プロローグ
それはヒューイの一言から始まった。
「ミソスープが飲みたい」
作業をしていたローレンツの手が止まる。
「なんスか? ミソスープて」
聞いたこともない名前に、当然疑問の言葉が出る。
「ミソで作ったスープです。別名、味噌汁」
「安直すぎてかえってわかりづらい!!」
「だって大豆の国の生まれだもの。……なお輸入率は九割」
「それもはや大豆の国じゃないっすよね、別の国っすよね!?」
一割しか自足出来てないじゃないっすか! と、ローレンツの鋭いツッコミが火を噴く。が、ヒューイはどこ吹く風。
「でも麹菌がないからむりー……麹菌さえあれば、アコガレの醤油さんも夢では……ない?」
あれ、要るんだっけ? それとも要らないんだっけ? と、かぶりを振るヒューイ。どうも知識があやふやなようだ。
「中の人の記憶が戻ってから、いっそうこだわりが強くなったっすねー……」
「だってお米の国の住人だもの! 朝はやっぱり白いお米と味噌汁とシャケの切り身だよね!」
ほっかほっかに炊けたお茶碗山盛りの白いご飯――もち米にあらず――に、豆腐とわかめのオーソドックスな味噌汁。そして、いい感じに焼き目の入った塩で味のついたシャケの切り身を朝餉として頂くのは日本人的には幸せの一つと言えるのではないか?
とうとうと幸せいっぱいに語るヒューイだが、現物を知らないローレンツにはサッパリだ。トーストとスクランブルエッグとコーヒーのトリプルコンビみたいなものだろうか? と、当たりを付けた。
「あ、シャケは目玉焼きでも代替え可。ちなみに僕は塩胡椒派だよ!」
「何の自己アピール!?」
ウスターソース? 邪道だね! マヨ? 材料一緒じゃん。醤油はゆるす。日本的朝食談議から一転、調味料の話へと変わっていく。
「でも、こっちの世界にはソースもマヨネーズも醤油も無いんですよねー……」
日本って恵まれてたんだねぇと寂しげなつぶやきだけが嫌に響いた。




