1話
――西暦20XX年。
増加する職に就かない者達に働く場を与える法案が生まれた。平均的な賃金・勤務時間・休日の工場勤務だ。
別段、身体に不自由が無い者……つまりは、唯の“ニート”である者が従事する。
……細かい説明は省くけれど、まあ、この俺もその工場に勤務する事が決まった。
勤務するにあたって、この制度には条件が二つある。
ひとつは、辞めたい時は必ず申請して辞める事。進退は自由でペナルティも無い。強制ではなく、あくまで“場を提供してくれる”だけだからだ。もうひとつは、業務に関しては絶対に情報を外部へ洩らさない事。反した場合は、国家反逆罪となる。
……進退に関しては、いくら引き籠っていた俺でも大丈夫だろう。こんな駄目な俺でも使ってくれるのだ。ある程度の環境ならやっていけると思う。
そもそも、俺が引き籠った原因は離婚だった。
元嫁の実家は大手の企業で、大概の会社に息が掛かっていた。
働きたくとも、何処も受け入れてくれなかったが故の、無職。引き籠り。
業務の機密事項に関しても問題無い。なんせ、引き籠り歴は5年になる。お陰様で、話せる様な相手は居ない。
国家反逆罪等と云う浮世離れした言葉とは無縁だ。
ひとつ疑問なのは、何の工場でどんな業務なのか。
そうこう考えている間に、件の工場へと着いてしまった。煙突も窓も無い、真っ白な四角形の建物。あるのは小さな扉と、その横に掲げる≪キラキラ工場≫の看板のみ。
なんて幼稚な名称だろうか。層の低そうな物ならば、扱いもそういった物か。普通の職場ではないのだろう。
俺は、自身の立場を少し理解しつつ、その小さな扉に手を掛ける。
キィ、と弱々しい金属の擦れる音を立てて扉を開くと、其処には建物と同じ様な真っ白のパイプが縦横無尽に張り巡らされていた。
天井も床も真っ白。勤務している人々の影が目に入るが、彼等の格好も真っ白な作業着に包まれている。
あまりの白の世界に呆然としていると、一人の作業員が此方に気付いたのか小走りでやってきた。
「あー、新人さんだよね? 社会復帰おめでとう。早速だけど、事務所で此処の説明をするから」
久し振りの仕事で、しかもこんな見慣れぬ空間……そんな中で生まれる緊張を解すのに、彼は丁度良い事務的な振る舞いだった。
「はい、ここの部屋に入って。あ、靴はそこの下駄箱ね。君は……3番って書かれた所ね」
実に5年ぶり。久々に履いた革靴と此処でお別れか。以前は商社で営業だったのだが、これからは工場での作業員か。
見下している訳ではないが、少しだけ社会への喪失感を覚えた。




