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4 貴族と市民、王党派と共和派

「さあ、お昼ごはんにしましょ。大地に数多(あまた)の恵みをもたらす精霊さまに感謝して、今日も美味しくいただきます!」

「いただきます」

「父と子と精霊のみ名において……」


 三者三様の食事のあいさつを口にして、それぞれスプーンを口に運び始める。

 そうして当然の様に会話の火口を切ったのはジェイクだった。


「前からずっと気になっていたことがあったのよね」

「何だよ唐突に」

「マリアさんって、食事も休憩時間もいつも独りだけどどうしてなの」

「…………」


 そんなジェイクの質問にマリアは言葉がない。


「ジェイクお前は本当に唐突だな……」

「何よ。仲良くするためには、友達の事を知ろうって思うのは自然な事じゃない」

「そうだけどさ、物事ってのは順序もあるし、プライベートに踏み込むようなまねはよくないだろ」

「そんな事言ってるから、あんたはいつまでたっても口下手なのよ。ねえ、マリアさんっ」


 こんな具合である。


「わたくしは王都(カディフ)出身の貴族ですから」


 静かに食事を続けながらふたりのやり取りに注目していたマリアは、最後にまた自分に会話のボールが飛んできたところで意を決して、ひとことだけ口にした。

 リチャードとジェイクは黙り込んでしまう。


 王都出身という言葉には意味があった。

 たびたび触れた産業革命によって、かつて学問の王道だった魔法学も今や劣性に追い込まれている。

 魔法が遣える人間の能力は、これまでの学説によれば遺伝によるものが主流だとされてきた。

 リンケイシアの歴史を作り上げた実力者たちにも多くの魔法遣いたちが存在していた。

 それゆえ、魔法が遣える人間は代々魔法遣いとして素養のあるものと、それを保護独占してきた貴族のものとされてきたのだ。

 使い手を選び、何年にもわたって実践と研究を繰り返さないと身に着けることが出来ない魔法学を、一般のリンケイシア国民が学ぶことは難しい。


 今でも伝統を重んじている王都の王侯貴族の子弟たちの教育では魔法学を重視していた。

 マリアが口にした「わたくしは王都出身」という言葉の裏には「ファルミア市民とは違う」という意味合いがあったのだろうか。


 しばらく無言でスプーンをかちゃかちゃと動かしていた三人だったけれど、沈黙はリチャードの言葉でやぶられる。


「……それは、俺たち下流の市民とは違うって事か?」

「ちょっとリチャード、あんた何言い出すの!」

「…………」

「謝りなさいよリチャード! そんな事いって、あんた友達なくすわよ? ねえマリアさんもこのソバカス面の言葉なんか気にしないでいいんだからね!」


 慌ててジェイクは声を荒げるけれど、ソバカス面をむっつりさせたままリチャードはそれ以上の言葉を口にしない。

 対してマリアも、ジェイクが口を開いた瞬間だけは動かしていたスプーンと静止させていたけれど、また沈黙に支配されてしまうとうつむいたまま食事を再開して言葉を返すことはなかった。


 三人は気まずい雰囲気を引きずったまま、残りの食事時間を静かに過ごすのだった。

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