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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
ヒューイ君と愉快な仲間たち編
7/45

6 試験対策をしよう!

 長期休暇前の一大試練である期末試験が差し迫ったある日。とある騎士学校の一室にて。


「ではではー、ヒューイさんの試験対策会議を始めようと思うっす!」

「うむ」

「……了解」

「はいっ。微力ながらお手伝いします!」

「……おい、これはヒューイ自身の問題だろう? 何故、俺まで同席せねばならんのだ」

「そこはまぁ班合同の実技試験とかもあるっすから……」


 打ち合わせも兼ねてって事で。とローレンツが告げると、不満顔だったエルンストも、それならばと納得した。


 だが、不満顔だったのはエルンストだけではない。


「…………なぜに、何故にこのタイミングなのか。今更感はんぱない…………」


 それは今回、槍玉に挙げられているヒューイ自身だった。


「まぁイロイロあったっすからねぇ……」

「おかしい、おかしいとは思ってたんだよ! きおくそーしつになって以来、補習らしいモノが無かったし!!」


 授業では多少配慮されてたっぽいけど!!


「在学中、記憶喪失。……前代未聞」

「俺が耳にした話では……教官たちの間でも、対応に関しては結論が出せなかったらしいぞ」


 テオドールとエルンストが補足情報をもたらすも、気休めにもならない。その結果が現時点までの放置プレイである。


「だからって試験直前にみっちりやるって、これ絶対自滅ふらぐだよねえ!?」


 こうなる位なら地道に毎日補習受けたかった!! そのほうがマシだったよ!?


「とはいえ実際問題、試験期間は目の前に迫っておるしのう」

「もうやらざるを得ない段階っすよね、コレ」


 諦めろと言わんばかりのフェルとローレンツ。


「無理矢理詰め込んでも、詰め込んだのと同じ分だけトコロテン式に出て行く気がしてならないよ!!」

「大丈夫ですっ。ヒューイ君ならきっとできます!」

「アステルちゃん、純粋な期待が痛い、痛いから!」


 キラキラした目でアステルに見つめられ、怯むヒューイ。そんな目で見られても、出来ないことというのは確かに存在するのだ。


「ヒューイよ。何事もする前から否定するべきでは無いと思うがの。出来る、出来無いなどと言う前に、とりあえず実際にやってみてはどうじゃ?」

「うぅ……それは、まあ、そうかもだけど……。あんまり自信無いっていうか……」

「じゃあ、まあ試しにやってみましょうよ。俺っちが問題出すっすね!」


 ローレンツは教科書を取り出してペラペラとめくり始めた。そして、ここだ! というページを開く。


「まずは地理からの出題っす。我が国で海洋貿易の要となる都市の名前は?」

「…………わかりません」

「イシュトだろう」

「エルンストさん正解っす!」


「じゃあ次の問題。海洋貿易都市イシュトの特色を述べよ」


「はいはいはーいっ!」

「お、ヒューイさんわかるっすか?」

「えーっと、イシュトはアクアパッツァやパエリヤなんかの海鮮を使った料理がハズレ無し! 最近は、謎の触手生物の触手を入れて焼いた触手焼きがコアなファンを集めているらしいよ。……病みつきになっちゃうんだって!」

「…………ヒューイさんそれ解答ちゃうっす。ただの観光案内のグルメ情報っす……」


「海洋貿易都市イシュトといえば、陸には常に100程の兵が常駐し、海に関しても50からなる船団が配備され、陸からも海からも攻めにくい都市だのう」

「フェルさん正解っす」

「うぅぅ…………」


 いい所なしのヒューイは恨めしそうにローレンツを見た。


「……じゃ、じゃあ、次の問題は少し難易度落とすっすよ」


 物言いたげな視線にローレンツは、今度は教科書の最初の方のページを開いた。


「騎士学校の成り立ちからの出題っす。ここの前身は何だったか?」

「?」


 ある意味初歩中の初歩な問題だったが、どう見ても回答が浮かんでいない表情のヒューイ。体感で長い沈黙が落ちる。


「……えっと……確か、砦……ですよね? 魔の森の監視のために建てられたっていう」


 沈黙に耐えきれなくなったアステルが遠慮がちに回答した。が、その回答の中にも、ヒューイにとってはよく分からない単語が混じっていた。


「魔の森?」

「この学校の西にある森の事だ。かつて幾度となく魔王を輩出した事からその名が付いた、と言われているな」


 ここ数百年は魔王の発生もなく、今となっては低級の魔物の住処でしかないが。と、エルンスト。そんな事情から、現在は簡単な実習などで利用される事も多い。


「昔は最前線じゃったから、それだけ優秀な者たちが詰めておったらしいの。その名残で教導の場になったという訳じゃな」


「魔王っていうのは?」

「……魔物、統率。……リーダー」

「……ああ、名前のまんまの意味なんだね」

「魔物、大量発生……魔王誕生、証拠」

「ええと、つまり魔物の大量発生が起こったら、それは魔王が現れる前兆って事?」

「……そんな、感じ」

「ふむふむ。まあでも、ここ何百年かそんな事は起こってないっていうし、豆知識みたいなものってトコかなぁ」

「…………念のため、知識」

「ヒューイ。貴様、他人事のように言っているが、そんな調子ではその内に足元を掬われるぞ」


 のんきな反応を示すヒューイに、エルンストが釘を刺す。


「あくまでも魔の森では発生していない、というだけで魔王自体はこれまでに何度か出現している。……他国での話だがな」

「……と言うことは、もしかして勇者とかいる!?」

「魔王討伐者の事をそう呼ぶ者もいるな。……とはいえ前回魔王の出現は100年ほど前らしい。既に生きてはいないだろう」

「……生まれながらの勇者とかそーゆーのはいないの?」

「それを誰がどうやって判別するというんだ」


 教会等で判別できるのは魔力の有無と、その人物に備わっている属性のみ。勇者にのみ存在する属性があるなどという話はついぞ聞かないので、属性での判別は不可能である。


「カミサマからおつげがあるとか……」

「御伽噺の読みすぎなのではないか?」

「勇者を召喚! とかは?」

「普通に犯罪行為だな」


 そもそも契約を交わした使い魔の召喚ならともかく、無差別に生身の人間を召喚するなど拉致以外の何者でもないとの事。正論である。


「おうふ……どりーむクラッシャーさんがここにいる……」


 とはいえ、一人の夢見る少年の夢をクラッシュするには十分だったという……。





「うーん……」

「ヒューイさん、どうしたんです?」


 剣なんか見て? とアステルが尋ねると、


「いや、これいっつも下げてるんだけどさ………………動くのに邪魔っていうかね?」


 そう言ってヒューイは自室以外では常に帯刀している剣を嫌そうに見た。


「そうは言っても指揮官は長剣装備が標準っすよ? 今までだって特に何にも言ってなかったじゃないっすか」

「まあ熊の時は気にもならなかったんだけど、実は牛狩りの時はちょっと走り辛かったんだよね……」


 重さとその長さが、走る際のバランスを微妙に狂わせていた。記憶喪失前は気にならなかったのかもしれないが、今はどうにも違和感があるのだ。


「走り辛いから嫌と言われても……普通は走らないっすからねー、指揮官」

「−−ぼーくーは、走り回りたいの!!」


 接近戦闘したいの! No指揮官!! と、叫ぶヒューイは、もう駄々っ子そのままだった。


「動きやすさを重視するなら、ローレンツやテオドールのように短剣に変えれば良いんじゃないかの」


 サバイバルでの使い道もある事だし。とのフェルの提案。


「それ、頂きっ! ……あっ、でも武器とかどうしよう?」

「それならば、短剣をそのまま使えば良いのではないかの」

「うーん……刃物の使い方ってイマイチわかんないんだよねー」


 だから熊の時は取り敢えず投げてみたけど、とのたまうヒューイ。そして、そんな事があったのかと驚く新入りのアステル。


「長剣は本来投擲するものでは無いのじゃが。あの時のアレにはそんな事情があったんじゃのう……」

「だから基本的には、拳で語りたいんだよねぇ」

「…………あの、ヒューイさん。言ってるイミが分からないっす」

「ん? だから武器を使わない近接戦闘を基本にしていきたいなぁって」


 ローレンツが混乱する中、ヒューイは自らの希望を語る。ちなみに徒手をメインにする騎士はほぼいない。貴族ならば尚更に。基本、帯剣が必須になっているので、他の理由や余程のこだわりが無い限りは剣術に落ち着くのだ。


「………なら、手甲……か、籠手装備………ちょっと安心」

「手甲に籠手……ですか? あまり一般的な装備じゃないから、自分専門の物を用意するなら時間がかかっちゃいますね……」

「どこか良いトコ知ってる人いるー?」

「いや、こういう時こそ家の力を借りる時っしょ。伯爵家ともなればウデのいいお抱え職人の一人や二人はいるモンっす」


 命を預ける物なのだから、今回ばかりは妥協すべきでは無い。とローレンツは語る。


「……そうだね。今回の件に限ってはおとーさん達に相談してみる。ただ−−」


「−−ただ?」


「それが出来るまで何を使ったらいいかなぁ……って」


 困ったように告げるヒューイに、その場は静まり返ったのだった。





「次は実技対策だ!」

「おー、エルンスト君張り切ってるねー」

「当たり前だ。今日はこのためだけに同席していたのだからな」

「その割には付き合い良かったっすけどね」

「………………………………まあ、いい復習にはなった」

「全く素直でないのう」


「……では、陣形の確認からしていく」


 エルンストの言葉に改めて現在の配置を確認する。

 前衛はエルンスト、サポートにフェルディナント。後衛は魔術師のテオドールと、護衛兼前衛メンバーサポートのローレンツ。更に後方に指揮をするヒューイ、衛生兵のアステルが控えるという形。


 それに異を唱える者がいた。


「僕も前衛が良いでーす!」


 勿論、我らがヒューイ。それに即座に反応する者もまた、いつもと同じ人物だった。


「駄目だ。貴様は指揮官なのだと何度言えば判るんだ!」

「指揮が出来ない指揮官とか、それなんてお荷物? 僕だって運動したいです!」

「運動と戦闘は全くの別物だ。一緒にするんじゃない!」

「……それは、僕がちゃんと戦えるなら前衛しても良いってことだよね?」

「………………戦える事が証明できるのであれば、まあ、考えなくも無い」


 エルンストの言葉に、それを待っていたと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべるヒューイ。


「よーっし、それなら勝負しよっ」

「…………は? お前は何を言っている」

「証明出来れば、僕も前衛しても良いんでしょ? なら勝負するのが手っ取り早いよ」


 本気か? とのエルンストの問いに、もちろんと答えるヒューイ。


「……正直な所、お前が全く戦えないとは思っていない。でなければ、例えまぐれでもスカーレットグリズリーを単独で撃破などできんからな」

「ならどうして……?」

「人には役割という物がある。そしてお前の場合、それは後方で悠然と構えている事だ」


 そんな二人の話を聞かされている他の面々は、というと……。


「あーいるっすよねー形式にこだわりすぎるヒト」

「頭が固いのも考えものじゃのう……」

「………………エル……まじ、ツンデレ」

「あの、皆さん、あまりそういう事は……」

「本人が戦いたいって言ってる上に、それをできるだけの能力があるなら、やらせてやればいいんすよ」


 記憶喪失前までは、ただ後ろで突っ立ってウダウダ文句言ってただけだった。だが、それが無くなった上に戦力増強でいい事づくめではないかとローレンツをはじめとした一同は思うのだが、エルンストには受け入れられないようだ。


「あぁーっ、もうっ! 面倒!」


 ぶっ倒して実力で認めさせる! と、言葉での説得を諦めたヒューイはエルンストへと飛び掛った。


「なっ、徒手だと!?」


 −−キィンッ!


 金属のぶつかり合う澄んだ音が響きわたる。驚きつつも咄嗟に剣を抜いたエルンストが、剣の腹でヒューイの一撃を受け止めたのだ。


「ナックルガードとは……また個性的な物を用意したものだ……なっ!」


 言い終えると同時に、力任せに拳を押し返す。勢いに逆らわず後ろへと飛び退いたヒューイの手にはいつの間にやらナックルガードが。先ほどの衝突音はこれが原因らしい。


「個性的で悪かったね。倉庫探したけど徒手用の装備がこれ位しかなかったんだよ」


 素手で戦ったら怪我するのは目に見えてるし。そう言いながら間を置かず再び飛びかかる。


「せいっ、はっ!」


 キィン、キィン!


 素早く何度も打ち込まれる拳を受け止める度に何度も響く金属音。


「−−どうした。闇雲に殴るだけでは事態はかわらんぞ」

「そっちこそっ。受けてばっかりじゃあ何にも変わらないよ!」

「……さて、それはどうだろうな?」


 会話の間にも攻防は続いていた。攻撃しては剣で弾かれ、間髪入れず一撃を放つもやはり弾かれる。


「……くっ。エルンスト君ってば、なんでそう無駄に防御が上手いのさ……っ」

「伊達や酔狂で貴様の護衛役に選ばれた訳ではないということだ。しかし、俺の本領は守りではない!」


 その事実によほど自信を持っているのか、ヒューイの隙をついて攻守が切り替わった。

 斬りかかってくるエルンストの剣を避け、時にはナックルガードで受け止める。


「エルンストさん相手にいい感じっすねー、ヒューイさん」

「ただ、このまま行けばエルンストの勝ちの可能性が高いがのう……」

「えっ、どうしてですか?」

「……………残存体力。雪うさぎ、小柄」


 ついでに言うならば、学校の授業に何とかついていける程度には体力はあるが、それだけである。体格に恵まれ、時間外も真面目に鍛錬をしているエルンストとの攻防が長い時間続くとは到底考えられない。


「最初の連撃で随分体を動かしていたからのう。対してエルンストは最小限の動きで防御しておった」

「そんな! それじゃあ、ヒューイさん負けちゃうんですか……?」


 両手を組んで祈るように、戦う二人を見ていたアステルが悲痛な声をあげる。彼女はヒューイ派のようだ。


「まあ、ヒューイさんがその辺の事を考えずに勝負挑んだとは思えないっすけど」

「……肉食系雪うさぎ。………きっと……何か、隠してる」


 そう言ってテオドールが視線を戻した先では−−


「そろそろ限界のようだが、降参しないのか?」

「……僕の限界を勝手に決めるのはどうかと思うなー」


 少々、息を切らせているが不敵な態度を崩さないヒューイ。それをやせ我慢と見たかエルンストは勝負に出た。


「貴様の限界はともかくとして、時間も限られている−−そろそろ終わりにする」


 そう言うと、剣を肩上まで掲げ切っ先をヒューイに向けた。が、動く様子はない。


「……うわぁ。いつでも来いとでも言いたげなその態度すっごいむかつく!」

「……ふん。先達としての余裕という奴だ」

「むぅ。ぜったい悔しがらせてやるしー」


 お先にどうぞと相手が譲ってくれているのだから行ってやると言わんばかりに、ヒューイは強く足を踏み込んだ。


 −−結果。


「やったー、勝ったー」


 笑顔で喜ぶ勝者と。


「…………不本意だが……。大変、不本意だが、認めないわけにはいくまい……」


 不服な表情を隠しもしない敗者が誕生した。

 念のためアステルがエルンストの怪我を治癒術で完治させた為、大事無いとのこと。ヒューイに至っては、あれだけの攻防をしておきながら無傷という有様だった。


「じゃ、問題も解決した事だし、実戦訓練行くっすか?」

「…………本番、ここから」


 ニヤリと何かを含んだ笑みで告げるローレンツに、何故か大変なやる気を見せるテオドール。


「ええっと……………明日からじゃダメ?」

「はっはっは、何を言うとるか。まだ陣形の確認しかしておらんではないか」


 朗らかに笑うフェルは否応なしに、後ずさりしかけたヒューイの腕を掴んだ。


 その時、ヒューイは己の失敗に気がついた。


 −−勝負に夢中になりすぎて体力配分間違えたぁーーっ!





 翌日、ぐでぐでになった彼の姿があちこちで見られたという……。



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