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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
味噌を求めて三千里&もう一体の魔王?編

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続・うごうごぱにっく

ひさびさの更新ダヨォー!(土下座)


「あの根暗研究野郎……結局逃げ果せやがって……!」

「逃げ足の速さには定評があるっすからねー、悪の魔術師」


 地団駄踏んで悔しがるアルを慰めるローレンツ。何の因果か悪の魔術師の破棄魔物に何度も関わっているからか、もうそろそろ決着を付けたいところなのである。二度あることは三度あるという。すでに三度目なのだから四度目があったって不思議はない。正直言ってとてもうざい。


「まぁまぁ。マッドさんもそんなにハイペースで研究なんてできないだろうし放っておいていいんでは?」


 はぐはぐ。


「……研究、時間……かかる」


 むぐむぐ。


「ぱふぇうまいのにゃー」


 がつがつ。


「……ノーチェ。貴様、少しくらい所作に気をつけようとは思わんのか」


 空気を全く読まずにパフェを貪るノーチェに憤慨したエルンストが彼女を睨みつけた。せめて会話に参加するそぶりくらいは見せろ、と。


「ワガハイはワガハイの好きなようにやるだけにゃ。ニンゲンの指図は受けん」

「例えばそれがアステルの言うことだったらどうする?」

「……うぐぐっ。ワガハイ専属ぱてぃしえを人質に取るというのかッ!?」

「人質とは人聞きの悪い。単に菓子の供給を減らすよう交渉するだけだ」

「んにゃぁ!? ワガハイに死ねというのか!?」


 ノーチェにとって菓子類は人生の楽しみであり人生そのもの。その供給を減らされるとあらば……。


「ぐぬぬ。……ワガハイ、所作には気をつける所存!」


 非常に悔しそうな表情で陥落したのであった。


「うわ、エルンストくんがノーチェを負かした!?」

「アステルちゃん効果がテキメンだっただけのような気もするっすけど……」


「──とにかく! 今までの被害が被害だ。今度こそあの野郎に対する警戒は跳ね上がっただろうよ!」

「だと良いっすねー。三度目ヘールズでは警備のほうがザルでしたけど」

「……四度目、の正直」

「うーん。三度も重なると四度目もあまり期待できそうにないですね」

「あのヒト、あんまり目立つ容貌じゃないもんねぇ……むしろ溶け込むかんじ」


 ボサボサ頭のどこにでも居そうな優男。唯一の特徴は変わった白衣を着込んでいるくらいだが、それも上からローブでも着てしまえば隠れてしまう。


「王立騎士団が、これ以上の被害が出る前にヤツを確保してくれれば良いんだがなぁ……」

「なんだかんだ言って難しいのでは? 直接顔合わせたの僕らくらいですしー」


 なんなら顔を合わせたことのあるヒューイたちでさえ判断がつくかと言うくらいには特徴のない男である。捜査が難航するのは目に見えていた。ので、謎の科学者に関しての話し合いはここまでにすることにしたのだった。


 そして次なる話題は。


「……ああ、そういえば。今回の騒動でしばらく学科は中止だそうだ」

「よっしゃーーー!!」


 アルの報告にヒューイが右手を挙げてガッツポーズをとる。


「お前らわざわざベンキョーしに来たのに、早々に休みなのかにゃ?」

「というか、一番勉強しなくちゃいけないヒューイさんが喜んじゃうのはどうかなって思うんですけど」


 ノーチェとアステルの視線がヒューイへ突き刺さる。


「マジュツ チョット ムズカシイ ……」

「……なんでカタコトなんすか」

「魔術の勉強はいやなんだよぅ……僕、感覚派なんだよぅ」

「理論的に解ってたほうが威力とか上がるんすけどねぇ……」

「今の威力で満足してるからいいよ……これ以上威力求めてないよ……」


 ぶつぶつぶつぶつ……と座り込むヒューイ。

ターゲットロックオンできるだけでも破格なのにこれ以上何を求めるというのか。 


「それに理論的にわかるようになっちゃったら、それこそ本格的に王子様から逃げられなくなるじゃん」

「それは……そうっすね」


 ヘールズにやって来た目的を全否定するヒューイだが、王子の魔術狂いを知っているローレンツからして同意している辺り、彼に目を付けられた人間は相当に酷い目にあっているようだ。


「って言ったってヒューイ。お前の魔術理論の成績、現状だと底辺を滑空飛行中じゃねーか」


 魔術学の先生泣いてたぞとアルがジト目で睨め付ける。


「赤点じゃなければいいじゃないですかぁ!」

「そりゃ宮廷魔術師になるわけじゃないんだから満点を取れとは言わねぇけどな? 平均点くらいはキープしてほしいとは思うんだわ」

「むぐぐぅ……」

「教官。そうは言ってもコイツの場合、記憶喪失前よりはだいぶマシになっているのも事実です」


 珍しくヒューイをかばうエルンスト。滅多にない光景に目が丸くなる一同。驚きと戸惑いの混じった視線を一身に受けた彼はというと。


「なんだ? 俺は何かおかしいことを言ったか?」


「うっわ。『俺なにかやっちゃいました?』を初めてリアルでみた!」

「…………エル、天然、だから……」

「エルンストの場合、自然体じゃからのぅ」


 これでストイックな脳筋でなければなぁと思う一同だった。





「たのもー!」


 バーン!と勢いよく研究室のドアを開けたヒューイ。中にいた制服姿の研究員たちのうち数名はチラリと視線をよこしたが、すぐに各々の研究に没頭しはじめた。


「おぉぅ、ぷろふぇっしょなる……」

「雪うさぎ。研究、の……邪魔は、だめ……」

「えっ、怒られるの僕のほう!?」

「ノックくらいはするべきだったっすねー」

「この雰囲気だと、どちらでも結果はおんなじだったような気がするんですけど……」


 室内を見渡したアステルが恐る恐る指摘した。部屋の中にはただ黙々と机に向かう者しかおらず、来客が来ても対応する人間はいないようだ。


「ダイズもとい小豆を譲り受けに来た者なんですけどー!」

「カーラー家、から……連絡、あった、はず……」


 テオドールの言葉で視線が一斉にこちらを向いた。さすが領主家の名の威力は絶大である。その中の一人が卓を離れてヒューイたちの元へやってきた。


「例のものを受け取りに来たんですね……」


 研究員らしき男性が疲れた様子で一歩進み出た。だが、どうも気が進まない様子である。


「ええと、何か問題があるんですか?」


 一同を代表してヒューイがたずねる。研究員は「それが、ですね……」と、言い淀んでいたが意を決すると、キリッと真面目な表情になって言った。


「いろいろ改良した結果──機敏に動くようになってしまいまして」


 ここ連日それらを実験のため捕まえるのにてんやわんやしているのだという。念の為に確認してみると例の科学者はノータッチだった。


「お ま え ら も か ー ッ !!」


 そして、うごうごフルーツに興味をそそられ研究室を後にする者数名。研究者ってやつはどうしてこう……と一行は頭を抱えた。


「まあ、そういうわけでして。欲しい方には自力で捕まえてもらうしかないんです」


 なにせ我々根っからの文系と無駄に胸を張る研究員。


「自力で捕獲できないようなシロモノを生み出してどうするんだ!」


 真面目なエルンストが吠える。


「いやー、面目ない。だがしかしっ、我々は満足している!」

「意味がわからん! 何に満足しているというんだ!?」

「そこはほら、新たな生命体の誕生に祝福を……的な?」

「生命の冒涜でしかないが!?」

「えっ?」

「──まさかの無自覚!?」


 かわいい仕草で困惑する研究員。やっていることは外道の極みだが。


「まあまあ、そこはそれとして。ちゃんと食べられるシロモノなら問題ないんじゃないカナー……なんて」

「あんなおぞましいものでも食べられれば問題ないのか貴様は」

「そういう生き物だと思えば、まあ。世の中にはゲテモノというジャンルもあるし?」

「…………ならお前はあのゲテモノがまるまるそのまま食卓に上がっても食せるというんだな?」

「…………」


 ヒューイは目を逸らす。素材そのままのビジュアルはお気に召さないらしい。


「ええと……僕としては野生味溢れるごはんよりも、洗練されたごはんのほうが良いっていうかー……」


 もごもご。もじもじ。


「──と、とにかく! 豆を手に入れにしゅっぱーつ!」

「……ごまかしたな」


 呆れ顔のエルンスト。追求する気力はないのかそこからは何も言うことはなかった。



「というわけでやってきたよ、植物園!」

「「おー!」」


 張り切っているのはヒューイとノーチェとテオのみ。他のメンツの顔はひきつっていた。なにせ目の前に広がるのは悪夢のような光景だったからだ。


「え? いやいやいやいやっ、ここまでヤバいなんて聞いてないんすけどぉ!?」

「あ、あのっ、あそこでツタにぐるぐる巻きにされてる人大丈夫なんでしょうかっ?」

「いまにも巨大な食虫植物らしきモノに飲み込まれそうな職員がおるんじゃが……助けた方が良いんじゃろうなぁ」

「言っている場合か!!」


 呆然とする皆より一足早くエルンストが飛び出し、食虫植物に剣を一閃させる。キシャァァという断末魔をあげ崩れ落ちてゆく残骸の中から職員を素早く助け出した。それに誘発されたフェルが槍を振り回してツタを細断、囚われていた職員が地面に崩れ落ちる。


「入り口からこうじゃと先が思いやられるのう……」


 中はもっと酷いことになっていそうである。なにせこの都市にいるのは勉学に励む学生や研究者ばかりで武力が高そうな者はあまりいなさそうなので。魔術を使えばなんとかなりそうではあるが、こんな魔境に進んで足を運ぶ研究狂いがサンプルをダメにするような真似ができるとも思えない。魔術は繊細な制御を必要とするが割と大味なのである。


「この分だと遭難者が確実に何人かはいそうだぞ……」

「こんなんで大丈夫なんすかこの街ェ……」

「放っておくのも何だか寝覚めが悪いですね」


 エルンストのつぶやきにローレンツとアステルも顔を青くしている。


「義務ではないが……見てしまったからな。できる範囲で救助活動くらいはした方がよさそうだ」


 正義感の強いエルンストは「まったくこの街の警備部の目はふし穴か!」と叫びたい衝動を抑えて提案した。


「うーん。ならお豆捜索班と救助メイン班に分ける?」

「そこは救助一択するところだろうが! と言っても聞くお前じゃあなかったな」


 少しだけ悩んで折衷案を出すヒューイ。非人道的な気もするが、大豆採取は自分たちでしなければならない上に彼らがこの都市にいられる期間は限られている。逃すわけにはいかないのだ。


「とりあえず女子には辛そうなジャングルだし、アステルちゃんには警備部へ通報しに行ってもらおっか」


 ちなみに一応女子なノーチェには声もかからない。なにせノーチェは魔の森で生まれ育った野生児だからだ。本人も気にしていないようなので無問題。


「はい! ……でもその後はどうすれば?」

「きょーかんに僕らのことを知らせて、後は自由行動かなー」

「え、でも……」


 エルンストほどではないが真面目で常識的な彼女は、皆が真面目に活動しているなか自分だけ自由行動するのは心苦しいという反応をみせている。


「ならいい機会だから新しいお菓子の勉強でもすると良いんじゃないカナ?」

「そうするがいいのにゃー! ワガハイへの献上品が増えるのにゃー!!」

「……アス、テル。パティシエ、まっしぐら……!」


「あっ、はい。頑張ります!」


 食いしん坊三人組の押しに負け彼女も今後の行動を決めたようだ。


「──じゃ、僕らはお豆を探しにいくねー」


 ヒューイのそばにはノーチェとテオ。エルンストのそばにはフェルとローレンツ。ちょうど良く半分に分かれた一行。


「豆の探索はどうするっすか? 俺っち救助班っぽいっすけど……?」

「…………あ」


 ヒューイ班の中で探索能力がずば抜けているローレンツが抜ければ豆の捜索は難航するかに思えたが……。


「……問題、ない。……俺、いる」

「テオさんっすかー。なら大丈夫っすかね」


 専門家のローレンツには劣るだろうが、全属性の魔術を使いこなせるテオならば難なく探索魔術を行使できるだろう。人命が掛かっている救助班こそローレンツが必要なので渡りに船の提案だった。なおヒューイも特製索敵陣を使いこなせれば人並み以上の索敵能力を得られるのだが、まだまだへっぽこなので無理であった。そもそも今回の学術都市への留学はヒューイの魔術向上が目的である。


「ふん。魔術師の援護が無くとも、豆くらいワガハイが軽ーく捕まえてみせるのだ!」

「豆を捕まえるってのもおかしな話じゃが……」

「そこはもうツッコんだら負けっすよ」

「そうさのう……」


 最近はもう諦めの境地に至っているフェルであった。



 そうして探し始めること数十分。


 普通なら分類されて栽培されているのだろうが、今は自由気ままに動き回る奇怪な存在と化している。ゆえにこの緑おいしげる植物園からちっぽけな豆科植物を探し出すのは骨が折れた。テオドールの探査魔術がなければもっと時間がかかったことだろう。


「見つけたーッ!!」

「大人しくワガハイの腹に収まるのにゃぁぁぁッ!!」


 鬼神の如きオーラを纏い、小さな蔓科植物を追いかけるヒューイとノーチェ。


「……二人、とも……落ち…ついて……」


 ヒートアップする二人に「豆は逃げない」と言おうとしてテオは気がつく。今回の豆はとてもすばしっこく逃げることに。


「そいっ、ほわっ、ちょほほほほっ」

「にゃっ、にゃあっ、にょはぁっ」


 豆を捕まえようと奮闘する2人。無力化しようと何発も打撃を叩き込む。


「みょろろろろろーんっ」


 だが……。


 なんと班内最高速度を誇る二人の猛攻を、うごめく小さな豆はなんとかではあるがくぐり抜けてしまったのだ! それは密かに自分たちの素早さを自慢に思っていた二人のプライドを刺激した。さらに豆は二人を挑発するように罠まで仕掛けて逃げ出していったのである。


 散々転ばされて草まみれになった二人が血眼になって豆を探したのはさもあらん。ちっとも当たらない打撃も二人の正常な判断力を少しずつ奪っていった。そもそも豆の蔓に打撃を与えようとする時点で目的が変わっているような気がするが。


「みょみょみょみょみょーん!」


 勝ち誇って(いるように見える)豆。いきりたつヒューイとノーチェ。見た感じはいつもと変わらないがちょっとだけおろおろしているテオ。


「みょみょんっ!」


 そしてついに豆が反撃に出た。ツタをうならせ二人に襲いかかる。当然避けようとするが……。


「足が、動かな──ぴにゃぁっ」

「ツタだとぅ!? うにゃぁっ」


 いつの間にか仕掛けられていたブービートラップ。それに引っかかって動きを止めてしまった二人に攻撃が当たってしまう。


「雪うさぎ、ノーチェ……っ!」


 崩れ落ちる二人に駆け寄るテオだったが。


「……って。あんまし痛くない?」

「くっ。我輩としたことが、なんか空気読んでしまったのにゃ!」


 ムクリと起き上がった二人に重い怪我は無さそうでケロッとしていた。所詮は細いツル一本での打撃である。


「み、みょみょーん」


 焦りを見せる豆。動きが一旦止まるが……。


「みょろーん!」


 両手?を構えて何かを射出してきた!

バババババッと大量の細かい粒がヒューイとノーチェにぶつかる。


「痛っ、いててててっ!」

「ちょ、おま、待つのにゃ!」


 二人の影になっていたため被害を免れていたテオは、自分がなんとかしなくてはと考えを巡らせた。一番簡単なのは燃やすことだが、それでは素材が燃えかすになってしまう。


「……燃やす、ダメ。……なら」


 杖を構え、詠唱を始める。


「──『霜は降りるすべての大地に』」


 サァァァっと豆の根本を中心として冷気が吹き荒れた。その結果──


「みょ、みょ……みょ…………」


 徐々に冷気に蝕まれた豆は、やがてその活動を停止したのだった。


「まめ……捕まえ、た……!」

「テオ君、すごーい!」

「その手があったかにゃーーー!」


 念のためそろーりそろりと凍りついた豆を収穫する一同。


「カッチコチになってるけど……大豆ゲットだぜーーー!!」


 待っててね、僕のミソスープ! とヒューイの心は躍るばかりであった。



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