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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
ヒューイ君と愉快な仲間たち編
9/45

8 キノコがおいしい季節です

「さて、試験も終わって、いよいよ待ちに待った長期休暇が始まりました!」


 勉強会まで開いたヒューイの試験結果は−−秘密である。とりあえず、無事休暇を迎えられる程度には悪くなかったようではあるが。

 ちなみに実技試験は免除だった。先日の魔物襲撃の際の対応が考慮され、ほぼ全ての者が合格点を出されたのだ。


「−−んで、何で俺っちたち呼び出されたんすかね?」

「みんな里帰りするまでまだ日があるよね?」


 ヒューイの問いに、各々は肯定の意を示す。まあ、みな王都に実家があるので途中までは共に行動する事になっている。そのため当然の答えではあった。


「長期休暇と言えば自由研究! −−という訳で、僕は魔の森に行こうと思います」


 なので付いてきてくださーい。と、ヒューイは告げた。


「いやいやいやいや、意味が判らないっすよ!?」


 そもそも長期休暇=自由研究って何? と疑問符を浮かべる面々。騎士学校では、長期休暇における課題などは出ない。基本的に里帰りして英気を養うための期間だからだ。


「こないだ魔物が押し寄せてきたジャン? あれ、多分……というか確実に魔の森から来てたらしいよね? なので生態調査的なのを興味本位でしてみたいなって」

「興味本位!? つーか、調査なら騎士団がやったんじゃあ……」


 学校に魔物が押し寄せた事件だが、のちの調査で出現した魔物の種類から、大半が魔の森からやって来たのでは? との結論が出ている。なお騎士団によって森の調査も行われたようだが特に問題は無かったらしい。


「いやいや、それでもどんな食べも−−もとい、どんな魔物が生息してるのかちゃんと僕たち自身で調べてみたほうが良いと思うんだ」

「……いま、食べ物とか言いかけたっすよね」

「俺も…………興味、ある」

「……あー、そうっすよねー、テオさん調査とか森の幸とかそういうの好きそうっすもんねー」


 そして、魔の森といえば気になることもあった。


「あとあとっ、もし−−万が一魔王とかいるとしたらどんなかなって!」


 ヒューイの中では前回の魔物襲撃と魔王が完全に関連付いているようである。『魔物の大量発生=魔王誕生』と学んだばかりなので。


「魔王は興味本位で探しに行くものじゃないっすよ!?」

「……フッ、魔王か。俺の力がどこまで通じるのか試してみたいものだ」

「エルンストさん、キャラ変わってるっす!!」


 エルンストだが、先の騒動で何かのスイッチでも入ってしまったのか、近頃では言動が少々おかしくなっている。具体的に言うとバトルジャンキー化していた。生死と紙一重の戦いが彼を変えてしまったのかもしれない。


「おやつはクッキーとかの方が良いですか? あ、カップケーキなんかもいいかも……」

「ちょ、アステルちゃんに至っては、もはや遠足気分!? いやいやいや、おかしいっすよね!?」


 騎士団の調査によって安全がある程度保証されているからか、アステルも気楽なものだ。

 フェルさんも何か言ってくださいよ! と悲痛な声をあげるローレンツ。


「ローレンツ。……人生、時には諦める事も必要じゃぞ」


 救いなんてどこにも無かった。明確な反対派が一人しかいなかった時点で詰んではいたが。





「あっ、これも食べられるやつだー」

「ヒューイさん、こっちにも食用キノコがありましたよー」

「わぁ、今夜はキノコパーティだね!」

「いいですね、それ!」


 いざ出発すると、ほのぼのピクニックの様相を呈していた。見ようによってはヒューイとアステルがキャッキャウフフしているようにも見える。


「あれっ、これ調査というより山菜キノコ狩りになってないっすか?」

「…………必然」

「まぁ、ヒューイさん主導ならこうなるっすよね……何か索敵陣も無反応だし」

「もしかすると……先の騒動で、森の魔物も出尽くしてしまったのやもしれんの」

「……なんだ、つまらんな」


 だからこそヒューイたちも簡単な許可と軽い気持ちで森に足を運べた訳だが−−


「−−こ、これは!」


 何かを見つけたのかヒューイの驚きの声があがった。


「どうした、魔物かっ?」


 心なしか楽しそうに問うエルンスト。しかし−−


「きょーかんのお財布を軽くしたと評判の珍味な高級キノコ! しかもいっぱい!」

「…………」


 目の前に広がるのはキノコの群生地だった。いっそ作為的とさえ思えるくらい食用のキノコが生えている。期待していたものとはかけ離れた光景にエルンストは無言になった。


「…………何ていうか……本当にたくさん生えてますね……」

「教官の財布いくつ分になるんすかねー、これ」

「………教官、涙目確定」

「騎士学校の管轄地故に乱獲を免れたといった所じゃろうか……」


 灯台下暗しとはこの事だった。この場所を知っていればアルも無駄な出費をしなかっただろうに……。一同は大いに同情した。


「きょーかんは味がしないって言ってたけど、本当の所はどーなんだろ?」

「どうせ大枚叩いてたから、緊張してて味が分からなかったってオチっすよ」

「あー、ありますよね。そういう事」


 私も学園に来た当初は食堂のご飯が豪華すぎて味が判らなかったです。と、アステルが平民らしい感想を述べる。学食は貴族も利用するので、それなりに良いものが食べられるのだ。


「じゃあ、確かめるためにも今晩はこのキノコで何かつくりましょう!」

「炒め物もいいし、煮込み物に入れても良いダシが出そうだし……シンプルに焼くだけっていうのもいいよねぇ……」


 じゅるりとよだれが出そうになるのを堪えるヒューイ。


「……………楽しみ」

「何と言っても今回は、アステルちゃんが加わって初の野営っすからねー。料理も期待できるってもんっす」

「ローレンツよ。その言いようではアステル一人だけに料理させるという風に聞こえるぞ?」

「も、もちろん俺っちだって手伝うっすよ!」


「そんな事よりも魔物は? 魔物はいないのか!?」





 そんなこんなで日も暮れ夜になった。元々二、三日かけて探索する予定だったので野営の道具も持参している。道中で採取したキノコを使ったクリームシチュー(ミルク無し)を煮込み、完成を待っていたのだが。


「ヒューイさん。そういえば気になってたんですけど、その籠手って……」


 アステルがヒューイの腕を見て問う。彼の両腕には、手の甲から肘までを保護する真新しい籠手が装着されていた。


「あ、これ? えっとねー筆記試験期間中に届いたんだけど……ほら、実技試験無くなっちゃったから」

「こないだ手紙出すって言ってから半月も経ってないのに、もう出来ちゃったんすか特注品!?」

「魔物の襲撃もあったし、実技試験に間に合うようにがんばってくれたらしいよ?」


 期間だけ見れば急ごしらえのように思えるが、品そのものはしっかりとしたものだった。制作するのに数ヶ月はかかりそうな完成度。さすが親バカ。かける情熱が普通ではない。そして、ヒューイは呆れるどころか少し嬉しそうだ。


「実技試験で使えなかったのは残念ですけど、今回は使えて良かったですね!」

「うん、大事に使うつもり」


 籠手を撫でつつ答えるヒューイ。その向かい側では−−


「新たな専用装備を手に入れ、更なるパワーアップというやつか。俺も新たな技を模索せねば、また敗北を喫する事になりそうだな」

「……あのー、エルンストさん? これ以上戦闘バカ拗らせるのやめて欲しいんすけど」

「ローレンツ。今は何を言っても無駄じゃと思うぞ」


 エルンストが新たな決意を胸に宿し、ローレンツは聞き入れられないと薄々承知しながらも釘をさす。フェルに至っては既に諦めきっていた。


 その後に食したキノコ料理は、事故などもなく大変美味だったと記しておく。





 −−翌日。


「−−あ、ちょっと待ってくださいっす。索敵陣に反応が−−!」

「やっとか!」


 待ってました! と、言わんばかりに、活き活きとし始めるエルンスト。


「エルンストよ。おぬしどれだけ戦いに飢えておるんじゃ……」


 そんなフェルの呆れ声もなんのその。


「どっちだ、ローレンツ!」

「これは−−西の方っすかねぇ……ちょい遠いんで、現状じゃあんま詳しい事は判らないんすけど……」

「行くぞ」


 サッサと歩いていくエルンスト。それを見つつヒューイは、ここ数日思ってはいても口には出さなかった疑問を吐き出した。


「何かこの間からエルンスト君、やけに好戦的なんだけど……コレびょーきとかじゃないよね?」

「ある意味では病気と言えるじゃろうなぁ」


 フェルが苦笑いしつつ答えた。


「永遠に治らない系?」

「人によっては……としか言えんの」

「…………エルンスト君のは治りそうに無いね」

「……そうさのう。一度痛い目に会えば、もしかすると……と、思わん事も無いんじゃが」


 まあ賭けのような物じゃな。と、フェルは呟いたのだった。


 ローレンツの誘導で、しばらく歩いて行くと、パックリと口を開けた暗黒が。


「……どーくつ、だねぇ」

「……いかにも何かが奥で待ち構えておりそうな佇まいじゃの」

「残念な事に反応はこの奥からっす。…………しかも−−」


 言い淀むローレンツ。その視線は張り切るエルンストを向いていた。それを見る表情は、これ以上情報提供したくないなぁと語っていた。どうやら彼を喜ばせる要素が満載らしい。


「しかも? 何なんだ、ローレンツ」

「…………反応が超ヤバイっす。いつかのスカーレットグリズリー以上っていう……」

「ほう。ということは脅威度Bもあり得るというわけか」


 弾んだ声で推測するエルンスト。


 話を聞きつつヒューイは、前回見事に相手の姿を当てていたテオドールに視線をやってみた。彼もそれだけで察してくれたのだが………。


「………………暗すぎ、無理」


 匙を投げられてしまった。遠見の魔術は名の通り遠くを見るものなので、視界が確保できないと意味がないらしい。


「近づくのは止めた方が良いっすよ。……俺っち達が対応できるのは精々Cまでっす」

「向上心の無い奴め」

「向上心とかそーゆー問題じゃなくて。勇気と無謀は違うっすから」


 エルンストを押し留めようとするローレンツだが、彼の努力をあざ笑うかのようにポツポツと奥に向かって灯りが灯っていく。まるで早く来いと言わんばかりに。


「あからさまに誘われておるのう」

「こちらの動きが分かってないとできないですよね、こんな事……」

「これ、まさかだけど……行かなきゃ追いかけてくるシチュエーションだったり……する?」

「…………魔術的、ロックオン状態」


 テオドールの言葉が決定打だった。


「あー、選択肢は有るようで無い状態なんですねわかります」


 わかりたくないが、飲み込むしかない状況ならば仕方が無い。ヒューイは腹をくくる。


「はぁ……じゃ、行こっか」


 足を踏み入れた洞窟は意外と広く深いものではあったが、辺りを照らす灯りのお陰で迷うことなく進むことができた。

 何かに襲われることもなく、ただ黙々と歩みを進める一行。進むごとに感じる威圧感が増し、奥にいるものが確実に格上であることがヒューイたちでも肌で感じられる様になってきた頃−−


「くくく、よくぞここまで来たな」


 たどり着いた洞窟の最奥には、黒いローブを着た人影が仁王立ちして待ち構えていたのだった。




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