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テラスでの密会

彼に手を引かれ、私は赤くなった頬を隠すように足元に目線を映すと、彼が誘う方へと進んでいく。

人の目線が気になる中、会場から庭へと続く扉を開くと、私たちは王宮の庭へと出て行った。

庭には、美しいバラの花が咲き乱れ、その庭園は月明かりに照らされて、幻想的な光景だった。

美しい風景に感嘆と声を漏らすと、そよ風が私の火照った頬を冷やしていく。

気持ちよい風を感じると、私は大きく息を吸い込み心を落ち着かせた。


庭を彼と二人で歩いていく中、ふと彼が立ち止まった。

顔を上げ、彼の視線の先を追ってみると……バラ園の中にポツリと浮かぶように佇む真っ白なガゼボが目に映る。

わぁぁ……綺麗な場所ね……。


キラキラと光るテラスをじっと眺めていると、ふと耳に虫の音が流れた。

会場から結構離れているのだろう……その音に耳を澄ませると、静寂が私たちを包んでいた。

緩やかな風が私のドレスを揺らす中、空を見上げるてみると一面に光の粒が浮かんでいる。


「突然ごめんね。僕は第一王子アラン」


突然の挨拶に、私は幼さが残る笑顔の少年に慌てて体を向ける。


「存じてあげております。この度は私のデビューへお出でくださり、ありがとうございます」


淑女の礼をとり顔を上げると、美しく澄んだ吸い込まれそうな青い瞳と視線が絡む。

彼はにっこりと微笑みを浮かべると、そんなかしこまらなくてもいんだよ、と優しく微笑んだ。


「君は僕を覚えているかな?僕と君は、一度出会っているんだ」


思ってもいなかったその言葉に、疑問符が頭の中に浮かぶ。

出会っている……、私が……王子様と……?

えーと、第一王子とお会いしたことはあっただろうか……。

必死に記憶の中を探してみるも、どこにも見当たらない。

うーん、さすがに王子様と会ったことがあれば、忘れるはずがないと思うんだけれど……。

黙ったままに、しばらく考え込んでいると、王子が私を覗き込むように視線を向けた。


「覚えていないのも無理はない、だって君は5歳 僕は7歳だったから……。でもね、あの時出会ってから僕は ずっと君のことだけを見ていたんだ。一度だって忘れたことはない」


突然の告白に開いた口がふさがらない。

5歳……?

まだグレイと出会う前……。

仮に出会っていたとして、どうしてそこまで……?

もしかして……5歳の私は彼に失礼な何かをしてしまったのだろうか。

うんうんと頭を悩ませる中、王子は見惚れるような笑みを浮かべながらに、口を開いた。


「ねぇ、突然だけど、僕の婚約者になってくれないかな?」


婚約者?

突然に放たれたその言葉に、頭は真っ白になっていく。

ちょっと待って、 どうしてこんな展開になったの……?

彼の婚約者になるってことは……王妃……!?

無理でしょ!

それに王妃になんてなれば、魔術師にもなれなくなってしまう……。

そんなのは嫌だ。

私は意を決し顔を上げると、目の前にいる少年の強く見つめ返す。


「……私ごときでは、王妃としての荷を背負いきることはできません」


彼は笑顔のまま私を見据え続ける中、その視線に耐え切れなくなると、私は彼から視線を反らせる。

すると生暖かい風が吹き抜け、虫の声と共に、沈黙が二人を包んだ。

この沈黙はきつい……。

私は公爵家だが……王の側近である父が実力者の為、王族の求婚を断ろうが、家にそこまでダメージはないはず……。

あまりに長い沈黙にゴクリと唾を飲み込む中、私はなんとかこの気まずい雰囲気から逃げ出したいと考えていた。

早くここから逃げたいな……。

チラリッと顔を上げてみると、彼は微動だにしないままじっと私を見つめている。

そんな彼に背筋に悪寒が走ると、慌てて視線を外した。

なんか……怖い。

失礼になるかもしれないが……もうこの場に耐えられる自信はない。


私は意を決して、顔を上げると、真っすぐに彼を見つめた。


「あの……先に会場へ戻りますね。それでは失礼致します」


早口でそれだけ話すと、私は速足でテラスを後にした。





そうして彼女のいなくなったテラスでは、笑顔の王子が一人ポツンと残される。

暗い瞳を浮かべた彼は、彼女の背を追うことなく……、ただじっと去る背を眺めていた。


「君が僕を見つけたんだよ」


蚊の鳴くようなその呟きは、彼女に届くことなく、虫の音にかきけされていった。


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