2話
部屋に入ると、これまた真っ白な世界。白いテーブルに白いパイプ椅子が数個。壁にある本棚も、中に納められた本迄もが真っ白だ。
昔、何処かの宗教でこんなのあったなぁ……。
「宗教ではないよ。はい、そこに座って」
見透かされる程に辺りを奇異の目で見ていたのを悟ったのか、狼狽えてしまう。
「うん、変だよね。白。これね、どっかの偉い先生がデザインしたんだ。個性までも白で塗り潰し、ひたすらに業務に従事させる為だってさ。ほら、これ君の作業着。これも真っ白。人間までは白にはならないのにね」
この人は、表情が変わらない。
「粗方の事は事前に通告してあると思うけど、改めて説明するね。ちょっと長いけど、説明はこれだけだから聞いてね。
まず、退職する際は一ヶ月前に報告。これは法律でも定められていて、守らないと執行部が強制的に君を拘束する事になる。人権も何も無くなるから、気を付けてね。それから、仕事中は私語厳禁。無駄話してるの分かったら減給。酷い場合は、キツーイ部署へ配置換えね。あと、業務内容は絶対に外部へ洩らさない事。これは家族でも他人でも厳禁。機密性の高い業務で国家運営にも関わるから、その時は良くて牢屋行き。最悪、命が無くなるよ」
やはり、普通の職場ではないのか。
外界から遮断された人間を遣うのだから、仕方が無いのかもしれない。ルールさえ守れば、全うな生活を送れる様だし、これくらい受け入れる事は容易い。
「それで肝心の業務内容だけど、君は成形と打ち上げね」
成形? 打ち上げ?
無表情で淡々と説明する彼は、俺の疑問を抱く表情を汲み取ったのか、溜め息混じりに続ける。
「特に何も考えなくて良いよ。疑問も思考も要らない。ただ、与えられた業務をこなせば良いから。成形と打ち上げ。返事はハイ以外も要らないから。じゃあ、今から着替えて。着替えてる間に班長を呼んでくるから、後の事は彼に教えて貰ってね」
――真っ白な作業着は、その色とは裏腹に強烈な鉄の臭いがした。それが、この白の世界が労働を為す工場なのだと実感させる。
まるで白装束の様だな……そうぼやいていると、先程の人とは別の男がやってきた。
「どうも、班長です! あの人は用があるらしくて後はボクが任されたから、ジャンジャン任せてよ!」
あの無機質な表情とは打って変わり、こちらは笑顔だ。
常に笑顔なのか、この班長と名乗る男の顔には笑い皺が刻まれている。
「んじゃ、ついてきて新人くん!」
部屋を出ると、またも真っ白な長靴を履き、足早に進む班長の後を追う。
「いや驚いたでしょー。あの説明、普通の人からしたら恐いよね。執行部とか牢屋とか命がとかー。俺達だって普通の人間なのにさ」
飄々と語る彼に、この場所で初めて温度を感じる事ができた。どちらが、何が普通なのだろうか。そんな退屈な疑問を抱いていると、目的の場所へ到着したのか班長が振り向き手招きをしている。




