1 だんごといえば三色
「じゃあ、今年の学園祭での出し物を決めたいと思います。何か案のある人はいますか?」
クラス委員長の言葉に、ざわつく教室。そして何故かヒューイへと集まる視線。理由がわからず「え? 何?」と戸惑うヒューイに、ローレンツからの助け舟が入った。彼は席が隣なので、何かとフォローしてくれるのだ。
「去年はヒューイさんのゴリ押しで出し物が決まったから、みんな怯えてるんすよ……」
「一体何をしたのさ、去年の僕ぅ……」
「権力使いまくりの脚色華美。有る事無い事盛り込んだ一大スペクタクルな劇、『ヒューイ・フォン・ユストゥスの軌跡』っす」
「うわー、それは酷い。黒歴史的な意味で」
覚えてなくて良かったと心底からヒューイは思った。彼は自分の前で話題にされなければ気にしない人種であった。知らなければ、そもそも恥ずかしくなったりしないのだ。内容に関してはぜひこのまま闇に沈んでいて欲しいものである。
「大丈夫。今年はそんなバカな真似はしないから!」
「まあ、今年は別の意味で不安なんすけどねぇ……」
高らかに宣言するヒューイにローレンツはため息をついた。
「どゆ意味!? 今の僕はどちらかというとフツーの部類だよ!?」
「いや、割と普通じゃないっすから」
ああでも『どちらかというと』って言葉が出てくる程度には自覚があったんだな、と二人の会話を聞くクラスメイト達は思った。
「——では。出し物の案がある人は挙手してください」
クラス委員長がこほんと咳を一つ。場の空気を改めたところ——
「はいはーい!」
「あー、はい。ユストゥスくん」
さっそく手を挙げたのはヒューイだった。別の意味でクラスに戦慄が走る。今年は一体どんな無茶振りがくるのか……暴君と違って魔王様の動向はいまいち不明なため、不安が拭えない。
「カフェスペースが良いと思います!」
『お前が何かを食べたいだけだろ』とクラスの誰もが思ったが何も言わなかった。去年に比べれば無難なチョイスだったからだ。現実味があるだけマシともいう。そしてヒューイの提案を皮切りに、クラスメイト達からも声が上がり始めた。
「そういや、いま王都じゃ小動物と触れ合えるカフェが流行ってるらしいぞ」
「それをいうなら和スイーツだってそうよ!」
ある男子生徒がいうと、負けじと他の女子生徒が反論する。
「今年はカフェスペースというのは決定で良いですか?」
口論になりかけた所で委員長が決を採る。他にも意見があるかもしれないからだが、幸いにも満場一致でカフェをする事になった。
だが問題は予算だ。二つの企画を両立するのはどうしても無理があった。動物の調達にかかる費用や和スイーツの代金である。和スイーツは安くつくかと思われがちだが、材料に輸入品が必要になるので意外と割高なのだ。
「どちらにするか投票で決めます! 少し時間をとるので、その間に決めてください」
途端にざわつく教室。なんだかんだ言いながら皆やる気に溢れていた。
「動物カフェかー」
「徹底的にこだわるなら、予算的に捕獲からか?」
「おーい、誰かテイマー資格持ってるやついるかー?」
「初級でいいなら、わたし持ってるよー」
動物カフェに乗り気な生徒たちは次々と案を出し合っていく。
「せめて中級いないと不安じゃね?」
「確か隣のクラスにいたぞ」
「確保だ確保ー」
「いやいや、まだ気が早すぎる。投票結果出てねーじゃん」
一方、和スイーツ派も負けてはいなかった。
「和スイーツカフェも良くね?」
「問題は和スイーツの調達だよね」
現在、類似品も出回ってはいるが和スイーツは人気があるのですぐに売り切れてしまう。和スイーツの調達、目下それが一番の課題だった。
「もう、自分たちでオリジナルのお菓子作った方が早くない?」
「誰か製菓クラブのやつ呼んでこいよー」
「あ、ヒューイくんならツテがあるかも……」
チラッと女子生徒が視線を走らせた先では——
「わふわふも捨てがたいッ、でも和スイーツも……!」
「………………俺は、断然、和スイーツ!」
「二人とも欲望がダダ漏れっすねー」
二つの間で揺れるヒューイと、断然食べる派なテオドール。それをジト目で眺めるローレンツ。
「けど意外っすね。ヒューイさんが食べ物に速攻飛びつかないのって」
「わふわふは人類にとっての癒しなんだよッ! ……そうだ、和スイーツを出すわふわふカフェなら問題は解決……!」
「予算的に厳しいから、投票になってるんじゃないっすか」
「ぐふっ。そうだった……。あ、こんな時こそ権力を……ってダメだぁ! それじゃ去年と同じ轍だぁぁ」
実家は喜んで全額負担してくれる上に至れり尽くせりだろうが、そこにはヒューイ自身が許せない一線というものがあった。何よりも、クラスメイトたちと一緒にワイワイガヤガヤと準備するのが学園祭の醍醐味である。わざわざ潰すような真似はしたくはない。
「うぅ……どっちか一つ……」
「そういえば、さっきから動物カフェの事、珍妙な名前で呼んでるっすけど、わふわふって何なんすか?」
「わふわふ? モフモフでも可ですが?」
ヒューイの中では『動物カフェ=もさっとした動物をモフるカフェ』という認識になっているようだった。
「ふと思ったんすけど、王都で流行ってる動物カフェがモフれるカフェとは限らないんじゃあ?」
「………………モフれないの?」
「い、いや、俺っちもよく知らないんで断言は出来ないんすけど……」
「……モフれないんだ?」
「どんだけモフりたいんすか!」
「そっか。モフれるとは限らないのかぁ……」
がくりと肩を落とすヒューイ。
「じゃあ和スイーツカフェに一票入れとこー……」
「あ、諦めが早いっすね」
「いるかどうかもわからないわふわふよりも、確実にそこにある和スイーツの方が大事です!」
「……そ、そうっすか」
そして投票の結果——和スイーツカフェに決定した。
動物カフェの敗因は、準備にかかる手間と後始末の大変さだった。生き物を扱うので敬遠されたとも言う。動物カフェ派のこだわりが裏目に出た結果でもある。彼らは計画段階にしてこだわり過ぎたのだ。
対して和スイーツカフェは菓子さえ用意できれば、そこまで手間はかからない。仮にこだわって製菓から行うにしても、その労力は動物カフェの労力の比ではないのだ。その手軽さが和スイーツカフェの勝因であった。
「じゃあメニューは提案者のユストゥスくん一任という事で」
委員長の言葉に次々とあがる「賛成!」という声。
「…………へっ?」
「食べ物に人一倍こだわりがある君の事だからツテの一つや二つあるんだろう?」
「いや、まあ、あるにはある、けど……」
むしろ広めた側であるが、一応和スイーツ発祥の地はエトガル菓子店という事になっている。ヒューイが関わっているのを知っているのは一部の身内のみ。だからか、思わず口を濁してしまう。
「それじゃあ任せたよ、ユストゥスくん。ぼくらは君が選んだメニューが輝くような内装や衣装をがんばって作るからさ!」
そう言った委員長の顔は、やる気に満ち溢れ輝いていた。
*
あくる日。ヒューイの姿は王都にあった。学園祭は運動会と同時開催の一大イベントなので準備期間が長めに取られているのだ。準備に必要であれば泊りがけで学外に出ることも許可されているあたりに、学校側の本気度が垣間見える。
ちなみに今回は一人である。いわゆる初めてのおつかい。エルンストは最後まで反対していたが、王都の治安の良さとヒューイ自身の戦闘能力の高さがあれば大丈夫だろうということになったのだ。いざとなればユストゥス家やハインツの助けも期待できる。それにこの期間は他の生徒も多いので、そう悪目立ちもしない。
「和スイーツカフェって言ったらオシャレだけど、目指すは峠の茶屋的なアレだよねやっぱり!」
今日も『中の人』は絶好調のようである。
「緑茶的なものとかあればもっと良いんだけど……」
今の所、ヒューイが飲んだ事のある『お茶』は紅茶のみである。不味くはない。むしろ高級茶葉で最良の淹れ方をしているのでおいしいのだが、お米の国の人的にはそろそろ緑茶が恋しい。お菓子のお供なら抹茶も捨てがたい。
「ぶっちゃけ三色団子たべたい、まったりお茶したい」
——峠の茶屋だけに。
「……あ。となると、三色だんごの色付け用の素材も探さないと」
緑はヨモギで、桜色は何だっけ……と一人悩むヒューイだが、彼は別に料理のプロでも何でも無いので即座に投げた。
「エトガルさんに聞けばわかるかな?」
本日の目的はカフェで出すメニュー調達ルートの選定である。ヒューイとしては当然、ツテであるエトガル菓子店で決定している。だが、かの店は今や押しも押されもせぬ人気店で大繁盛している。その上ついこの間、材料の不足で制限まで掛けられていたのだが、いまはどうなっているだろうか。
*
「こんにちはー、エトガルさん」
店は意外にも空いていた。時間帯が昼前というのもあるのだろう。簡単に店主であるエトガルと話をすることができた。
「やあ、ヒューイくん。やっと材料の供給が安定してね、新商品が出せたんだ!」
おひとつどうだい? と、エトガルが差し出したのは、丸く焼いた生地が二枚重ねられた物体。あいだには何かしら挟まっているのか、プックリと膨らんでいる。
「ふおー、これって……!」
「ふっふっふ。この商品は題して……クリームあんサンドパンケーキだよ!」
「——クリームあんサンドパンケーキ……クリーム?」
小麦粉と砂糖と卵をふんだんに使って焼き上げた丸い生地で、生クリームとあんこをサンドした一品。たしかに美味いだろう。あんことフワリとした生クリームが同時に口の中で出会う。それは和と洋の絶妙なコラボレーションだろう。だが——
「エトガルさんの馬鹿ぁぁッ! それは——クリームどら焼きはッ」
僕の中では和スイーツじゃなくて、生洋菓子カテゴライズなんだよぉぉ!!
ヒューイ渾身の魂の叫びが、エトガル菓子店及び近所に響き渡った。
——閑話休題。
「——ふむ。これはどら焼きと言うんだね。……で、普通クリームは入れない、と」
「おいしいから別に入れてもいいんですよ? 僕的には和スイーツじゃないってだけな話なんで」
未だ頰を膨らませて告げるヒューイ。微妙なこだわりである。
「そうかい? じゃあ名前だけでも変更しておかないとね!」
ヒューイのお許しが出たのでさっそく張り切るエトガル。
「——で、なんだったっけ?」
「学園祭のカフェスペースで和スイーツを出す事になったんですけど……」
メニューを一任された旨をエトガルに伝える。
「ほうほう。それでウチから卸したいって話かい?」
「まー、それもあります。ただ、おはぎ一品だけっていうのも何なんで、新ネタがあっても良いかなーって」
「おおっ、いいねぇ!」
「あと、エトガルさんに聞きたい事があって……」
「聞きたい事?」
「和スイーツに合う飲み物なんだけど、何か心あたりありませんか?」
そうだねぇと腕を組んで考え始めるエトガル。
「そういえば、東方由来のお茶を取り扱ってる商人が居たような……」
「お茶! それって淹れたら緑色だったり?」
「ああ、そんな感じだったかな」
「ビンゴぉ! その人は何処に!?」
「商業区の市場だけ——どって、ちょ、ヒューイくん!?」
エトガルが話し終わるのを待たずしてヒューイは菓子店を後に全力ダッシュした。
*
「勢いで商業区に来てみたものの……商人さんは一体どこに?」
きょろきょろと辺りを見回してみるが、生鮮食品を売る屋台ばかりだ。丁度、昼食準備の時間帯も重なり客の数はそこそこ多くせわしない。
「どうしたの、少年?」
戸惑うヒューイに声をかけてきたのは、若い女性だった。茶色の髪を後ろで団子にして留めた動きやすそうな格好をした冒険者風の若い女性。
「見たところ騎士学校の学生さんみたいだけど、学園祭の準備かしら?」
「あ、はい。そーです!」
「なにか探し物なら、わかる範囲で教えてあげるけど」
「良いんですか?」
「ええ、モチロン。困った時はお互い様だもの」
女性は冒険者でアナと名乗った。ヒューイもフルネームは伏せて名を名乗る。
「それで、ヒューイ君は何を探してるの?」
「ええっと……噂でしか知らないんですけど、東方由来のお茶があるって聞いて……」
学園祭で出してみたいと伝えると、アナは少し考え込んだ。
「東方由来のお茶っていうとアレかしら。緑色で苦くて渋い」
「それです!」
「それならもっと貴族街寄りでしょうね。嗜好品はどうしても割高になってしまうから」
アナが言うには、嗜好品の類は購買層が貴族寄りになってしまうので、自然とそちらよりの出店になってしまうらしい。
「場所はわかる? 判らないなら案内するわよ」
「お願いしまっす!」
ここにエルンストがいれば間違いなく言っただろう。「よく知りもしない人間について行くんじゃない!」と。
結果だけをいえば、事件らしい事件は起こらなかった。アナは冒険者の中でも善良な部類で、しっかりと目的の屋台までヒューイを案内してくれた。
「らっしゃい! 何かお探しで?」
そう言った商人の前には数種類の緑色をした茶葉が山盛りになっていた。ヒューイが思い描いていたそのままの光景。漂ってくる茶葉の濃い香りが、心なしかなつかしい気分にさせてくれる。
「あの、この茶葉を粉にしたものとか……ありますか?」
ヒューイが探しているのは茶葉だけでない。抹茶もだ。もし無ければ、茶葉を臼で挽く所から試行する必要が出てくるかもしれない。
「ああ、あるよ。あれが欲しいなんてお客さん通だねぇ」
「いや、まあ……」
褒められているのか奇妙に思われているのかイマイチ判別がつかず、あいまいな返答になってしまうヒューイ。
「この粉はどう使うの?」
横で成り行きを見守っていたアナが聞いてくる。
「普通にお茶として飲んだり、お菓子に混ぜたりするんです」
「お菓子に!?」
「おいおい、お客さん正気かい?」
「なるほど! そんな手があったんだね、盲点だったよ!!」
「し、知り合いがそうしてたってだけで——て、エトガルさん!?」
こんなものが菓子にと驚くアナたちに混じって、いつの間にかエトガルがいた。
「店はどうしたんですか!」
「もちろん閉めて来たさ!」
そして全力でヒューイを追いかけて来たというエトガル。ヒューイが欲しがっているものが、どうしても気になったのだとか。あと新作レシピを早く聞きたい一心だったらしい。
「お菓子に対する情熱まじぱないデスネ、エトガルさんてば」
「いやなに、その辺はキミと五分五分だと自負しているよ」
「えー」
「……あの、いいかしら? そちらの方、エトガル菓子店の店長さんじゃあ?」
「おや、誰かと思ったら結構な頻度で来てくれる上得意のお嬢さんじゃないか!」
アナは苦笑いで「知人がエトガルさんのお菓子のファンで……」と答えて、次いでヒューイとエトガルの関係性について問う。まあ、前後のやり取りからなんとなくお菓子関連なのは分かってはいたが。
「彼は和スイーツレシピの提供者の一人でね」
「まあ! そうだったんですか!?」
あんな貴重なもののレシピを……と、ヒューイに尊敬の眼差しを向けてくるアナ。
「その、なんとなく知ってたからというか……」
ごにょごにょと言い淀んでしまう。別に秘密にしている訳ではないが、身内以外に『中の人』の説明をするのは難しい。あと、動機にしても「自分が食べたかったから」なので、アナの眼差しが痛い。
「というわけでヒューイくん。新レシピ早く早く!」
「材料揃ってないからまだ無理でーすーっ!」
「じゃあ探そう、今すぐに!」
「って、まだお茶と抹茶買ってないし。腕引っ張らないでちーぎーれーるーぅー!」
「エトガルさん、急く気持ちはわかりますけど落ち着いて!」
まだ茶葉の購入交渉も済んでいないのに、ヒューイをつれていこうとするエトガル。アナが必死になだめてなんとか落ち着いた。
「——ふむ。で、足りない材料というのはどんな物なんだい?」
手分けして探せば時間の短縮になるんじゃないかと提案するエトガルに、なるほどと考え直したヒューイだったが……。
「ええと……コメを粉にしたものと、ヨモギっていう独特な香りのする葉っぱと、食べ物に赤い色をつける何か……? みたいなー……」
作りたい物がこちらには元々存在しない物なだけに、手分けして探すこと事態難しいのに気が付いた。説明しようにもふわっとした説明しかできない。
「コメを粉にしたものってのは聞いたことがねぇなぁ……だが、『ヨモギ』かどうかはわからんが独特の香りがする葉っていうのは聞いたことがあるぞ」
ここで商人の有力情報。食べられるかどうかまではわからないとの事だが、調べてみる価値はある。扱っている商人はいるかと聞けば、いるとの返答が返ってきた。
「名前はヤスケ。薬草の類いを扱ってる」
薬草と聞いてエトガルとアナは首を傾げたが、ヒューイだけはそれが目的のものであると確信した。ヨモギは薬として用いることもあると聞いたことがあるのだ。もちろん『中の人』が、だが。あと、扱っている商人の名前がいかにもな感じがする。
「その人はどの辺りでお店をだしてるんですか?」
「やつなら、いつもは——」
大体の場所を聞いていざ出発! というところでお茶の手配をしていない事に気付いたりしたが、なんとかそれも済ませて目的の屋台へと向かう。アナもここまで来たのだから、と最後まで付き合ってくれることになった。
「そういえばエトガルさん。食べ物に赤い色をつけるのに良さげなもの知りませんか?」
「お菓子に赤い色をつける、となると……乾燥イチゴの粉末ならあるけど」
「うーん、この際それでもいいかなぁ」
最悪、薬草屋台でヨモギが見つからなかったら、緑のだんごの色付けには抹茶を使おうと思っていた所だ。苺大福というものもあるくらいだし、相性はそう悪くないかもしれない。
「コメの粉はどうするんだい?」
「小麦粉を卸してる業者さんに相談、ですかねー。……エトガルさんツテ、ありますよね?」
「まあね。和スイーツは流行の最先端だから、飛びついてくるに違いないよ」
「ならそっちはエトガルさんにお任せっていうことでー」
話がまとまった所でちょうど目的の屋台にたどり着いた。屋台の台座にはイマイチ何に使うのかわからない草の束がいくつも載せられている。
「いらっしゃい。東方の薬草はいらんかねー」
「あのー、この中にヨモギっていう草はありますか?」
「ヨモギ? ……あぁ、フツのことかな。それならこれだ」
ヒューイの問いにサッと商人が取り出したのは、乾燥させた草の束だった。一枚の葉が大きく3つに分かれギザギザしている。裏側には白い綿毛のようなものが見える。
「煎じて飲めば腹痛、下痢、貧血、冷え性に効果ありだよ!」
「どう? ヒューイ君、この草で間違いない?」
アナが尋ねてくる。その間ヒューイは店主のヤスケに許可をもらい、くんくんと香りをかいでいた。
「この香り……間違いない! 草餅の香り!」
「よし、材料調達の目処はついたね! じゃあレシピ、レシピをー!」
「……エトガルさん。なんかアブナイ人になってます……」
目を血走らせて「レシピ、レシピ」と連呼するエトガルは、何かの禁断症状に見舞われた中毒者を彷彿とさせる。通報されるのも時間の問題だ。アナなどさりげなく距離をとって他人のふりをしていた。
「レシピならちゃんと教えますから今は落ち着いて!」
ここで無意味に捕まって営業停止にされたいんですか!? そう言うとエトガルは大人しくなった。『お菓子作り=人生』の彼からすると、それは大問題だったのだろう。
「ワカッテイルサ、ボクハ、オチツイテイルヨ!」
「どう繕っても無理が……いやなんでもないです。じゃあお店に」
そこで、さりげなく他人のふりをしていたアナが近寄ってきて言った。
「じゃあ、私はここでお別れね」
私も旅の準備があるし……と、切り出す。
「アナさん、ここまで付き合ってくれてありがとうございます!」
「あまり役には立てなかったけれど、そう言ってもらえるとうれしいわね」
新作楽しみにしてるからとの言葉を残し、彼女は雑踏の中へ消えていった。
「いやー、それにしても彼女。貴族かと思ってたんだけど冒険者だったとはねぇ……」
「貴族?」
「うちに来るときはいつも綺麗なドレスを着ていたからね」
仕草も上品だし。とエトガル。
「冒険者な貴族なのかも。僕はそういう人がいても良いと思いますけど」
貴族でありながらグルメハンターを目指すヒューイとしては、アナは頼もしい先達のように思えた。
「よーし、じゃあ店でレシピについて教えてもらうとしようじゃないか!」
「りょーかいです!」
エトガルに返事しつつ、普段の自分ももしかして今のエトガルみたいに見られてるのかなぁと、自省するヒューイだった。




