11 機械仕掛けの蒸気ロイド 後
廊下に出た三人は、ずいずいと歩き出した蒸気ロイドに取り付いて逃げるのを妨害する。
けれども右腕のひとふりでマリアを振りほどき、左手のもうひとふりでジェイクを突き飛ばす。狐娘は耳を倒して「キャン」と悲鳴を上げた。
リチャードはというと必死で胴体に飛びついていたけれど、蒸気ロイドはそのまま彼を引きずるようにしてずいずい進み、歩みを止める事はなかった。
顔はマリアそのもので背格好も似せてはいたけれど、これは魔法回路と蒸気機関で動く剛力の機械人形なのである。
そのままリチャードを引きずりながら蒸気ロイドは徐々に加速していく。
「このやろ、ちきしょう」
哀れにリチャードは踏ん張りながら声を上げるけれど、機械人形は蒸気機関車のごとく力強く駆け抜けるのである。
「マリアさんどうしよう!」
「そうですわね、魔法回路にある魔法陣に描かれた術式をいじればあるいは!」
「ここからでも出来る!?」
「やってみますわ!!」
背後からそんな声が追いかけてくる。
けれどもリチャードはリチャードで必死に蒸気ロイドに張り付かなければならない。マリアの術式とやらが失敗したときのためにも。
「くっそ、止まりやがれ!」
そうして腕に力を入れ直しながらリチャードがひと吠えした直後、マリアの声がした。
「もう大丈夫ですリチャード、回路に介入しました。これで蒸気ロイドの回路が暴走しています!」
「えっ!?」
「手を放して!!」
言われた瞬間、急いでリチャードは蒸気ロイドの胴にまわしていた腕を開放する。
てきめんに廊下へ顔を打ち付けてしまった彼だが、解放されて身軽になった蒸気ロイドはさらに十数歩走リ続けた直後。
暴走特急と化していた機械人形が黒煙を吹き出しつつ、急に減速してガシャリと倒れた。倒れた後も、のた打ち回るように機械人形は激しく動いたが、やがてビクンビクンと数度激しいひきつけを起こしたのちに、蒸気ロイドは活動を停止するのだった。
しばらくすると守衛さんが騒ぎを聞きつけて三人のところへやってきた。
もちろん生徒たちを追って蒸気ロイドのところへ駆けつけたキッシンジャー教諭もそこに来たわけだけれども、すでに守衛さん警察に連絡をした後で、続々と王立警視庁の刑事や警官隊が学校へとやってきたのである。
「結局あれって、キッシンジャー先生が作った魔法装置だった訳ね」
警察に任意同行で引っ張られていく理科担当の教師を見送りながら、ジェイクは言った。
「恐らくですけれども、科学の力だけで自立型の機械人形を作ることが出来ない部分を、魔法理論を使って補完しようとしていたのですわ」
そうマリアは説明してくれた。もちろん寄宿学校の生徒程度の知識では詳しい機械の理論やシステムは理解できない。けれども、おおよその発想を思いつく事は出来た。
詳しい事はまだわからないけれど、恐らく理科実験室爆発の原因も想像はついた。
「まったく、キッシンジャー先生はとんでもない科学狂い(マッドサイエンティスト)だった訳か。犯人は理科教師の蒸気ロイドだったと……」
マリアもいい迷惑だよな、とリチャードが金髪の貴族子女を見やると、少し疲れたような表所を浮かべて彼女も苦笑を返した。
「よし、これで一件落着ね!」




