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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
味噌を求めて三千里&もう一体の魔王?編

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40/45

1 下準備はとても重要です



「脳内協議の結果、『無ければ作れば良いじゃない』という結論がでました!」


 これがホントの自給自足ぅー! と浮き足立つヒューイ。反対にそれを見せ付けられたアルは、というと。


「——で、何でそれをワザワザ俺に言いに来た?」


 膨らむ嫌な予感のせいか、ついつい塩対応になっていた。ヒューイ関連では、厄介ごとに巻き込まれなかった事の方が少ない。


「きょーかんなら、遠征の場所好きに決められるじゃないですか」

「そうだな、こないだ運動会で優勝したからな……選び放題ではある」


 ちなみに優勝商品ではなく、教官間での賭け事で得た権利である。


「大豆! ぜひ大豆の産地を!」

「却下だ却下! 演習はお前の食い道楽ツアーのためにあるんじゃねぇよ!?」

「演習も頑張りますからぁ! 味噌汁が飲みたいんですぅぅーっ!! おーみーそー!」

「つーか、次の演習先はもう決まってんだよ!」


 アルの放った決定的な一言に、ヒューイの体から力が抜け落ちる。


「なん、だって……。じゃあ、僕の健やか朝食ライフ計画は?」

「知らんわ!」

「……ちなみにドコなんですか?」

「ヘールズだよ。こないだ王族さんに目ぇ付けられたろ? アレ対策な」


 ヘールズは王国の北東にある、主に魔術が盛んな学術研究都市だ。今回は学力向上も兼ねてそこを選んだのだという。テオドールの実家が治めている街でもある。


「例のアレが使えるようになったお前には、特にみっちり勉学に励んでもらう予定だ」

「……おうふ。異世界転生してまで勉強漬けの毎日とか……」

「いせかいてんせい……?」

「いえ、こっちの話ですー。べんきょーは学生の本分ですヨネー」


 怪訝な表情になるアルに、ヒューイは慌てて話をはぐらかす。何か面倒なことになりそうな気がしたので。


「お前がそれを言うのかよって気がヒシヒシとするが。まあ、面倒ごとを起こさないってんなら問題はねーか……」

「ちなみにヘールズ近郊に、大豆農家さんとか居ますかねー?」

「知るか! っつーかまだ諦めてなかったんかい!?」

「お味噌汁は緊急案件なんですよぅ!」

「そこまで気になるなら、テオドールに聞けばいいだろうが。あいつの実家の話だし」


 ヒューイの目から鱗が落ちた。確かに、ニワカのアルから無理やり聞き出すよりは、地元民とおぼしきテオドールから話を聞いた方が効率がいい。オマケにヒューイの同士であるテオドールならば、更なる協力が得られること間違いなしだ。


「きょーかん、ナイスアイディア! さんくすでっす、それじゃあ失礼します!」


 言うが早いか、ヒューイはあっという間に教官室から出て行った。


「……あの行動力をなんで他の事に発揮できないんだろうな、あいつ」


 ……いや、そんな事になったら厄介ごとが増えるのは必然だから、やっぱ今のままでいいか。と、アルは思い直すのだった。





「テオくーん!」


 ヒューイに呼び止められたテオドールがくるんと振り向いた。ふわりとマントもひるがえる。唐突な呼びかけに、彼の顔は傾いていた。


「………………何ごと?」

「テオ君に聞きたい事があってさ。大豆って知ってる?」

「だいず…………白くて、小さくて、固い豆?」

「そう、それ! ヘールズの近くで作ってるところ知らない?」

「…………大学で、研究してた、はず」


 彼が言うには、大豆は元々東方からの輸入品だったのだが、色々と有用なのが判明したのでこちらで栽培するための研究が行われているという。


「……大学で研究って、そんなに大事になってるの?」

「……………食べてよし、燃料によし、肥料によし」


 栄養満点で、油が取れて、残りカスは飼料として使える万能選手。輸入に頼らず自国で生産できればコストも下がると、国も割と乗り気なプロジェクトになっているそうだ。


「うー、これは入手するのは難しいのでわ……」


 流石に国家プロジェクトになっているとは思ってもいなかったヒューイ。個人的な理由で分けてもらうのは難しいように思われた。いっそ他の産地を……とも考えたが、大学で研究されるような物を専門で扱っている農家などあるのだろうか?


「…………だいず、必要?」

「――味噌と醤油を手に入れるためには絶対に必要なの!」

「…………みそ? しょうゆ?」

「調味料の一種だよ。お米の国の人には必需品」


 最近はやたらと「お米の国」を強調するようになったヒューイだが、他意は無い。単に日本人スピリットが暴走しているだけである。


「…………ヒューイが、そこまでいう。おいしいは、必然…………」

「そりゃもう! 僕が好きなのは、ちょっとお行儀悪いけど『ねこまんま』かなー。あっつあつのご飯にお味噌汁をぶち込むあの背徳感がねー」


 日本人だった頃はやったら即座に祖父の鉄拳が頭に刺さるシロモノだったが、いまこの世界に行儀をとやかく言う人間はいないのだ!


「…………おみそしる?」

「味噌を使ったスープの一種だよ。具は好みに応じていろいろ変わるけど、僕が好きなのはタマネギと豆ふ…………あーッ!!」


 突如響き渡った悲鳴にテオドールがビクリと大きく震えた。


「…………………………なにか、あった?」

「テオ君は豆腐って食べ物を知ってる?」

「……とーふ…………しらない」

「ちなみに大豆の主な使用用途って?」

「……スープの、具。とか、油の抽出」


 ですよねーとうなだれるヒューイ。豆腐もそれなりに特殊な作り方をする食品だ。テオドールの話しぶりからすると、どうもゼフィアランスに大豆の加工食品は存在していないらしい。

「こうなったら大豆革命を起こすしか……!」

「……おいしい、革命、なら。全面協力!」


 テオドールの言葉に感極まったヒューイはガシリと彼の手を取った。

これが後の世で語り継がれる「ユストゥス・カーラー同盟」締結の瞬間であった。





「――というわけで、まずは下準備でっす」


 あくる日、場所は調理室。


「……あのー、どうして私が呼ばれたんですか?」

「料理と言えばアステルちゃんだからです」


 なぜ自分が呼ばれたのか説明すらされていなかったアステルが不安そうに疑問を口にした。のだが、返ってきた答えは答えになっていない。


「ホントは今回じゃ無くても良かったんだけど、なんとなくー」

「え? 私いらない子なんです!?」

「いやいや、我がプロジェクトにおいては最重要人物ですとも」

「……ヒューイさん、今度は何をするつもりなんですか?」


 じとーっと何かを疑うような目でヒューイを見るアステル。


「そんなぁー。アステルちゃんにまでそんな目で見られる日が来るなんて! 僕はただ単にお味噌汁が飲みたい一心なのに!!」

「おみそしる?」


 くてん? と首をかしげるアステルにカクカクシカジカと味噌汁について説明する。


「そういうことだったら協力します! ヒューイさんがそんなに一生懸命になるってことは大事な事だから、なんですよねっ?」

「うん! お米の国の人のホームシックを治すには効果覿面なお薬だよ!」

「ホームシックですか……よく旅行者の人がかかるっていう病気ですよね。中の人もタイヘンなんですねぇ」

「既に中の人がらみと察知されている、だって!?」

「だって、知らない食べ物が絡んでる時は大抵中の人がらみじゃないですか」

「ですよねー」


 厳密に言えば、雪山訓練以降のヒューイの所行は全て『中の人』絡みではあるが、記憶喪失後に判に加入したアステルにはあずかり知らぬ所だ。


「――さて、と。気を取り直していってみよー! と、いっても今日の作業は至って簡単だよー」


 サッと取り出したエプロンに身を包んだ彼が取り出したのは……。


「餅米の粉でーす! これを水と混ぜてこねます」


 餅米の粉と水を混ぜ、こねこねーっと捏ねて一まとめにする。


「そしてこれを放置します。終わり」

「え、放置しちゃうんですか!?」

「うん、放置しちゃうの」

「そんなことしたらカビが生えて食べられなくなっちゃいますよ?」

「ぶっちゃけそれが目的です」


 力強く肯定の意を伝えるヒューイ。だったのだが。


「………………え、えぇぇぇぇっ!?」


 アステルから返ってきたのは悲鳴だった。


「な、何故にそんな反応が……?」

「だって、食べ物ですよ!? 食べ物を粗末にするような真似をヒューイさんがするはず――っ、わかりました偽物ですね!」


 キリィっと名探偵が犯人を指さすがごとくポーズを決めるアステル。まさかそんな反応が返ってくるとは思いもしていなかったヒューイは慌てた。


「ち、違うよ! 僕、ニセモノじゃ無いよ!!」

「なら証拠を出してください!」

「証拠? って言ったって一体何を出せば……」

「なら偽物決定ですね! 本物のヒューイさんを何処にやったんですか!?」

「えぇぇぇぇ!?」


 誰かヘルプミー! その心の叫びを聞き届けたかどうかはわからないが、救世主が通りかかった。


「にゃーん。アステルが調理室にいると聞いて、ワガハイ参上にゃ!」

「ノォォチェェェ!!」

「ビニャァァァッ! って、何にゃ!?」


 いつもと様相の違うヒューイに目を丸くするノーチェ。


「アステルちゃんが僕のことニセモノ扱いするんだよぅ」

「なぬ? アステルの逆襲なのかにゃ?」

「違います! ヒューイさんの行動がおかしすぎるから、偽物なんじゃないかと思って……」

 そうしてこれまでのやりとりをノーチェに説明するアステル。果たしてノーチェの判定は――


「……ふむ。ニセモノだな」

「ですよね? ノーチェさんもそう思いますよね?」

「紛れもなく本物だよ!? 二人の目は節穴だよ!!」

「ならば何故、食べ物を粗末に扱った?」

「餅米さんは貴い犠牲なんだってば! 新たな食材を作り出すための!」

「新たな食材…………お菓子か?」

「――残念。調味料です」


 お菓子ではないと知った途端に「なんだつまらん」と、ノーチェは一切の興味を無くした。


「ほんと自分の欲望に正直だよね、ノーチェは」

「それ、ヒューイさんには言われたくないセリフ第一位ですから!」

「なんでさ!? ま、まぁ、誤解も解けたみたいだし今日の作業はこれで終わりでっす」

「……やっぱり私がいた意味って無かったんじゃあ?」


 今回アステルがした事といえば、ヒューイの作業を見ていただけである。


「そこはほら、やっぱ見ていてくれる人がいないと寂しいっていうかー……」

「次はちゃんと私ができる事あるんですよね?」

「もちろん! 次の作業はアステルちゃんが主役だよ! ……むしろアステルちゃんがいないと無理な作業でっす。ほら、分析魔術あるでしょ? アレを使ってもらいたいんだ」


 分析魔術……カビ……。そこでアステルの頭にピンとくる物があった。


「そういうこと、ですか。ブルーチーズみたいな感じを目指してるんですね」

「ちょっと違うけど、発酵食品を作るための下準備ってヤツかなー」

「ふぇぇ……ヒューイさん、そんな領域までカバーしてるんですか」

「んー、うろ覚えの知識だからちょっと不安なんだよねー。だからこそアステルちゃんの分析魔術にあやかりたいっていうか」

「わかりました! そういうことなら私、最後まで協力します!!」


 この力強い返事の結果が判明するまで、ひと月ほどの時を要する事になる。





「さーて、下準備も終わったし他にできること無いかなぁっ?」


 ウキウキ気分で学園の廊下をスキップするヒューイ。新しいことにチャレンジした直後は気分が高揚するものではあるが、少々浮かれすぎだった。彼の肩にドッシリと居座るノーチェは呆れ気味に彼を見る。


「なぁ、ヒューイよ。新しい菓子のアイディアとかは無いのか?」

「んー、大豆関連なら、ずんだとかきなこもちあたりかなー? 黒蜜があれば、ごどうふとかもイイねぇ」


 ……あれ、ごどうふって豆乳だったっけ? と、首をかしげる。


「ふむふむ。で、それはいつ食えるのだ?」

「ざんねんでしたー。最優先は味噌と醤油なので後回しでーす」

「ふにゃぁぁぁッ!? キサマ、ワガハイに期待させておきながら、オアズケだと!?」


 シャアアと爪を立ててヒューイの肩をタップするノーチェ。よほど悔しかったようだ。


「聞かれたから答えただけで、作るとはみじんも言ってないってば」

「——なぬ!? それはミソとショーユを作り終えても作らないということ、か……?」


 呆然とつぶやくノーチェ。かなりの衝撃を彼女に与えたようだ。


「だって、まだ材料確保できるかわかんないんだもん」

「確保しろ! そしてワガハイに菓子をぉぉ!!」

「却下ですぅー」

「にゃふぅぅ!」

「まぁ作れてもきなこもちくらいかなぁ。ごどうふは作り方わかんないし、ずんだはちょっと材料が特殊だし」

「まぁ良いだろう。そのきなこもちとやらで勘弁してやるのだ」


 すっかりその気になっている彼女にヒューイは苦笑いを浮かべるのだった。



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