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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
大運動会?武闘大会の間違いでは?編

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8 エピローグ



 四年生の優勝チームから表彰がはじまり、観覧に来ていた王族——第二王子——手ずからトロフィーが渡され、会場を声援が満たした。


 そんな中で。


「あうあう……緊張するぅ。作法間違えたらどうしよう?」


 やたらうろたえていたのが、先頭にチーム代表として立つヒューイである。暴君の礼儀作法教室を乗り越えたものの、いざ実践となると空気が違う。


「落ち着け。お前の場合、いざとなったら頭を空っぽにすれば何とかなる」


 後ろに立つエルンストは「お前は体で覚えるタイプだからな」と、中々にひどい言いようである。


「それは褒められてるのでしょうか?」

「そんな訳ないだろう」


 とかなんとかコソコソと会話しているうちに二年生の表彰——つまり、ヒューイたちの番が来た。


「む? 君は——」


 他の学年には素気無く対応していた王子だったのだが、ヒューイを目にした途端に彼はやたら興奮しはじめた。


「まさか決勝で、あのような革新的な魔術を見ることになるとは思わなかったぞ!」

「は、はあ……」


 そして唐突にヒューイの手をガッシリと握りしめる王子。ちなみに第二王子、魔術を専攻して研究している魔術オタクであった。彼の目にあの黒歴史魔術はたいそう魅力的なものに見えたらしい。


「君とは後日是非、魔術技術向上のために意見交換をしたい!」

「いや、その、あれ作ったの僕じゃなくて……ですね?」

「——なんと!」

「後ろにいるテオドール君とローレンツ君の合作っていうか……」

「テオドールというとカーラーの末っ子かい!?」


 生憎とローレンツ君の名前は初めて聞いたがと、王子が驚きの声を上げる。ヒューイはよく知らなかったが、テオドールの実家はもちろん、彼自身も魔術界隈では期待の星として有名だ。王子も彼に目を付けている人間の一人である。

 王子の叫びにびくりとテオドールが震えた。突然、水を向けられたのでビックリしたらしい。ローレンツは何故か青い顔をしている。


「——そうか。では後日時間をとって話そうじゃあないか!」


 そう言って王子は返答を聞くこともなく、上機嫌で一年生の表彰へと移っていったのだった。


「ロー君、なんか顔色悪いけどだいじょぶ?」

「あの王子サマ、魔術の事になると質問魔になるって評判なんすよぉぉ……。うーあー、ヤバイヒトに目ぇ付けられたぁぁ」


 そんなローレンツにヒューイが送った言葉は……


「おつでっす」

「既に他人事!? ヒューイさんのせいっすよねぇぇぇ!?」


 小声ながら感情のたっぷり乗ったローレンツの心の叫びだったが、ヒューイは受け流した。下手に確約を取られて関係者にされてはたまったものではないからだ。


「…………俺、は無問題」

「そりゃ、王子とおなじ魔術オタクなテオさんは問題ないでしょうけどね?」

「…………楽しみ」


 かくして一人だけが得をするという事態におちいったのだった。





 そんなこんなで運動会終了から数日。


「——で、今回一連の騒動じゃが……結局、誰の差し金だったんじゃ?」


 フェルの当然と言えば当然の疑問。


 ちょっと考えてみただけでも人為的なハプニングの多い数日間だった。各々で独自に犯人追求の手を打ってはいたが、こうして集まって情報を持ち寄るのは初めてだ。


「和スイーツカフェの妨害はやっぱりフュッテラー君だったねー」


 騒ぎ立てたゴロツキ共々、鉄拳制裁済みでーす! と明るく告げるヒューイ。ゴロツキに関してはエトガル襲撃もゲロったとの事で、近く王都で捕縛される予定である。


「武器のすり替え犯は、フリージオ班に賭けてた教官連中だったな……」


 問い詰めたら逆ギレでぶちまけられた、とアル。ヒューイ班の強さは先の魔物襲撃で判っていたので、せめて弱体化をと狙ったのだという。犯人の中にはアルを嫌っている教官の姿も多数あり、怨恨の可能性は高い。


「差し入れは反魔王派の仕業だったみたいっス」


 との報告をしたのは謎の情報網を持つローレンツ。反魔王派が、着々と増えていく親魔王派を減らすべく一計を案じた結果、魔王のさらなるパワーアップに繋がってしまい、現在彼らは意気消沈しているらしい。


「…………なんというか。ワシらの周りは敵だらけだったんじゃなぁ」

「主にヒューイさん関係な気がしなくもないですけど……あ、教官もですね!」


 明るく告げるアステルの声が痛い。バツの悪い表情になるヒューイとアル。


「暴君くんの所業はともかく、好きで魔王呼ばわりされてる訳じゃないのにぃ……」

「俺だってしがない普通の教官だっつうの!」


 二人が言い訳じみた呟きを漏らすが、誰一人としてかばうものがいないというのは、そういう事なのだろう。


 ——気まずい沈黙。


「そ、それにしてもヒューイさんの魔術、凄かったですよね!! 王子様も絶賛してましたし!」


 術名が意味不明でしたけど! と、付け足したアステルの言葉に「ぐはっ」とダメージを受けるヒューイ。術名の改名と術式の再調整は急務のようだ。いや、実際に取り掛かってはいるのだが良い塩梅の術名が浮かばないのである。そして名前が決まらなければ、術式の再調整もままならないと来た。


「もう、シンプルに『ダークショット・ホーミング』とかでも良い気が……」


 次に使う機会がいつ訪れるかわからない昨今。そして、そう語彙量がある訳でもないヒューイ。いい加減この辺りで妥協したいところなのだが、待ったをかける人物がいる。


「いや、まだだ。まだ黒歴史臭が抜けてねぇ!」


 アルである。運動会決勝時における初お披露目で、ヒューイの黒歴史ご開帳にアババしてしまった彼は、責任を感じていた。あと担当教官という立ち位置上、アレに匹敵する名称を何度も聞かされてアババするとかとんでもないという一身上の都合もある。むしろそちらが大きいかもしれない。


「ワシは魔術には疎いが、テオドールのように即興の詠唱では駄目なのか?」

「索敵陣の追跡機能と同期させるには、決まった文言を記録しとかなきゃだから……」


 即興で詠唱すると、追撃機能が無い普通の魔術が発動するだけである。


「ほら僕ってつい最近、魔術が使えるようになった素人だからねー。テオくんレベルを求められても困るっていうか?」


 実際、追尾魔術は魔力頼みの力押しだったりする。即興で索敵陣に術式を組み込めるほどの技能はヒューイにはない。


「とゆーわけで、きょーかん。『影追い』辺りで手を打ちません?」

「むぅ……それならなんとか」


 アレルギーも弱めだし良いか、とアルが妥協した。





「そういやヒューイ。お前、記憶戻ったんだって?」

「『中の人』のが、ですけどー」

「そっちかよ!?」

「ごくごく平均的な一般市民でした!」


 気合い入れたらなんか衝撃波みたいなの出せるけど、フツーの平民です! と胸を張るヒューイ。


「……やっぱ人外魔鏡っすね、中の人の故郷」


 一般市民でも気合い一つで武技を出せるなんて……と、青い顔で呟くローレンツ。


「いや、フツーは衝撃波とか出せないよ? 単に僕にそういう才能があったってだけで」


 何故かは知らないけれど。と前置きしたヒューイが困り顔で言う。


「普通は武技が使えないとなると……魔物とか出た時はどうしてたんだ?」

「いや、魔物とかほとんどいなかったですし!」


 世間的には存在しないとすら言われていたのだが、全くいないと言えないのは彼の体質による所が大きい。幽霊やら何やらが見える体質だったせいか、その類に遭遇することが多かったのだ。


「へー、魔物があまりいないなら騎士団の仕事がラクになるな」

「あっちじゃ魔物の相手は退魔師、人の相手はケーサツっていうのがしてたんですよ……」


 魔物は秘密裏に退治され、一般人には周知されていなかった事も含めて説明するヒューイ。


「つーか、そんな事情知ってる時点で『普通の一般市民』じゃなくね?」


 アルのツッコミにヒューイの動きが止まった。


「………………ハッ!? 言われてみればそうかも!!」

「よし! 本人も気付いてなかった秘密を知ってしまった所で終了だ!」


 何か知ってはいけない秘密を知ってしまったようなので、強引に会話を終わらせるアル。世の中には知らない方が良い事がごまんとあるのだ。


 何か他の話題を提供しろ! という無言の圧力。


「…………ヒューイ。特別食券、どうした?」


 ヒューイとテオドールのやる気を爆発させた起爆剤である特別食券は、何故かヒューイが管理することになっていた。ナントカに刃物もかくやという所業である。


「とりあえず、暴君くんの教えてくれた料理に一枚使うのは決定なんだけど……」

「……楽しみ、楽しみ」


 ウキウキと体を揺らすテオドールとは裏腹に、ヒューイの顔は暗い。


「なんか、いざ手に入っちゃうといざという時のために取っておきたくなっちゃうっていうか」

「——あ、それ知ってるっス。もったいなくて結局最後まで使えないパターン」

「ですよねー」


 有効期限が切られていないのが唯一の救いだったりする。


「誰かのお祝いの時に使うとかどうですか?」


 アステルが提案するも——


「この中でなんぞ祝う事がある者はおるんかのう?」

「強いていうなら今回の優勝祝いくらいだな」

「それはもう暴君くんの特別メニューで埋まってるからねぇ……」


 目下の彼らの悩みはこの特別食券の使い道になりそうである。



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