぇ………………………と………………」

「セトロだ!警報は出てなかったぞ!一体どうやって中に入った!」

「ま、待ってください!助けてください!みんなセトロに襲われて………そ、そうだ!そのセトロは人を操っていて私もそのセトロにー」

「嘘ならもっとマシなものをつくんだな。そんな姿で騙せると思ったのか?」

「ち、違う!違うの私も襲われて……それで気がついたらこんな姿に……」

バン!

「おい、殺すなよ?結界をどうすり抜けて来たかを聞き出さなきゃいけない。」

「まぁ善処しますよーと。」

口から何かが漏れる。血?私は撃たれたの?どうして?

「俺が足を切断して動きを封じる。お前は銃で俺のカバーをしろ。」

「オーケー。射線上でちょこまか動くなよ?」

こちらに向かって1人が走ってくる。殺される。殺される!そう理解する前から私の足は登って来た階段へ走り出していた。

「逃すか!」

何か聴こえる。でも構ってる暇はない!逃げなきゃ殺される!階段を一直線に降りとにかく建物の出口に向かう。出口に着くまでにはいくつかの塊がある。見たことがあるような服装をした物体もある。でも思考が追いつかない。建物を出て呆然と立ち尽くす。そこには武器を構えた3人組とたくさんの人がいた。

「中から出て来たぞ!」

「お、おい!セトロじゃないか!?あれ!」

「すげ!セトロ初めて見た!」

集団の中に慌てふためき逃げる者と私に携帯を構える者がいる。そして目の前には杖を私向ける者、ヌンチャクを振り回す者、鎌を構える者もいる。

「俺たちは時間稼ぎが仕事だ!あの2人が来るまで持ちこたえるぞ!」

「「わかっている!」」

鎌持った人が私に向かって来る。恐怖で私は動けない。

「待て!」

今度は後ろから声がする。

「そいつは殺すな。生け捕りにする。」

先程の二人組が出て来た。あぁ………もうダメだ……。

ブゥゥゥゥゥゥ!!!

突如サイレンが鳴る。思わず身構えるがこのサイレンは私に向けたものなのだろう。

「なっ、クソ!こんな時に別のセトロが現れたのか……!お前ら!俺とレフはディフェンスエリアに向かう!お前たち3人でそいつを囲んでおけ!無理に戦わなくてもいいが決して逃すな!」

「タイミングいいなホント。そいつ雑魚だろうからお前たちでも余裕だと思うぞ!」

剣と銃を持った2人組が私を置いてどこかへ行く。残されたのは武器を構えた3人と携帯を構えた大勢の人たち。3人は私の周りを囲うようにそれぞれ動き出す。

「生け捕りにするって言ってたがどうするんだ?」

「とりあえず危害を加えるようなことしたら倒すだけだ。」

「今奴はおとなしいが大丈夫か……?」

少し時間ができる。その間で幾らか整理はできる。

今この状況、私の中にセトロがいるかもしれない。そして皆はそいつに殺された。私の中にもいるなら私ももう死んでるんじゃないのか?いやそんなはずはない!私は生きている!手足は動くしさっきは口から血も出た!……え?口から血が出た?

そこでようやく気づく。私の胸に小さな穴がある。そこから血が出ている。

あ………そういえば私……銃で撃たれていた……。でも今痛みは………!ああ!!そんな!私はもう!

「こいつ!急にうずくまったぞ!」

「気をつけろ!何かして来るかもしれない!」

自分が死んでいるであろうことは理解した。でもだからといってコクターに捕まってホントに死ぬのは嫌だ!怖い…….怖い!怖い!逃げなきゃ!逃げなきゃいけない!

立ち上がり正面の携帯を構えた人達の方へ走り出す。

「そっち行ったぞ!」

「おい!写真なんか撮ってないで速く逃げろ!」

人混みに突っ込む。この中に入れば下手に攻撃できないはずだから……だからその中を突っ切ってどこかに隠れる!

「こいつ!速いぞ!逃げられる前に撃て!」

「フレイム!」

「ウグゥ………!」

熱い!熱い!熱い!だけど……逃げなきゃ!

人混みの中に入ろうとすると人はもみくちゃになりながら左右に散る。そのまま走り抜ける。

「おい効いてないぞ!威力を上げろ!」

「ダメだ!これ以上威力をあげたら巻き込む!」

走り抜けた先の交差点を曲がり路地裏へ入る。

「待て!待て!」



おそらく逃げ切れた。途中で隠れたのは正解だった。

………私の今のこの状況は夢なの?痛みもあまり感じないし夢を見ているのかもしれない。第一私がセトロだなんておかしい。………夢から覚めよう。

夢から覚めるには内容が続かなくすればいい。自殺すれば夢は覚める。………もし夢じゃなかったら死ぬ。でもコクターに生け捕りにされるよりはマシかもしれない。死ぬのは怖い。でも今の状況はもっと怖い。覚悟を決めながら近くの建物の屋上へ向かう。

あ……9階から真下を見るとこんなに怖いんだな…。でも……でも……!

ドン!

はは………。もうダメだ…。これは現実なんだ………。体中に痛みを感じながら起き上がる。左足は異常な方向に曲がっており、右足はもはやない。それでも私は生きている。

パキポキパキパキ

足が私の意思とは別に動き出す。左足が正しい方向へ向こうとし、右足はどこからともなく集まってきた血や骨が固まっていく。人間じゃない。足が元に戻り、ふらふらと立ち上がり現実を再確認しに行く。


ゴミ捨て場にあったブルーシートを頭から被り廃ビルへ向かう。私以外にもこうなったのがいるかもしれない。人間に戻る手がかりがあそこにはあるかもしれない。そう淡い希望を持ちながら歩く。

ビルの前に来たがもう誰もいない。時計台を見ると午前2時を指している。周囲に人がいないのを再確認しビルの中へ入る。するとまず目に入ったのは2つの死体だ。あまり原形をとどめていないが服から察するにスピカとメアリーだ。2人は死んでしまった。アレックスもバスの中で死んだだろうしジョンも私の前で爆発した。じゃあケンもおそらく殺されたんだろう。………私が殺したかもしれない。あの時痛みと寒さを感じた後のことは覚えていないし気を失っていた。そして目が覚めると周りは血だらけ。私がやったのかもしれない。そう考えても怖くなかった。もう何が怖いかわからない。階段を上がり以前の私が持っていたカバンを拾う。ライフエリアから出よう。私がセトロならここに居てはいけない。血まみれの足を引きずるようにして歩き出した。


ライフエリアとディフェンスエリアを隔てる壁の前まで来た。壁の高さは7メートルと習った。とてもじゃないけど登れはしない。検問所を走り抜けるしかない。

「あ、待ちなさい君!」

当たり前だが壁を見守るコクターに見つかってしまった。

「ここで何してるの?というかブルーシートを被るだなんて何考えてるの?」

そのまま喋ったところで殺される。やっぱり逃げるしかない。

「わっ!な、何をする!」

持ってるブルーシートを投げつけて走り出す。検問所を抜ければディフェンスエリアだ。ディフェンスエリアのコクターはところどころの拠点にしか居ない。なら逃げ切れる。走る。走る。ただひたすらにひたすらに。


もう30分は走った。でも私は疲れていない。その現実がまた私を苦しめる。走るのをやめて歩き出す。

ポジティブになろう。この翼を使えば空を飛べるかもしれない。自力で空を飛ぶなんて人間にはできないことだ。人間には………。

最初翼の動かし方が一切わからなかった。元々は存在しない体の一部。どこをどうすればいいのかなんて一切わからなかったが背中に力を入れれば少し動かせるようになった。空はまだまだ飛べないだろう。けれどそのうち飛べるようになるかもしれない。…………私は人間じゃない。セトロだ。セトロとして生きなきゃいけない。胸が痛い。まだ頭の中でこれは夢かもしれないなんて考えてしまう。でもこの体は痛む。痛んでしまう。涙が出ていた。これからが怖くて怖くて怖くて怖くてしかたがない。二度と戻らないであろう人間の生活圏を背に、私は怪物の住処に足を踏み入れた。

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