ある日の学園で(おまけ)
婚約を決めた私たちは、父と母、現王子、王妃に祝福されながら貴族達を集め婚約発表は行った。
そうして私は毎日王妃になるための準備に忙しい毎日を送っている。
王妃になるためには、作法・礼儀・外交など様々な分野の知識を深めていかなければならない。
そんな慌ただしい日々が続き、もうすぐ私は16歳となる。
「アラン王子、わたくし……学園へ通ってもよろしいのよね?」
「どうしてそんなことを聞くんだい?もちろんだよ」
彼は笑顔で答える。
よかった……あれは夢だものね……。
そう私がほっとしていると、
「正し……但し学園では人に話しかける事も、笑いかけることも、泣くことも、怒ることも、泣くことも許さないよ」
彼の言葉に私は大きく目を見開くとその場で固まった。
そんなの……まるで人形じゃない……。
「それが約束できないのなら……君を学園へ連れていくことはできないかな」
彼の乾いた笑顔に心が氷凍りつく。
これは逆らってはいけないわ……。
「わかった……わかったわ、頑張るから……学園へ行かせて下さい」
その声に彼は嬉しそうに笑みを浮かべると、ならいいよと私へ囁くと深いキスを落とした。
そうしてあっという間に月日は流れ、学園へ入学する日が訪れる。
ようやく城の外へ出れた事に胸が躍る中、私は学園の門の前に立ち、顔を引き締める。
頬をペチペチと叩きながらに真っすぐに背筋を伸ばすと、喜怒哀楽を出さないよう、深く深呼吸しながら、学園の門を通っていった。
そんな中、貴族たちで溢れる入学式で、見知った姿が目に入った。
グレイ……ッッ!
懐かしい彼の姿に、気を引き締めていたはずの表情が緩み、少し笑みがこぼれおちる。
元気でそうでよかった……。
ほっと胸をなでおろす中、ハッと我に返ると、私は慌てて彼の姿を探した。
どうやら彼は私には気が付かず、学園の友人だろうか……話に夢中のようだった。
そのことに安堵すると、私は改めて頬を両手で挟む。
いけない気を引き締めないと……。
夢のように……監禁されてしまうかもしれない……。
そうして貴族たちがあつまる会場で、私は無表情のまま、王妃となる私に集まってくる貴族をあしらっていった。
そんな彼女の姿を少し離れた場所で眺めていた王子は、なぜか不敵な笑みを浮かべていた。
無表情で会話もあまりしない私は、いつの間にか学園内で悪役のような令嬢だと噂されるようになった。
私はその噂には気にも留めず、部屋に閉じ込められていた夢の中よりも、数段自由に動けるこの生活に満足している。
休み時間になると必ず私の様子を見に来る彼に、無表情のままに対応する。
そして微笑みを浮かべ愛しそうに見つめる彼のとなりを、人形のように並び立つ。
ある日の放課後、いつも来るはずの彼の姿が見えない。
彼を待っている間に教室は私一人となり、夕日が沈みかけようとしていた。
なかなか待ってもこない彼に私は戸惑う。
どうしたのかしら?
さすがに探しに行ったほうがいいわよね……?
私は無表情のまま立ち上がり、私以外誰もいなくなった教室を静かに後にした。
確か……彼の教室は私よりも二つ上だったはず。
階段を上がり彼の教室へと向かっていると、誰かが階段から降りてくる足音が響いた。
彼……かしら……?
そっと視線を上に向けると……
「あっ……ッッ」
そこにはグレイがいた。
私が学園に入学し、最初に見たっきり一度も顔をあわせていなかった彼の懐かしい姿に私の頬は自然と緩んでいく。
彼は私を大きな目を見開き呆然と見つめていた。
お互いに驚きの表情を浮かべる中、彼は徐に口を開いた。
「ひ……久しぶりだな……」
彼の懐かしい声色に、つい微笑みを浮かべてしまう。
「えぇ、元気そうでよかったわ」
彼の驚いた表情が、次第に良く知った笑顔を私へと向けてくれる。
懐かしいような、久しぶりに味わう和やかな雰囲気の中、私はじっと彼を見つめていた。
「何をしているのかな?」
突然背後からのよく知る声に、私の体がすくみあがる。
バランスを崩し、階段から落ちそうになったところを力強い腕に引き上げられた。
私はグレイの胸の中へと飛び込む形となり、グレイは私を強く抱きとめる。
彼の胸の中に囚われる中、後方からゆっくりと階段を登ってくる足音が耳に届く。
「ありがとう、僕の婚約者を助けてくれて」
「いや……当然の事だ」
グレイは私を抱きしめていた腕を緩めると、王子へと預ける。
「教室に行ってもいないから心配したよ……さぁいこうか」
私は彼の笑顔に、笑い返すことができず、何も言わず差し出された彼の腕をとると、グレイへ背を向けた。
彼は学園の出入り口とは反対方向へと私を連れて歩いていく。
どこへいくのかしら……?
疑問を感じながらに彼の背を追っていくと、ゆっくりと立ち止まった彼に体がビクッと反応する。
ゆっくりと彼は振り返り私の目を見据えた後、突然に教室の中へと私を引き入れた。
彼は教室にはいると、机に私を押し付け私の唇を舌でこじ開け、舌を絡ませてくる。
「うぅ……ふぅ……うぅぅっ……んんんッッ」
彼の深いキスに翻弄されていると、彼は私のスカートの中へ指を忍ばせてくる。
「ぃやっ……まってっ……ここは学園よ!」
私は焦って彼の腕を掴み、やめさせようと握った腕に力をこめた。
すると彼は冷めた笑顔を私へ向けると、そのまま唇へとかぶりついた。
「やぁっ、んんっ……うぅぅん、……っっ」
息苦しさにもだえる中、ふと彼と目が合い、夢で見た彼と重なった。
夢で幾度も侵された体が自然と反応し、抵抗する力が緩んでいく。
「僕はいったよね君に……。学園に入るなら誰にも笑顔を見せるなと……」
彼のその静かな囁きに、背筋が凍っていく。
待って……うそ……違うわ。
ここは夢じゃないはずなのに……。
どうして、こんなことに……。
怯えながらに彼の瞳を見つめ返していると、首筋へ彼の唇が触れる。
すると耳を甘く噛まれ、ビクッと体が反応みせた。
「いたっ、……やぁ……ッッ」
「あまり声を出すと誰かがくるかもしれないよ……?」
そんなことを囁く彼に、快楽と恥ずかしさが同時に襲う。。
こんな姿を誰かに見られたら……。
私は声を耐えるように口元に手を持っていき声を押し殺した。
「うぅぅ、ふぅぅん、くぅっ……」
必死に声を押し殺していると、彼の唇が首筋へと吸い付いた。
鈍い痛みに顔をしかめる中、彼の瞳が目の前に現れる。
その瞳をじっと見つめていると、なぜか息が上がり、何も考えられなくなっていく。
次第に視界がぼやけ意識が薄れていくのを感じた。
そうして私は机に体を預けるように意識を失ったのだった。
「夢の中のように君に最後までさせるつもりはないよ……。ただ君は僕のだとはっきりわからせる必要があったからね」
机から流れ落ちる彼女の髪を救い上げキスを落とし、彼は意識を失った彼女の体を、壊れ物を触るように優しく丁寧に抱き上げた。
「君の首筋には僕のものだとわかるマークはつけた。ふふっこれできっと……あいつは君の恋情にあきらめがつくだろう」
そうして寝ている彼女を優しく抱き上げて、彼は教室を後にした。