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7 犯人捜し

「ノールズさん、犯人はあなたに違いないわ!」


 朝のホームルームを前にして、商人の娘がそんな言葉を口にしていた。彼女の名前はウェストポイントさんだったっけ……と、そういえば先日も彼女はマリアに詰め寄っていたのをリチャードは思い出す。


「刑事さんと先生たちの話では、事件の現場は完全な密室事件だったというわ! そんな摩訶不思議な事が出来るのは魔法以外に考えられないものッ。そしてこの学校には王都(カディフ)出身で魔法の遣えるノールズさんがいる」


 だから犯人はあなたに違いない、というのがウェストポイント嬢が言う論法だった。いくら子供の考える根拠のない論法にしても、稚拙(ちせつ)すぎるのではないか。


「いくらなんでも屁理屈だろ……」


 ファルミア市議長逮捕で王統派と共和派が政争を激化させているのは寄宿学校の生徒たちも知っている事だ。けれどもここは共和派が大多数を占めるファルミアの学校。

「本当ね、ウチはああいうのは嫌いだわ。マリアさんが、自分の立場をまずいものにしてしまうなんてありえない。魔法遣いにしたって、探せばマリアさん以外にも魔法を遣える人はいるはずだし」

 狐耳をマリアたちに向けたまま、ジェイクも同意した。

 そして問題のマリアはといえば。


「科学は万能よ! いくらあなたが魔法を使って悪事を働いたところで、今に科学捜査によってノールズさんが犯人である事があばかれるの」


 詰め寄られているというのに堂々としたもので、難癖を主導していたウェストポイント嬢に冷たい一瞥をくれてそれ以上の暴論を封殺してしまった。


「な、何よノールズさん」

「……フフン」

「何か言いたい事があるなら言いなさい! 弁明もしないなんて、ノールズさんにやましい事があるからに違いないんだわ」


 それに落ち着き払ったマリアが言い放つ。


「何と思うかは各個人の勝手ですもの、どうぞご自由に」

「な、な、な、なんですって!?」


 共和派かぶれの代表格、ウェストポイント嬢は激昂(げっこう)して頭から蒸気をまき散らすわ、生徒たちも唾を飛ばして批判を口にするわ。


「……あなたはまるで蒸気機関車ですわね」


 見ていたリチャードはこう思った。否定をしないどころか火に油を注ぎやがった、と。


 放課後。

 リチャードはジェイクと一緒に、自習のために図書室へ向かうマリアを廊下で呼びとめた。

 少しぶっきらぼうな感じで切り出す。


「さっきは何で反論しなかったんだよ」

「さっきの事って?」

「休み時間に、ウェストポイントさんから変な言いがかりされてた件だ。その、魔法遣いの仕業だって言われてお前、反論しなかっただろ……」

「その必要も感じられませんでしたし」

「必要を感じないって……だって、あいつらはお前のことを犯人呼ばわりしたんだぞ!」

「確かにそうですわね」

「それで何ともないのかよ!?」


 うまく言葉が思いつかない彼は、少しばかり問い詰めるような口調になってしまう。

 それに自分が犯人と疑われているにも関わらず、これだけ落ち着いていられるのもリチャードからすれば信じられない。他人事ながら納得がいかないのだ。


「別に何とも思いませんもの。改めて言いますが、何と思うかは各個人の勝手ですわ。それとも、あなたも理科実験室爆破事件の犯人をわたくしだと思っているのかしら?」

「そんな訳ないだろっ。俺はお前のことを心配してだな……」


 反論しようとするものの、昼間にも見せた冷たい一瞥をマリアから向けられてリチャードの言葉は尻すぼみになってしまった。


「まあまあリチャード、落ち着きなさい! マリアさんはこの程度の事、何とも思っていないのよ。さすが王侯貴族の淑女(しゅくじょ)さまといったところかしらね、ウチが犯人扱いされたら激昂していたわ!!」


 先ほどまで黙っていたジェイクがそんな風に切り出して、間に入った。


「ウチとマリアさんはお友達よね!」

「わたくしは別に……」

「マリアさんが何と思っていても、ウチらはマリアさんの事をお友達だと思っているわ? ほらリチャード、あんたもそうよね!」

「お、応っ」

「そんなウチらの大切な友達がクラスメイトにあらぬ疑いをかけられているのは、個人的にすんごく許せないわけ! そうよねリチャード?」

「そ、そうだな」

「だから、ウチらで真犯人を突き止めましょう!」


 リチャードに同意を求めながら、ジェイクが言い放った。


「それで具体的にどうするんだ……」

「もちろん、現場検証を行うのよ。“百聞は一見にしかず(シーンイズブリーディング)”っていうでしょ!」


 ジェイクはピシリと指を立てると、言葉をつづけた。


「昼休みに聞いたんだけど、今は王立警視庁(ハイランドヤード)の刑事さんや鑑識が集まって、何か遺留品や破壊された室内の科学検証をやってるらしいわ!」

「詳しいな……」

「そりゃウチは口下手なリチャードと違って? ウチはとっても社交的だし? それくらいの情報は簡単にウチのもとに集まってくるのよ!」

「ああそうかい」

「ヘヘンっ」


 などと得意げにリチャードが耳をうごめかしてみせた。


「だから現場を見に行くなら今夜よ。夜の自由時間になったら集合しましょ」

「ああ、俺は構わないけど」


 リチャードもうなずき返す。商家の娘ウェストポイントをはじめ、クラスメイトたちのマリアに対する態度と物言いは、彼としてもいいかげん腹の立つものだった。

 けれども問題は当人のマリアだ。


「どうなんだマリア」

「わ、わたくしは別にそんな事をしてくださらなくても――」


 結構ですか困りませんわわとでも続けようとしたのだろう。けれどマリアの言葉へ被せるようにしてジェイクが言葉を重ねた。


「ね、マリアさん! 一緒に協力して真犯人を見つけましょう!!」

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