最後の手段
王妃になるための条件として処女は絶対だ。
私は一人応接室に佇む中、その処女を散らそうと決意を固める。
傷物になった私はこれから先、結婚することは難しくなるだろうがしょうがない。
国から家から逃げることも考えたが……私のような子供が逃げ切ることはかなり困難だろ……。
絶対に失敗はしたくない。
処女が喪失すれば、彼がいくら婚約を進めようとも王族や貴族たちが黙っていないだろうから……。
私は事前に町へと下見に行くと、とある酒場を見つけた。
夜が深くなると営業を始め、少ない布をまとった女と多数男が出入りする。
その店の中では……女は金をもらい、男と奥の部屋へと消えていく。
ここなら……。
なぜ街へと思うだろうが、貴族社会では私が王子と婚約者になると皆が知っているため、貴族での処女喪失は不可能に近い。
誰も王子の反感を買いたくないだろう……。
決行を決意した日、私は従者は連れずに、夜の街へとこっそり屋敷を抜け出した。
緊張からだろうか夜の街が普段の風景とはまた違い、異様な活気にあふれている。
私は急ぎ足で酒場まで向かうと、店の前で足を止めた。
大きく息を吸い込みながらに一人酒場へと踏み出していく。
服は家にある一番大胆な服を選んだ。
高級そうに見えない様少し汚し、胸元が大きく開き、体のラインが浮かぶドレス。
これは娼婦へと自然に混じるため……。
そうして酒場に入るとほぼ裸のような女性が小さな舞台で踊り、男たちは談笑しながら酒を片手に盛り上がっていた。
一人の男が席をたち踊り子の一人を連れて酒場の奥の部屋へと消えていく。
私はその姿を見つめながらに、緊張した面持ちで席へついた。
いざやって来ると、脚が小刻みに震え始める。
私はウェイターにお酒をお願いすると、艶やかなピンク色の洋酒が差し出される。
酔って……全てを忘れてしまおう。
一気に酒をあおると、大柄な男たちが私の席へと向かってくる。
「よぉ~ねぇちゃん、こんなところで一人酒か?俺たちと一緒に奥の部屋で飲もうぜ」
私は緊張を隠すように男たちへ微笑みを浮かべて見せると、徐に立ち上がる。
そのまま男に腕を捕えられ、奥の部屋へ引きずられていく中、その手が震えないように必死に耐える。
心の中は恐怖に埋め尽くされていた。
怖い怖い怖い……でも……っっ。
頭を垂れ必死に拳を握りしめていると、突然に酒場の様子がかわった。
その変化に顔を上げ、皆の視線の先を追っていくと、見慣れたブロンドヘアーの夜の海のように深青の瞳が目に映る。
どうして……彼がここに?
彼はいつもの笑顔を崩し、ゾッとするような冷たい眼差しで、私の手を掴んでいた男を見据えていた。
そうしてゆっくりと私のもとへやってくると、彼の威圧感に私の腕をつかんでいた大柄な男が慌てた様子で後ずさる。
「さっさと帰るよ……」
いつもとは違い、氷のような冷たい声に、頭が真っ白になっていく。
彼と数年付き合いで……彼の事を全て知っているような気がしていた。
彼はどんな時でも笑っていた……。
だから私はこんな表情をする彼に狼狽していく。
私は彼の様子に唖然としながら立ちすくんでいると、彼は動かない私を抱き上げ、外へと足を向ける。
そんな様子に困惑する中、私はそっと体を起こすと、恐る恐る彼に視線を向けた。
「あの……どうして?」
そう問いかけてみるも……彼は無言のままに夜の街を歩き続ける。
屋敷とは逆方向へ向かう彼に、どこへ向かうのかと問いかけようとするが……異様な彼の雰囲気に圧倒される。
彼の纏う黒いオーラに困惑すると、私はギュッと唇を閉めると、彼の首に手をそえ、落ちないように彼の首へとしがみついた。