そうして私は……
彼は一言も言葉を発することなく、私は抱えたままに王宮の中へと入って行く。
暗い王宮の通路には誰もおらず……蝋燭炎だけが、ぼやッと廊下を照らしていた。
重くないのだろうか……王子は疲れた様子を見せる事無く、歩く速度を緩めることはない。
そのままアラン王子の部屋に到着すると、彼は私を抱きあげたまま中へと入って行く。
ちょっと待って……っっ。
なんで、どうして……!?
大きなベッドが視界を掠め、焦った私はアラン王子から逃げようと必死に胸の中で抵抗を見せる。
「アラン王子降ろしてください!!!」
そう力いっぱい叫んでみると……彼は冷たい視線のまま私を抱く腕に力をいれた。
「痛いっ」
痛みに顔を歪める中、彼は私を抱き抱える力を緩めずに、ベッドへと近づいていく。
そのまま彼はベッドの上で解放すると、私は体を強張らせた。
ベッドのクッションで大きく体が跳ねたかと思うと、彼は私の上に覆いかぶさり、その冷たいまなざしで私を見下ろす。
その瞳に恐怖を感じると、私は慌てて体を起こそうと試みるが……彼の腕にえつけられ身動きがとれない。
どうにかしようと必死に抗って見せるが……どうやっても彼を退かせることができなかった。
こんな彼を私は知らない……。
怖い……この人は誰なの……?
恐怖に体が震える中、彼は私の両手首を片手で持ちあげると、頭の上で固定した。
「ねぇ、君は……そんなに僕の婚約者になるのがいやかい……?でもね、解放してあげる気はないんだ」
彼の瞳がゆっくりと近づいてくると、首筋に彼の吐息がかかる。
「最初からこうすればよかった……。あぁ……君が自分から僕のものになってくれてさえすれば、自由に生きて行くことができたのに……」
よくわからない彼の言葉に、私の体はガタガタと震え始める。
「もう君に自由はないよ、ずっと僕のそばで……僕のためだけに生きてね」
薄暗い部屋の中、窓から差し込む月明かりに真っ青な瞳が浮かび上がると、目を反らせることが出来ない。
そのまま彼は、私へ深いキスを落とした。
「愛しているよ……、君以外誰もいらないんだ」
そう囁かれた言葉に、次第に体の力が抜けていく。
あぁもう逃げれない……私は、そう悟った。
あの日、私は本当の彼を知ってしまった。
彼は毎日、私のもとへ深い愛を囁く。
ねぇ愛しい君、僕は君が好きなんだ。
君を誰にも見せてあげないよ。
君を笑った顔も怒った顔も泣いた顔も僕だけ知っていればいいんだ。
こんなことをしたくはないんだけれど、君が僕にそうさせるんだ。
他のやつのものになろうとするから……。
そしてまた抵抗する私へ、深いキス落としていく。
そして彼との本当の婚約生活が始まった。
正式に私と彼の婚約発表がされ、私は彼と王宮で生活することとなった。
16歳になるまでは部屋は別々だが、成人すると彼と同じ部屋で暮らすことになる。
部屋が別々なことに安堵していた私だが……彼から下された命令はとんでもないものだった。
家に帰ることを禁止され。
城から出ることを禁止され。
さらに私が部屋から出ることを禁止した。
王子以外の男と話すことを禁止され。
そうして……薄暗い部屋に監禁された。
16歳になるまでは体裁のため……同じ部屋で生活はできないから一番近くの部屋へ。
それは王子と隣り合わせの部屋だった。
隣り合わせの部屋は行き来がしやすいように、部屋の中には隣へ続くドアが設置される。
その部屋へ閉じ込められるや否や、私は王妃になる為の勉強をさせられた。
そして……大好きだった魔術は使えないように封印される。
夢は諦めろと言うことだろう……。
もしくは逃げ出さないようにするため……。
希望の光をなくした私は今日も部屋で一人、彼の帰りをずっと待つことしか出来なかった。
囚われ中の生活については、ムーンの方へ【囚われの悪役令嬢】とのタイトルで掲載しております。
読んで頂かなくてもストーリーはわかるようになっておりますので、ご安心下さい。