5話
「これ、星の元を作る機械ね。ほら、あの四角形のやつ。右に扉が見えるでしょ? あれに“入る”んだ。ほら、おじさんが来たよ」
見ると、コンベアー担当だった男が虚ろな瞳で扉を開けて中に入って行く。
一層、けたたましく動く機械。そして、聞こえる呻き声と何かが潰れる音。
それと共に、真っ赤な煙を噴き出す。
これは、血液……?
「あーー、引くよね。そう、星の元は要らない人間なんだよ。
仕組みは分からないけど、生命エネルギーを変換してどーにかしてるとか。可哀想だけどルール違反だし仕方ないよ。おじさんの家族も、もう居なくなったし。でもさ、元ニートが輝いて人々に夢を与えられるなんて、素敵だろ?」
……可哀想、なのか。……何が正しくて何が。
「ほらほら、おじさんが四角形になって出てくるよ! 早くボタンを押しに行かなくちゃ! 本当は明日からの業務だけど引き継ぎって事で、家族の為に頑張ったおじさん最後の有終の美を飾らせてあげて!」
班長は満面の笑みで俺を機械の下へと引っ張って行く。
何だこれは? 要らない人間? 星の元?
こんな物を、人々は見上げていたのか。狂ってる。
「はい、急がないと。ほら、ボーッとしてないで、いつもの様にロボロボしながらボタン押しなよー」
何が“天職かもしれない”だ。
俺は、何をしていたんだ。何を非道な作業に没頭していたのか。
何が、ボタンを押す“丁度のタイミング”だ。
「……早く押せよ。お前も星にするぞ」
いつも笑顔の班長が、初めて表情の失せた顔で迫る。
……そうか、此処に居る奴等は狂ってるのか。俺も、狂っていたのか。
震える指で、青いスイッチを押す。
――始まるカウント。 10 、 9 、 8 、 7 、
――人が、形を星へと変える。 6 、 5 、 4 、
――やはり俺は星が好きじゃない。 3 、 2 、 1 、
吐きそうになりながら、赤いスイッチを押す。
「待て! まだ0秒になってない! 早い!」
そう叫ぶ班長の言葉はすり抜け、デジタルの表示は1のまま、俺の指は赤いスイッチを押していた。
轟く、肉の引き裂かれる異音。
「あーー、やっちゃった。
あれさ、まだ意識あるんだよ。滅茶苦茶痛かったと思うぞ。お前、罰として今月減給な」
呆然と空を仰ぐと、其処には真っ白な天井。窓も無い此処は、真っ赤な肉の星は見えない。何れ、俺も星になるのだろうか。
あそこから此処は、何と見えるのだろうか。
「歪で真っ赤な星になるぞ、あれ。夜空の雰囲気台無しだよ、まったく」
些細なミスを指摘するかの様に、班長は文句を言いながら去って行った。
人の価値とは、星の価値とは、
当初言われた『疑問等要らない』と云う言葉を思い返しながら、俺は赤い扉を開けた。




