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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
大運動会?武闘大会の間違いでは?編

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37/45

7 漢字と読みが違うアレ



 和スイーツ喫茶での騒動から二日。運動会と学園祭は早くも最終日を迎えていた。なお、騒動の黒幕はよほど念入りに準備したのか未だ判明していない。


「よーし、お前らよくぞ決勝まで勝ち抜いたな!」


 初戦からの戦いの数々は割愛するが、危なげなく普通に勝ち上がってきたヒューイ班。元々ズバ抜けて戦闘能力のあるエルンストとヒューイがいるのが大きいが、何度か実戦を経たおかげか連携もそこそこ上達していたのが勝因だ。

 ちなみに運動会前に宣戦布告してきたフュッテラー班だが、一回戦敗退でヒューイ班とはかすりもしなかった。何がしたかったのだろうか。


「そういえばきょーかん。結局、賭けの商品って何なんですか?」


 ここまできたら話してもらうぞという空気に、アルは「あー、そのまあなんだ」と頭を掻きつつ、ついに白状した。


「今後の実習での優先権とかイロイロってとこだ」


 以外にも真面目だった答えに「おおー」とどよめきが起きる。


「……ぶっちゃけお前らの事馬鹿にされて頭にきてなー。売りことばに買い言葉で取り付けた約束だったりする訳だが」


 ちなみにヒューイ班のオッズはシード権を持っているにも関わらず高めだったとか。……今までの素行の悪さが数値に現れているということか。


「ふむ。教官もたまには真面目に教官業をしてくれているのだな」

「エルンスト、それどういうイミだ!?」

「今のはさすがに酷いと思うよ? エルンストくん(もっきゅもっきゅ」

「………教官、たまには、シリアス(ごっきゅごっきゅ」

「キョーカンもたまにはキョーカンしてるのだ(もぐもぐ」


 すかさずフォローに入るヒューイとテオドールだが、なにやら様子がおかしい。便乗してノーチェも口をもごもごさせている。


「フォローは嬉しいけどな? お前ら試合前に何飲み食いしてんの!?」


 アルの叫びに、二人揃って机を指差す。そこには『差し入れ』と書かれたカードと、お菓子・飲み物の数々。彼らが先程からもっきゅもっきゅ、ごっきゅごっきゅしていたのはこれが原因で間違い無い。


「——って、基本的に学生規模の武術大会でこれだけの差し入れなどある訳ないだろう!?」

「あ、あからさまに怪しい罠じゃな……」

「急いで成分を分析してみますっ!」


 慌てて菓子や飲料に仕込みがないか調べるアステル。


「ほら、二人ともペッしてくださいっす! ほらほら、ペッ!」


 ローレンツは、これ以上食べ物を口にしないように促すが、逆にゴックンしてしまった二人。


「ちょおおおっ、ゴックンしちゃダメでしょ二人ともおおお!?」

「おいしかったよ? なんかちょっと草っぽい味がしたけど」

「…………この味、ヒュプヌーン草」


 確かな舌を持っていても、持ち腐れという言葉がよく似合う二人である。


「ええっと……分析結果、出たんですけど聞きます……?」

「遅効性の眠り薬じゃな。ヒュプヌーン草となると」

「陰湿極まりないな犯人。的確過ぎて逆に関心しそうになるぞ……」


 完全に特定メンバーを狙い撃ちに来ている罠の存在に戦慄するアル。


「アステル、とりあえずヒューイ優先で応急処置を。テオドールは最悪、試合開始後でも構わん」


 エルンストの指示で治癒術をかけ始めたアステルだが、すでに効果が出始めているのかこっくりと舟を漕ぎ始めているヒューイ。


「キョーカン、これ全部食べて良いか?」


 混乱の中、何食わぬ顔で催促する猫が一匹。


「お前は効いてないのかよ!?」

「ワガハイこれでも野生。眠り草なんて食べ飽きて耐性がついてる程だ!」

「自慢になんねぇ!! が、食ってよし。こんな危険なブツでも食い物だからな」


 捨てるには忍びないなどとアルは弁解したのだが、要はただの貧乏性だった。食べ物を残すとうるさいのが数人いるというのもある。


「ああっ、大変っす!!」

「どうした、ローレンツ!」

「もしやと思って調べてみたら、用意されてる武器が明らかにグレードダウンしてるっすよ!!」

「クッ、この念の入れよう。犯人はどうしても俺たちを負かしたいらしい……!」


 エルンストは怒りのあまり壁に拳を打ち付けたが、今から申告したのでは武器の手配が間に合わない。試合開始まであとわずか、時間がないのだ。


「ここまで来ると教官連中にも共犯が居そうだな、こりゃあ」


 武器の最終チェックは試合に関係ない班の教官がすることになっているのだ。となれば自ずと答えは出て来る。


 それでもアルはヒューイ達の勝利を信じていた。この程度のハンデで負ける奴らではないと。





「では決勝戦。ヒューイ班対フリージオ班の試合を始める!」


 審判の声が響くと同時に、会場中から歓声があがる。開始早々に距離を詰め、さっそく相手に斬りかかったのはエルンストだった。


「——貴様らにいくつか聞きたい事がある」

「なんだい、ライン家のおぼっちゃんよぉ!」


 エルンストの問いと斬撃に、嘲るように答えたのはフリージオ班の前衛をしている男子生徒だった。キインと金属がぶつかり合う音が響く。


「控え室の差し入れと武器の件、と言ったら判るか?」

「は? どこの世界に対戦相手に差し入れするバカがいるんだ?」


 話を聞きつつ機を伺っていたフリージオが、ガラ空きになった側面からエルンストに斬りかかる——が、


「それもそうだ——なっ!!」


 彼は切り結んでいた前衛男子の腹に一発蹴りをいれて離れた隙に、フリージオの一撃を打ち払った。


 フリージオは差し入れの件については口にしたが、武器については言及しなかった。


「武器の件には一枚噛んでいるとみえる」

「なんとしてでも去年の雪辱を晴らしたかったからな!」

「雪辱も何も、去年は貴様らが勝利しただろうが」


 ——そう。昨年度の一回戦でヒューイ班とフリージオ班はぶつかっていた。個々の戦力は高くとも指揮がメチャクチャで連携の取れないヒューイ班。それに対しフリージオ班はバランスのとれた構成に、的確な指示の元で戦い当然の結果として勝利した。


「お前達に勝ってしまったばかりに辛酸を舐める結果になったんだよ!!」


 思わず滲み出る涙を堪えてフリージオは叫んだ。他の班員たちも似たような表情で彼に同意している。


「俺の父はユストゥス侯に目をつけられたせいで、心労がたたって倒れた!」

「ウチの兄貴はレオン先輩に扱かれたせいで、長期入院して留年した!」

「僕の兄さんはジーク先輩に彼女を取られて寝込んだ!」


 次々に恨み言がでてくるフリージオ班の面々。


「……ああ、ヤツの家族ならやらかしかねんな。最後の奴は逆恨みだろうが」


 多分、本人達が意図していたのとは別方向に。


 暴君はおそらくフリージオたちを懲らしめたい一心で家族に話しただろう。だが、家族たちには対ヒューイフィルターがかかっているので、事実は曲解される。つまり——凄いうちの子を倒すなんて将来が楽しみだな、といった具合に。


 ユストゥス侯が純粋な気持ちから「君の息子さん、うちの子を倒すなんて凄いな」などと言ったとしても、悪名の高さから勘違いを誘発するだけだろう。いかにも何か企んでいそうな風貌なので。

 ヒューイの兄であるレオンも「見所あり」と、彼らの兄達をしごいた結果やりすぎたのではなかろうか?

 最後の、ヒューイのもう一人の兄であるジークに関しては、単純に時期が悪かっただけだろう。


「——とにかく! お前たちの優勝だけは絶対に阻止してやるッ!」


 フリージオは鼻息荒く宣言した。





 エルンストが奮闘している間、肝心のヒューイは、というと……。


「——うぅ……」


 薬の影響が完全には抜けておらず、強いめまいに思わず倒れそうになっていた。だがそれをなんとか堪えてとどまる。


 しばらくするとアステルの応急処置が効いてきたのか、立ちくらみで暗くなっていた視界が次第に鮮明になってきた。そしてその中で、ハッキリと断言できる出来事があった。それは——


「——思い出しちゃった……ていうか、よりにもよってこっち!?」


 唐突に戻ったのは——暴君ではなく『中の人』の記憶。だがこの状況で暴君の記憶が戻るよりはマシだった。なにせ『中の人』の記憶があれば、できる事が増える。


「今なら『アレ』が使いこなせる……だけど——ッ」


 それは索敵陣を使った一斉射撃。それは一種のプログラムの組み合わせなのだが、中の人には多少の心得があった。問題は——


「あの時の……技名がどーたらって相談した時の教官の気持ちがすんごいよく解るッ!」


 頭を抱えるヒューイが思い出すのは、技名について相談した時のアルの様子。今思えばひどく酷な事をしていたと理解できる。傷口に塩を叩きつけてグリグリと塗りつけるような兇行。彼には後で謝っておこうと、心の中で決意する。

 それはともかく、今はやるしかないのだ。もう索敵陣は『それ』用にカスタマイズされていて、とてもではないが直す猶予はない。ノリッノリでテオドール達に依頼した過去の自分を殴りたい。


 ヒューイが躊躇している間、なんとか一人で戦線を維持していたエルンストが倒された。流石に劣化した武器で二人の前衛を引き付けるのは無理があったのだろう。フェルもフリージオ班の後衛が放つ魔術と中衛に手を取られて動けない。

 テオドールは変わらずダウン中で、治療中のアステルは言わずもがな。ローレンツでは前衛二人の相手は難しく戦線を維持できない。


 この状況で逆転の手を打てるのはヒューイだけ。


「——うぅっ。これもう僕がやるしか!」


 少々の逡巡ののち、彼は決断した。


「——起動リベレイト


 ヒューイの声で、光り輝く魔法陣がその眼前に浮かび上がる。学校の生徒ならば必ず見覚えのある索敵陣だ。——ただし、この索敵陣はローレンツ並びにテオドール両名の手で魔改造されたものである。


「——敵識別カウト確定ヴェーレン


 魔法陣の一部がシュインっと音を立て、その中にある六つの丸印が白から赤い光へと変わった。ヒューイの動きに気付いた前衛二人が驚きを露わにする。何故なら、ヒューイが魔術を使えるなどという情報が無かったから。しかも、いま彼が使っているのは一見して見れば攻撃魔術ですらない。だからこそ大きな隙が生まれた。


「——その時間が命取りだよ」


 おかげで決心もついた。後はアレの詠唱をするだけだ。あの、こっぱずかしい詠唱を!


「……………………ま、謀略と謀反の闇マジカルディスターヴ!!」


 瞬間、キュルンとフリージオ達の眼前にそれぞれ現れる小さな陣。次にヒューイの影から生成された無数の黒い弾丸がその陣目掛けて射出された。彼らは慌てて避けようとするが、それに合わせて陣が動き、弾丸も軌道を変える。


「完全ホーミング式の弾丸。避けられるものなら避けてみなよ!」


 ヤケになって叫ぶヒューイ。「あははは!」などの高笑いも駆使しつつ挑発する彼の姿はまさに悪役だった。


 そして、この状況に追いやった者たちへの恨みの念と魔王の魔力で形作られた弾丸は結構な強度を持ち合わせており、生半可な腕では打ち砕く事などできはしない。学生であればなおさらに。


 結果——なす術なくフリージオ班は壊滅した。


「フリージオ班、戦闘不能! ヒューイ班の勝利!」


 審判の声が響く。

 すると……ヒューイが弾丸を放った辺りから静まり返っていた会場から、ワァァァァと盛大な歓声が上がった。

 その様を目の当たりにしつつヒューイは……「こふぅッ」と咳き込んで倒れた。精神ダメージが許容値を超えたらしい。


 ——ちなみに。


「ぐっはぁ!!」

「どうしたのだキョーカン! 傷とか全然無いのに何でダメージ受けてるのニャ!?」


 観客席で観覧していた担当教官——間接的な魔術名提案者——が、ヒューイ同様精神ダメージを受けて吐血一歩手前までいったことを彼は知らない。



  

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